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深海がそのまま歩いていくので深海の隣に登良が並びそこから少し離れて羽風が追いかけに来る。深海に解説を受けながら館内を回りつつ歩いていくと、大きなプールに人影が一つ見えた。げっ、と声が出たらあれぇ?と羽風もその陰に気づいたようだ。兄の斑がそこでイルカに餌を与えている姿がそこにあった。

「やっぱり……こぉら、『いるかさん』に『えさ』をあげないでくださいね?」
「おお?誰かと思えば奏汰さん!会いたかったぞお!おいでおいでおいで、奏汰さんにも餌をあげよう!」
「普通の人はそういう食べ方をしません。」
「おや、登良くんも一緒だったかあ!」

バケツを置いて駆け寄って抱きついてこようとするので、登良は深海を間に入れて距離を測る。ぎりぎりと睨み合いながらも、奏汰は『なま』でたべたら『おなか』をこわしちゃいますよ。せめて、さばいて『おさしみ』にしないと。おっ、捌くか?と斑が反応する。

「水族館の餌になる魚は傷んでることが多いと聞きますが?」
「でも包丁が手元にないしなぁ、イルカさんのぎざぎざの歯で代用できるかなあ?」
「無理でしょうに」

呆れていると、羽風が追いついたらしく、羽風は深海になにかあったの?と問う。深海と兄の仲がそこまでよくないと記憶していたので、不安そうに視線を動かせば、深海がとてもいやそうな顔で『ごろつき』がいました。と零している。

「ごろつき?あぁ、三毛縞くんだ、やっほ〜。こんなところで何してるの?」
「おお薫さん!ははは、同じクラスの子とこういう場で会うのも新鮮だなあ!」

登良くんと一緒ということは薫さんも行方をくらませてた奏汰さんが心配で探しに来た感じかなあ?
首を傾げる斑にあるていどの説明を重ね補足を羽風が入れる。いつからここにいたの?と聞けば、どうもメールを送る前には水族館に入っていたらしい。

「奏汰くんが急に水槽から出て良いって言われたんだけど、もしかして三毛縞くんの差し金かな?」

俺が説得しても、奏汰くんは「『いやです』ちゃんとおしおきをうけます」って梃子でも動かなかったんだけど。何かどっかで誰かが動いてくれたのかなって。三毛縞くんだったわけか、そういえば奏汰くんとは幼馴染で仲良しだっけ?
羽風の問いかけに、深海が喰い気味で否定を入る。登良に関して触れないのは、小さなころに親に連れられてきた記憶はあるがそこ以外の記憶は曖昧でよく覚えていない。むこうも覚えてないのだろうか。

「ともあれ、まあお察しの通り、登良くんから連絡を受けて、俺が奏汰さんの事情を調べてから、ちょっと上から圧力をかけてみたんだよなあ。薫さんたちと違って、あんまりそういうのを活用するのに抵抗がないからなあ」

立ってるものは親でも使え、筋肉だけでは解決できないことばかりだぞお?今は、その経緯と効果を見定めてるところだ。登良くんもいずれ覚えるスキルになるとおもうぞ?。そのせいで水族館の職員さんがバタバタしてるし、待ってる間は暇だから代理でイルカさんたちに餌をあげてるんだぞお。いちおう言っておくが、許可を得てるし資格なんかも一通り取得しているから大丈夫だぞお。俺はどんな仕事もテキパキこなすぞお、次は水槽のお掃除とかをする予定だ!登良くんもやるか?
だれもたのんでませんよ。とじっとり睨んで深海は主張を行う。深海と斑の二人の間にはどうにも大きな溝があるようだ。どちらかというと登良は兄よりなのかもしれないと考える。

「優しいいい子が我慢することで成立する平和なんか糞喰らえだ」

兄の声を聴いて、不意に春に初めて立ったライブがふと頭の中をよぎった。革命が行われる前の初めて立った観客が二人だけのライブ。兄の言葉からどうしてそれを思い出したのかもよくは解らないが頭から抜けきらないでいた。




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