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とんとんと話が進み、一週間後には敬人の家で泊まり込みの合宿を行うという所まで話が進んで、眩暈を覚えた。即刻で登良はなずなに電話をかけて連絡を取り、詳細を話せば元々そのつもりだったらしく、その間だけ登良のユニット練習は不参加になるのも了承した。そもそも話が来た時点で創や友也、光には言ったらしく、土産話を聞かせてほしいと口々に言っていたらしい。頑張れよ。と背中を押してくれるのは嬉しいのだけれど、やはりメンバーがと口ごもるとなずなは登良ちんらしいと笑っていた。

「真面目だもんな。悩みすぎるのもいいけど、行動に移せよな。」
「うん…」
「ほら、紅朗ちんもいるんだから!気にするな!」
「…うん、俺がんばるよ。」

今日お泊り合宿なんだろう?と言われて、登良の胃がぐっと重くなった気がした。兄と先輩と一緒になるということが、かなり悩みの種だったりする。どうしようと零せば俺たちも行くからな!と言われるので、登良の背筋が伸びた。情けない姿は見せられない。

「に〜ちゃん〜…俺どうしよう。」
「ん?どうした?」
「俺が失敗したら『Ra*bits』の評価下がるよね…俺のせいでライブ盛り上がらないとか…」
「あぁあぁああ!!もう、登良ちん!!!!」
「は、はいっ」
「うじうじすんな!楽しんで来い!!返事!」
「うん!俺、頑張る!」
「よし、じゃあ当日楽しみにしてるな。」
「ありがとう、に〜ちゃん。」

俺頑張るよ。と言ったけれども、その記憶も新しいうちに撤回したくてしょうがない。眼前に広がっている光景に眩暈すら覚えたし、訴訟したくても誘ってきた兄は下見に行っているらしく、集合場所には来ないらしい。

「ねえ!にゃんにゃん、ここが副会長のおうち?」
「…とは聞いてますが。…完全にお寺…ですね。」

あんまり相性がよろしくないのを思い出して、無意識に顔が歪んだけれども何もなかったかのように表情をもとに戻す。振りかえれば階段の下の方に3年生の先輩。正面を向けば2年の先輩。1年生は一人しかいないというのが、わかっていたけれどやはりどこに身を落ち着けて良いのかわからなくて困惑する。

「ほんとにお寺なんだね!ずいぶん立派で観光名所みたいっ、にゃんにゃん写真撮って撮って!ぴぃ〜す!!」
「……はい、チーズ…」

手渡されたスマホにスバルを収めて、シャッターを切る。ぱしゃり。と音を鳴らして端に今撮った写真が写るので、スバルに手渡せば、にゃんにゃん見てみて〜!と登良に押し付けてくる。もしかして、と思って登良はそっとスバルに『にゃんにゃん』って俺ですか?そう問いかけたら、そうだよ!なんて言う。

「だって、ほら。『三毛』『縞』でお兄さん『斑』でしょ?猫の模様ばかりだから、ね?」
「……兎の方がうれしかったかも。」
「にゃんにゃん、『Ra*bits』だもんね。」
「はしゃぐな、明星。朝から元気だな。俺は石段を上るだけで疲れてしまった。ちょっとここに座って休む。」
「おぉ、若さが足りないぞホッケ〜!おじいちゃんか!にゃんにゃんを見習え!」
「ぇ…」

背中を押されて、登良は固まった。えと。そういいながら不安げな瞳で北斗を見上げる。緑の瞳が揺れてうろたえる。そんな姿を見て、北斗はため息を吐いた。明星。お前が幼稚すぎるんだ。突っ走りすぎるなよ明星。『ほかのふたり』が遅れている。先に行かず待つぞ。
そう北斗が言うので、登良はその『ほかのふたり』のほうに視線を向けた。一番上から二息分ほど離れたぐらいで、息を切らした姿がうかがえる。…体の弱い人だとも聞いている。荷物だけでも持つべきなんだろう。そう思って、登良はふらりと階段を下りた。スバルと北斗が登良を呼ぶが、振り返らずに歩く。
生徒会は確かに敵だけれども、それでも一人の人間である。【DDD】の終わりで同じステージに上がって思った事だった。

「荷物持ちましょうか?そのために降りてきたので。荷物も少なければ上りやすくなると思います。」
「登良くん、俺も手伝いますよ。」
「始まる前に倒れては、元も子もありませんし。」

じゃあお言葉に甘えるよ。と少し青い顔した会長から、荷物を受け取り半分を申し出た先輩に渡す。上に荷物を置いてきたので、比較的登良の方が身軽なので手提げのバッグ一つだけを渡してから登良は階段を上りだした。一番上に上がったころには、先ほどよりも一人増えてて一瞬驚いた。

「相変わらず前時代的な建物だね。お客様に石段を登らせるなんて信じられない。敬人はバリアフリーという概念を理解していないのかな?」
「文句があるなら帰っていいぞ。英智。」

ケンとした言葉に、登良の視線が忙しなく動いた。生徒会の人間同士で争うと思ってはいなかった。この場を収めるほどに登良はここの面々を詳しくは知らない。しいて言えば、かみさまを倒した人間であるから、対等に立ちたくない相手でもある。

「青葉は企画段階で資料集めを手伝ってくれたからわかるが、貴様はなんで当たり前のように、しれっと参加しているんだ。度し難い。」
「だから、サリ〜とウッキ〜の代理だってば。サリ〜と同じ生徒会の先輩と、ウッキ〜と同じ眼鏡要因の青い先輩。」

生徒会長は嬉しそうに、代理が務まるかな。と零していて、登良ははてと首を傾げた。【DDD】で革命を起こした『Tricstar』と『fine』だ。一緒にライブして大丈夫なのかだとか色々大問題起きたりしないのか、そしてこうして頭を悩ましてたらだんだん胃が痛い。そして気が付いてしまった。

「…一年生、俺一人…。」

顔面の血が落ちていくのが十二分に分かった。に〜ちゃんから頑張ってこい。と言われた記憶は新しいが、まさかこういう意味だったとは。真面目に活動して今年の一年が使えないと評されたらどうしよう。『Switch』に宙が、『fine』に桃李がいてそこと比較されるのではないのか、そこで比較して『Ra*bits』が上手じゃないとか言われたらどうしよう。今後の『Ra*bits』にも影響が出る。真剣にやって足りてないって言われたら。そう考えて胃痛が加速した。

「どうしたのにゃんにゃん。」
「…なんでも、ないです…」
「泣きそうだが?」
「……一年生、俺だけで、考えたら胃が…です。」

気にすることないぞ。と言われたけれども、それでも前向きに…できない。どうしよう。でも、ここである程度できるないし、評価を受けたらならば。今後としても活動しやすいのではないのか、そう考えたら前に向けそうな気がする。…気だけである。

「それよりも。荷物、先に部屋に運び込んじゃって大丈夫ですかね?登良くんも重たいでしょう?」
「俺は慣れてるんで大丈夫ですよ。」
「ずいぶん荷物が多いな、青葉も三毛縞も。泊まり込みとは言えほんの数日だぞ?何をこんなに、ぎゅうぎゅう詰にしてきたんだ?」
「…これ、天祥院先輩のです」
「あいつ!!あとで文句を言っておく。」
「あぁ。そこまで怒らないで上げてください。」

登良が言うよりも、そのいきさつをつむぎが敬人に話をした。それを聞いてふむ。と頷いてから、とりあえず礼を言うと同時に敬人は英智の方に消えていった。とりあえず行きましょうか。とつむぎに言われたので、登良は首を一度縦に振る。つむぎは部屋はどちらですかね〜。なんてのんきな声を上げて寺の中に入ろうとするので、登良はその後を追う。…ふと、頭の中に幼馴染の神さまが浮かんで、相性が悪いっていっていたなぁ。なんて思い出しながら寺の中に進んで、荷物を置きに行くのであった。



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