謎。





登良は職員室に用事があったのですこし速足で廊下を歩いていた。こんどの空手部はいつだったか、次回の練習日は…、とりとめのない事を思い出しながら歩いていると、向こう側から斎宮宗がやってきた。…春の終わり頃にコテンパンにやられた相手で、なずなに一年の登良たち四人を土産として帰ってこいとも言っていた相手だ。光をべたに誉めて人拐いの如く動いた学院の元奇人。かつてこの学院で頂点を走っていた彼の視界から逃れるように廊下の端へと寄るが、それでも幅の狭い通路だ。逃げれるわけでもないの。斎宮宗は登良の前で足を止めて選定するような目で登良を見た。

「君は…仁兎のところの?」
「…こんにちは。」

相手は目上の人間で挨拶として、ぺこりと頭を下げて横を通りすぎようと思ったが、叶わず脇下に手を入れられて掬い上げるように持ち上げられた。紫にも似た瞳にはっきり写るような登良の緑が見えた。

「あの…?」
「相変わらず、瞳と髪のコントラストが美しい。本当に君はあのような粗雑な男と本当に兄弟かね。」
「まぁそうなんですよね…嫌なのですが。」

同じ髪色同じ色の瞳を宿すのだから、それは似るだろうと登良は頷く。じろじろと見られることに慣れてない登良は居心地悪そうに身をねじらせる。宙ぶらりんの現状が居心地悪いと主張するが、斎宮宗は変わらずまじまじと観察を行う。聞こえるか聞こえないかぐらいで呟く言葉は時折物騒なものを孕んでいる。

「あの…そろそろ離してもらってもいいですか?通路なので!!」
「あぁ。そうだったね。」 

素材がいいから、つい観察をしてしまったよ。そういいつつ斎宮宗は登良をおろして、名残惜しいのか頭を撫でて去っていった。なにがどうだったのかよくわからないまま登良は機嫌良さげに去っていくのを首をかしげながら見送った。…なんだったのだろうか?今一理解にかける。比較的こわい人だと初回に持ってしまった印象は、少し不思議でこわい人に書き換えがおきた。ふと我にかえって、目的を思い出して登良はあわてて目的地である職員室に駆けだしたのであった。




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