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なにだろう?と言う。忍や翠とも交替してホースで虹をつくっていると、両手いっぱいに荷物を抱えた桃李が帰ってきた。

「おまえたち、シャボン玉で遊ぼう!前に商店街で遊んだ時に買い占めたんだよね〜」

本当は創と遊ぼうと思ってとっておいたんだけど、特別にお前たちもあそんでいいよ!と言いながら。紙コップのようなそれをいくつか広げる。たくさんあるね、と言いながら、登良は桃李の支度を手伝うためにシャボン液を小さなコップにいくつか分けて吹き具を宙に渡した。

「宙はシャボン玉で遊んだことがないです!姫ちゃん、どうやってあそぶか教えてくれます?」
「仕方ないなぁ、液体にストローをつけて吹けばいいんだよ、ボクがお手本を見せてあげる!登良、ストロー頂戴。」

はいどうぞ。とシャボン液とストローを渡せば、桃李はすぐさま液にストローを一度軽く沈めてから、吹き口に口をつける。ふーと息を吐き出すのと同じタイミングで、シャボン玉が放たれた。ふわふわ空に昇っていくそれをみて、宙はわぁ!と声を上げる。キラキラした瞳をしてるのを確認してから、登良は「忍も翠も。はいどうぞ。」とシャボン液とストローを差し出す。残念なことに紙コップは有れどストローは4つだけだったのだ。それを指摘されたが、登良は大丈夫だよ。と笑って、コップに多い目に液体を入れて自分の指先を入れた。何本入れても変わらないので、とりあえず人差し指と中指だけだが。もうすこし大きい容器があれば、もうちょっと楽なんだけどな。と思いつつしっかりと指の根元までしっかり濡らす様に一通り押し込んでから、輪を作るように中指を少しだけまげて空間を作ってから引き抜くとうっすら虹色の膜が張ってるのを確認出来た。ふう。と軽く息を吐き出すと大きなシャボン玉になって、宙に浮いた。

「そうやってつくれるのでござるな!登良くん」
「登良くんって機転がよくきくよね。」
「まぁ、兄とかによく小さな頃から言われてるからね。…まぁ、やりにくいからやらないけど。」

三毛縞殿でござったな。ほら、みんなでシャボン玉しよ?翠の手を掴んで宙達のほうに寄ると、はしゃいでいる宙の手に持った紙コップからシャボン液がこぼれた。

「楽しいな〜!姫ちゃんの妹も嬉しそうです!」
「かわいい顔で笑ってる。シャボン玉ぐらいならできそうだし、あとで持って行ってあげようかな?」

喜んでくれてボクも嬉しい!満面の笑みで笑む桃李を見て、登良はホースに持ち替えて虹をつくることに集中することにした。ふわふわ空に浮きあがっていくシャボン玉を見上げた。
小一時間遊ぶと地面はどろどろで、登良たちはびしょびしょになりながら、シャボン玉を飛ばしたりしていた。シャボン玉の液も切れてしまったので、ここでお開きにする?と提案すれば、そうだね。と相槌がちらほら聞こえだす。

「びしょびしょ〜。でもすっごく楽しかった!」
「宙も楽しかったです!またみんなで遊びましょう!」
「今度は創もね?」

みんなでクスクス笑っていると、弓弦が帰ってきた。どうも、手間がかかって時間が遅くなったらしい。そういう報告をしていると、おや?と全員を見回した。登良はぎくりと体が一瞬固まった。頭から水を被ってしまった事もあり、髪の毛はかなりの水を吸っている。ゆるく縛った髪の毛からも水が滴り服を濡らしている。

「なぜびしょ濡れなのですか。通り雨でもあったのですか?」
「いや実は…もがっ!」
「うん!いきなり降ってきてビックリしちゃった、弓弦。着替えをとって来てよ。あと、タオルもお願い!」

嘘を吐くのはおやめなさい。三毛縞様が苦しがっていますよ。
桃李は弓弦に指摘されて、そっと口元を抑えていた手を離した。シャボン玉を扱ってた手が口の中に入ったこともあり苦い。ちょっと顔を顰めたが、すぐに消えた。

「ホースで水を使って遊んでいたのでしょう、ほら、しっかり証拠が残ってますよ。」
「ごめんなさい、嘘を吐いたのは謝るよ。」
「…あの、伏見先輩…」

話を切り出そうとしたら、宙が大きく頭を下げた。今回宙がやりだしたので、桃李を叱るな。という申し出に。弓弦が一瞬たじろいだ。一度考えてから、弓弦が桃李の巻き込みではないのか?と言い出すので、登良は首を振って詳細を説明する。話していると、忍も翠もうんうんと相槌を打つ。一通り言い終えると、顎に手を置いていた弓弦が、頷く。

「状況は理解できましたが、ホースで虹を作って遊んだりシャボン玉を飛ばしたり、おおよそ高校生がする遊びだとは思えません。」

大きい釘が刺された。五人とも小さくうっと零して、肩を落とす。…その通りで返す言葉もない。もう一度頭を下げようと思ったら、桃李がべつにいいじゃん。ボクは楽しかったんだしさ。と弓弦の主張を突っぱねた。

「ああいう場所でおしゃべりしたり飲み食いするのって、微妙に気を遣うし、み〜んなボクにペコペコして主人と従者みたいな感じなんだよね。ここにいるみんなは、ボクと気兼ねなく接してくれるし、ボクもこいつらには気を遣わなくていいんだって、今回の事で実感できた。たぶん、これって。こいつらがボクの友達だからだよ。だって友達となら、どんなくだらない遊びだって楽しいって思えるもんでしょ?違う?」
「本当に。お変わりになられましたね。わかりました、今回は不問といたしましょう。」

まわりの息をのむ音が聞こえた。不問。というのがうれしいらしい。ちらりと宙を見るとちょっと安心した様子で登良は、そっと宙の肩を叩いた。
それよりも、坊ちゃまも皆様含めてびしょ濡れですし、御風邪を召されますから、お風呂に入ってきてはいかがです?
弓弦の申し出に、あれやこれやと思考を回す忍の声が漏れる。風呂にマーライオンが居て、水を…というが、きっとそれはきょうび銭湯でしか見ないものではないのか?と登良が口に出すと、登良くんでも銭湯とか行くんだ。と翠が零す。

「兄に連れられてね…。あの人ふるいの好きだから。知らないけど。」
「大変だね。」
「いる?うちの兄貴。」

いらないよ。あの人こわいもん。だよねー。翠とクスクス笑う。

「ジャグジーつきのお風呂で窓の外からも庭が見えるよ。サウナもあるし、休憩スペースもあるから自由にくつろいじゃって良いからね。」
「どっかのホテルみたい…俺、あんまり高そうだと怖くて触れないんだけど」
「大理石とかわれやすいけど、もともとそんな石だし。大丈夫だよ?」
「登良くんって、妙に上級界流に慣れてると言うか…」

大きなお風呂なら泳いで遊べるな〜。…まぁいっか。
駄目なら桃李が叱るだろう。主でもない登良が怒るのは道理が違うと判断して、開きかけた口を閉じた。

「ねえ、弓弦。部屋はいっぱい余ってるんだし、お泊り会してもいいでしょ?」
「明日もお休みですし、かまいませんが。皆様のご家族に承諾を取ってからですよ。」

じとりと弓弦の目が桃李を見るが、桃李は気にすることもなく、条件を飲み込んで満面の笑みでお前たち聴いたでしょ!と言い出す。そんな音を認識すると同時に、一度家に帰って荷物を取りに戻ると同時に朔間さんたちの宿題を片付ける時間というのが消滅したと察する。

「ボク、友達とお泊り会って初めてだからわくわくしちゃうな〜、もちろんおまえたちもだよね?」
「宙は嬉しくて飛び跳ねちゃいます!宙は着替えを持って来てないな〜、なので家に取りに戻りますね?」

お客様用の着替えならたくさんあるし、それでよければ貸してあげる。……どうやら。取りに戻る時間もないらしい、大きく口を開けて言えることでもないスキルと、提出期限の決まってない宿題だから、それはそれでよいのだが、とりあえず今日中に原案になりそうなものを考えねばならないな。と頭の中のメモに記録した。桃李たちがわいわいと談笑していると、館の方から弓弦が急いで戻ってきた。

「ぼ、坊ちゃま〜!これは、いったいどういうことでございますか!?」
「ひいっ!?」
「……そういえば、ゲーム片づけてなかったね。」
「片づけるの忘れてた!!」

桃李の大きな声が庭中に広がった。





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