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レッスンの休憩中にだらっと部屋を出て購買に向かうために歩いているとと兄の斑と出会った。アイドル科なんて広いのにどうして遭遇するんだ。そう思考が条件反射で反応するとともに表情が歪んだ。そんなのも気にせず斑は、いいところにいたなあ!と笑いながら登良を掴み斑は駆けだした。全速力で走っていく兄の腕にかみつきながら、離れるように叩いたりしたが効果はない。校内で走るな。という怒声を置いていきながら、登良は胃が痛くなってきた。そのまま運ばれていると、斑はとある部屋の前で止まってガラガラと扉を開いた。夢ノ咲学院の中でもよく見られた光景になってきているのではないかと考えると尚も痛い胃が一層痛くなった。

「失礼しまあああす!」
「煩い!」
「驚天動地!急に声をかけられたからビックリしたぞお、零さん」

何の用だかは俺如きには想像もできないが、丁度暇だったからどんなことでも片づけて見せよう!登良くんも一緒にと言われたのできちんと連れてきたぞ!

「……俺も?」

朔間先輩との話をしてからしばらく経ってはいるが、伺うタイミングすら伸ばしていたのもまた事実。答えは出ているが、相談はしてない。必要となったら。そう答えようとは思ってはいるが、スキルとして得ても問題はないと考えている。それを兄に伝えるか、朔間先輩に伝えるかで迷ってはいた。が切り出すタイミングはここでいいのかと思考をする。

「棺桶が壊れて修理が必要なのかあ?それともアイドルとしての助っ人かあ?」

どんなことでも気楽に頼んでほしい!俺がビルの解体でも旅券の手配でも密輸でも人殺しでもなんでもやってやろう!ははは!この際だから登良くんにも教えようか!おぬしが言うと冗談には聞こえんのう、三毛縞くん。我輩でなければドン引きするので、過激な言動は控えるとよいぞ。弟くんがおびえてるではないか。
そういった零の赤い目が登良を見て、登良は小さく息を飲んだ。この間の結果を出せてないのもそうだし、この場をどうやって逃げるかと思考を巡らせるが。いい方向に逃げれない。

「恐悦至極!これは失敬!零さんに頼みごとをされるなんて珍しいからなあっ、ついテンションあがってしまった!」
「相変わらず兄弟で差が激しいのう……発言の内容も声量も抑え目にするがよい、おぬしはただでさえ威圧的なんじゃ、無駄に他人から特に弟から怖がられたくはあるまい?」

兄と零のやり取りを見ながら、登良はこの場に呼ばれた意味がいまいち解らずに首を傾げる。斑はカラカラ笑っているし、零は呆れを表情に出している。二人が会話を繰り広げているのでそのまま二人の会話を耳にしながら、周りを伺う。ドラムセットと高そうなアンプたちに棺桶。色々なものがあるのが不思議で奥の部屋にはギターなどが転がっている。

「お説教をするために呼び出したのではない。のんびり休日を過ごしてたじゃろうに老人の繰り言につき合わせてすまんのう。三毛縞くん。」
「謝罪など結構!言っただろう、今日は暇を持て余していたんだよなあ!零さんと登良くんとなら会話になるし、延々とこのまま日暮れまで無駄話をしていたいぐらいだぞお!」

冗談じゃない。兄と一日同じ部屋にいるだなんて。登良の表情が歪んだ。一緒にいるのでさえ暑苦しいのに、どうして一日。と喉まで出かけた。上には逆らうなの精神を持っているからの条件反射でもあった。

「三毛縞くん、なぜか廊下を走り回っておったし、登良くんも忙しいじゃろうて」
「飯食べに行く最中に誘拐されました。」
「それはそれは、棺桶の中に食料があったからそれを食べるか?」

終わったら食べに行くので大丈夫です。と緩やかに首を振って辞退する。そうかと零は返事をして、ならば、登良くんの本題に入ろうかの。と言われて登良は居住まいを正す。そう畏まらくてもよい。登良くんの師は己の兄になるのじゃからの。

「この間の話の腹は決まったかね?」
「朔間さんと登良くんで内緒の話かあ?」
「三毛縞くんの後継者の話じゃよ。」

いつかまた学院に姉妹校ができた時誰もスキルを持ってなかった。というのはあまりにも残念じゃからの。卒業前に誰かに渡してもよいじゃろうと考えておる。産まれたばかりのユニットの一年ではあるが、三毛縞くんの弟じゃし、才覚もスキルも申し分はないじゃろうて。

「登良くんが俺の後継者…?」
「で、どうじゃ。腹は決まっているのかね?」

無いよりかはある方がいいとは思う。持ってて有利なら持っていたい。卒業までの間ゆっくり少しだけでも覚えたい。そう伝えれば、朔間と斑が一瞬アイコンタクトを取って斑が口を開く。「登良くん本気で言ってるのか?」と問えば、登良は「いつか、それが自分の糧になるならば。いいと思う。」と返答した。兄がどう考えてるかわからない。キャンプの相談がこうして転んでいくのだから不思議だと思う。持ってて不便はあると思うが、それでもやっておきたい。なんて登良は思う。ちらりと斑を見ると嬉しそうに頬を緩めていた。

「登良くん!ママは嬉しいぞお!」
「暑いから寄らないでください。」

嬉しくて抱きかかえてくる兄をぴしゃりとシャットアウトしていると、零は手厳しい弟じゃの。と陽気に笑っている。まぁ、我輩からもたまに声をかけると思うが、基本は三毛縞くんから教わるとよい。我輩からの用事があるときは三毛縞くんを通して連絡をいれるからの。まぁ、三毛縞くんからいっぱい教えてもらうがよい。と満足げに笑っている。これで兄の考えが少しは解るのだろうか考えるが、あまり何とも言えない。やってみないとわからないのかもしれない。と思考を巡らせていると、零から「我輩から、登良くんへの話はこれでしまいじゃよ。」なんて言われて、腹もすいておるのじゃろう。と暗に飯に行けということだろうかと判断して、登良はそのままお辞儀をして部屋から立ち去った。
購買で食料を買ってレッスン室に戻れば行方不明騒動が出ていて、登良は兄に連れ去られてました。と力なく笑うのであった。誘拐されるのもある程度知られてるので、ご愁傷様。と声をかけるので登良はとりあえず後継者の件は伏せておくことにした。




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