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そうして練習を続けて、【ライブパーティ】当日。
登良は黄色のウサギの衣装に着替えを済ませて外に出ると、光が真っ先に駆け出すので全員で追いかける。登良は殿を勤めながら、のんびり歩いていると、みんながにぎやかに笑っていた。後から追い付く形になったので、回りを眺めていると、天を割らんとする勢いの悲鳴が耳に入った。音の方を見ると、ジェットコースターが遠くに走り去っていた。

「ぼくも初めて乗ったとき、おっきな声を出しちゃって恥ずかしかったです。だって、あんなに登ったり降りたりするとは思わなかったんですもん。」
「さっきのもそうだろ、ジェットコースターって叫ぶのも一種の楽しさみたいなところがあるから、」
「良かった、何事もなくって。」
「さっきの悲鳴……」

どこか聞き覚えのあるような。どこで聞いただろう?と首を傾げていたら、ジェットコースターがまた一周して登っていく。やめて!ロン毛!と叫ぶ声が聞こえて、もしかして。とゆるゆる視線をジェットコースターに向けると、先頭に桃色が居た。はて、と思いながら心当たりの名前を舌に乗せた瞬間、頂点を越えたジェットコースターが加速し出した。

「桃李……かな?」
「えぇっと、姫宮くんと、日々樹先輩ぽいですね?」
「ふたりで遊びにきたのかな?」

創と一緒にどうだろう?と二人で首を傾げていると、向こうの方から日々樹と真っ青な顔をした桃李が表れた。やっぱりさっきのは桃李の叫び声だったんだねと二人で話しているとなずながライブを観に来てくれよ。と声をかけている。ふらふらと歩いていた桃李が椅子に腰かけてぐったりしている横で、大きな声で、日々樹の応援を聞く。

「いいなぁ、オレたちも遊びたいんだぜ!」
「この間遊んだだろ〜、まライブは夜からし、時間があるっちゃあるけど。やることがたくさんあるからな、あっという間に本番になっちゃうぞ」

前はに〜ちゃんと遊べなかったし、ゆうちゃんやひなたちゃんとも遊べなかったんだぜ、だからこそ今日はみんなでいろんなアトラクションに乗りたかったのに〜。と肩を落とす光に、登良は小さく光。と制したが、時すでに遅し。しっかりゆうたの耳にも入ってて、じろり。とはいかないが、アニキも遊園地にきてたの?と投げる。

「あ、あのたまたまあんずさんに遊園地のチケットを貰っちゃってさ〜?決してゆうたくんを見にいった訳じゃないよ?」
「えっ、でも、ひなたちゃんはゆうちゃんが頑張ってる姿を見に来たって言ってたんだぜ?」
「光。お口チャック!!」

無理矢理光の口を押さえたが、だめだった。眉にシワを寄せてゆうたはひなたにに詰め寄る。どういうこと?俺、今回はまかせてって言ったよね?それなのにこっそり見に来てたんだ?問い詰める口調に、ひなたはたじろいで、悪気はなかったんだよ。と言い始めると子ども扱いしないでよ。とゆうたが怒ったが、ライブで俺にもちゃんと出来るんだって事を証明してあげる。と実質的挑戦状を叩きつけた。そんなのを聞いて、小さく悲鳴を上げた。
まさかこんなことになるなんて!もうちょっと光には強く言おうと心に決めた瞬間でもあった。微妙な空気をどうするかと登良は見回していると、状況を見かねたあんずが打ち合わせ始まる時間だよ!と教えてくれたので、みんなで移動を開始する。そこから共演するアイドルに挨拶したり最終打ち合わせなんてしてるとあっという間に夜だ。
夜がくるから、と少し登良は怖かったが、ライトアップされた機械や、大きな花火がうち上がってみんなで騒いで記念に写真を撮ったり。チーム毎で円陣を組むので、登良はどちらのチームとも組んで、色々していると恐怖もどこかにすっ飛んでいった。
ライブが始まれば、主演のアイドルを挟んでダンスバトルを行うので、不利になるチームの側に多くついて、時おり主演を持ち上げるようなパフォーマンスをいれつつ、登良はずっと踊りっぱなしであった。その経緯も打ち合わせの時に場持たせのためになにか。クライアントに言われて提案したのがブレイキン。だった。一度軽くやってみると好評のようで、主演が衣装替えをしている間が登良のソロとして扱われる事になったのだ。
主演のアイドルが駆けていくのを確認して、赤と青のチームがステージ一杯に広がる。その中心で、登良はラビット、チェアーからのジョーダンそしてクリケット。見映えも踏まえてのトリックを決めれば、会場が大きく沸いた。規定の時間内にアイドルたちが戻ってきたので登良は立ち上がって一礼してから最後に後ろに宙返りをしてから友也のところに寄っていくと、おつかれ。なんて労いの声をもらって、登良は頬を緩ませた。

「登良はどこであんなの覚えるんだ?」
「……動画?」

短いのを二日とかかけて見てると覚えれるよ?その感覚がわからない。友也に呆れられて、光はまた教えて!と言うので、登良はタイミングがあればね。と笑って、次の持ち場に移動しているとひなたとゆうたに巻き込まれつつ、三人でパフォーマンスを展開して、友也たちと先程話していた内容がここでも繰り広げられたので、同じ内容を伝えると、登良くんって目がいいんだね。と言われてちょっと恥ずかしくなるので、ひなたとゆうたを手早くあしらい、そのままステージを横断してなずなと創の支援に回る。次の曲は、創が苦手としていた曲だからだ。

「創。」
「登良くん、ソロお疲れさまです。」
「次の曲が始まるみたいだ、創ちん、歌詞と躍りは覚えてるな?」
「たくさん練習したので大丈夫です!」

頑張ると意思を示す創に、フォローするから、おもいっきりやろう。と登良は声をかければ、創が大きく頷くと同時に最初のメロディが流れ出した
。なずなもなんだかんだと創に声をかけてるので、おそらく今回は成功するだろう。と登良は思う。ゆうたと特訓をした後から成功率が上がっているのだ。二人が踊り始めるので、登良はそのまま踊り始める。順調に事を運びそして、問題の躓きのメロディが始まる、登良は創の様子をみつつ振り付けをこなしていく。

「わっ、とと?」
「大丈夫か創ちん?」

なずながそっとフォローにはいるので、登良は回転数を増やして、視線を集めるように踊る。問題のメロディーラインを越えてしまえば、あとは問題ないだろうと判断する。違和感に映らないように見えただろうか?あとであんずに頼んでビデオを入手しなければ。そんなことを考えながらも、音楽はラストのサビにはいる。そのまま音が鳴り止むまで踊れば、割れんばかりの大きな拍手が響き出す。登良は一礼してから、創の手をとって笑う。

「転ばないなら、成功!次は成功しよ!」
「登良ちんもソロお疲れ」
「ほら、観客席を見てみろよ。二人とも」
「わぁ、みんな拍手してくれてます。注目されて恥ずかしいですよ〜」

照れて登良の後ろに隠れようとするが、登良の方が小さいのだ。俺で隠れれないよ。と登良は笑った。ダンスバトルと言えど登良は最初から最後まで踊りっぱなしで、ブレイキンまで組み込んでいた。とても疲れたけれど充実感に満たされているが、まだ終わりではない。登良の後ろに隠れたのを見て、なずなはカラカラ笑った。

「創ちん、アイドルなんだし、注目されることにも慣れていこうな。」
「ほら、創。手、つなご?」
「はい!」

キラキラ光るサイリウムの光と大きな拍手。もしかすると自分達に向けられたモノではないかもしれないけれど。今はこの余韻に浸っていたいな。初めて登ったあのステージから俺たちはここまで来れたのだ。きっともっと高く飛べる。そう思えた気がした。創の手が重なる。二人で照れたように笑うと、反対側の手はなずなが重ねた。小さな事が嬉しくて、登良はくしゃりと破顔した。そこに光と友也がやって来て聞き慣れた楽曲が耳にはいる。ここからは『Ra*bits』と『2wink』のメドレーだ。ライブはまだまだ終わらない。

「注目を集めているこの瞬間、全力で持ち歌を披露するんだ!子兎だって集まれば獅子に匹敵するんだってところを見せてやろう!」

行くぞ『Ra*bits』ファイト!オー!
なずなの号令で弾けるように飛び出せば、チームカラーのサイリウムが音に合わせてゆれるのを見て、登良は幸せそうに頬が緩まった。



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