5





羽風と共になんだかんだと交渉と説得をして深海を水槽から出すことに成功する。相変わらずのほほんとした深海にやきもきしたのか、羽風が深海の頬をつねる。年上ばかりの空間に登良はえ?と固まって二人の間を視線があわただしく動く。それでも深海は魚に関する話をし続けているので、これについてどうしていいか困惑する。

「奏汰くん、必死に話を逸らそうとしてるんだと思うけど、むしろ単なる天然ボケなら温厚な俺もキレるけど……ねぇ、みんな本当に心配してたんだよ?」

守沢くんとか颯馬くんとかさ、あんずちゃんとか、もちろん俺もね、貴重な休日を返上してまで奏汰くんのために動いてるの。優しさや気遣いの押し売りって、俺の流儀じゃないんだけどさ。さすがに、せめてちょっとは後ろめたそうにしてくれないと腹に据えかねるかな。
羽風の目が笑ってないので、登良は暴れたら止めますよ。と念を押す。公共の場で暴れるとは思えないができるならば、学院の印象にもつながるので止めるべきだと登良は思う。深海はおせっかいをかけなくていい、というがそうではないと羽風が言う。暴れないかとハラハラしてると、大丈夫だから安心してと羽風に宥められるが、登良は二人のやり取りをただただ見つめるだけにした。

「かおる。『せくしぃ』ですかね?」
「うるさいなぁ、もう!むしゃくしゃする!」

うひぃっ。情けない声が出たが、気にもされてない様子で、小さく胸をなでおろす。羽風はやめとけばよかった休日を無駄にした。と怒りながらも深海の頂点に生えた毛を引っこ抜いてやろうかと口にすると、深海が抜くと死ぬからやめてください。と笑う。

「なれない『まじめなはなし』をさせてごめんなさいね、かおる。ちゃんと『りかい』しましたから。」
「こういう話を真顔でできる連中とはぐれちゃったからね。俺がするしかないじゃん。奏汰くんは見つけた時に対処しないと取り逃がすし」

懇々と奏汰に話をする羽風を見て、登良はこんな人だったのか。と改めて思考する。創からきいたことある姿とは全然違う。彼も彼で、深く考えてるのがよく解った。意外と根っこはビジネスであふれている様子ではあるが、根が悪いという人でもないんだろうと登良は判断する。

「あぁ、三毛縞くんの弟くんも今日の俺の話はしないでね。あんまり俺らしくないし」
「…そうでしょうか?」

俺はあんまり上手に言えませんけど、羽風先輩は人をよく見てると思いますよ。深海先輩へ釘を刺すあたり。思いやっていないと言えない言葉だと思います。やっぱり『UNDEAD』の先輩はみんな優しいですね。まっすぐ羽風の目を見て登良はそう伝えると、視界の端で深海が動いた。

「奏汰くん?ちょっ、フラフラ〜ってどこ行くの?登良くん、だっけ?一緒に行くよ」

もう脈略のない行動はやめてよね。と言いつつ羽風は深海を追いかけて人ごみを縫うように歩きだす。登良はそれにしたがって、羽風の後ろで深海を見失わない様に二つの背中を見つめながら登良は二人の後を追いかける。大きな通路に出たところで羽風が深海を捕らえ、一旦足を止める。

「んもう!奏汰く〜ん、いいかげんにしないと投網で捕獲するよ〜?」
「他の人に迷惑のかからないとらえ方してください。」
「意外と登良くんも頑固だよね。どうしたの急に?どうも屋外に向かってるみたいだけど」
「いえ、あれならかおるもごろつきのおとうともこのへんで『まってて』くださいね」

いやいやすごい人ごみだし、見失っちゃうってば。そしたらまた合流するまでに一手間かかっちゃうでしょ?ねぇ登良くん。
いきなり名前をよばれたので、登良は一瞬二人を見てから…………そうですね。と声を出す。神崎とそういう約束をしたのだ、二人をせめて羽風を連れていかねば。本来の目的を思い出して、登良はゆるやかに意識を切り替えた。深海はそのままにっこり笑って大きな通路をまた歩き出した。




[*前] | Back | [次#]




×