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そんなこんながあった遊園地の翌日の放課後。今日はひなたゆうたのユニットと合同練習日。レッスン場で柔軟体操をしていると、ひなたとゆうたがやってきた。二人が入ってきたのを確認して、登良は途中だった柔軟体操を済ませて輪に入ると、ゆうたがダンスバトル形式のでやってみたいと言う。

「お互いの力量を確かめられるし、アドリブ力も鍛えられそうだな。今日のレッスンはダンスバトルでいこう!」

最初にやりたいやつがいたら挙手しろーとなずなの声を聞いて、ダンスバトル。について考えてみようとおもったが、光が真っ先に手をあげる。対する『2wink』からゆうたが出るらしく、レッスン場の真ん中に二人が並ぶ。本番でも使われるメインのアイドル曲が流れ出す。音に合わせて、器械体操を混ぜて躍りを作り上げていく。反応するようにゆうたも負けじと光に追い付き、そのまま回転まで増えていく。彼らを見ながら、登良はここならばと思考をフルに動かして、対策を練り上げる。俺ならばどうするだろう。と考えながら、一人小さく言葉を舌に乗せて技を組み立てていく。この間家で見た動画の振りが頭を過ったので、そこ中心に据えて脳内で一通り作り上げて顔をあげると、創と目があった。

「登良くん、ぼくらもどうですか?」
「ん……うん。大丈夫だよ。考えは纏まった。次の曲からにする?」
「サビから行きましょう!」
「わかった。やろっか。」

ほかの邪魔にならないように距離を取ってから、サビがなるまでに頭のなかで想像をする。イメージはできた、音が鳴ると同時に高く飛び上がり、トゥエル。ロッキンやポイントを主に使った即興の振り付け。変則的に飛び、スクービードゥーで締めると、登良ちん?と少し困惑したなずなの声が聞こえて、ハッとする。そうだ、今は練習中だった。音が止まって、顔をあげると視線が集まっていることに気がついてまるで油の切れた機械のように回りを見回して、登良はやりすぎた?と細く声が出た。
「登良ちんは。レッスンだし、アドリブ力のためにやってるから全然問題ないから、」そう歯を見せて笑うなずなの返答に登良はほっと胸を撫で下ろした。

「登良ちゃん、今のどうやったんだぜ!」
「登良くんすごいね!ロッキンとか出来るんだ」
「この間、動画を見て……やって見たかったんだ。」

えっ、見ただけなの!?なんてひなたがオーバー気味に驚く。短い動画をずっと長い時間みてたりして覚えた。さっきの最後の締めのは?なげられて、えっと。と言いながら、ゆっくりカウントして身振り手振りを使って教える。ひなたも光も興味深くみてから登良の真似をして動き出すのでそのまま動く。先程までやっていたことをゆっくり一通りやってると先程の振りを光とゆうたがマスターするまで教え込むことに成功する。

「この振り付けカッコいい!」
「登良ちゃん、なんでも出来るんだぜ!」
「あと、こういうのがあって。」
「それ、よくみるやつだ!」

どうやるの?と話し込もうとしていると、あんずから差し入れが来たぞ!一旦休憩!となずなの声で休憩の号令がはいる。またあとで教えて!と口約束を交わして、一緒に差し入れなんだろうね。と話してると、あんずが卵サンドと、シーチキン、アボカドハムチーズのサンドイッチだよ。と教えてくれた。登良は適当に一つ受け取って、包んであるラップにたまご。とかわいい文字がかかれていた。どこに座ろうと視線を巡らせれば、友也の横が空いてると教えてくれたので、遠慮なくそこに腰を下ろす。

「登良のは何だ〜?」
「たまご。そっちは?」
「アボカド。」
「一口食べる?」

いいのか?といいつつお互いのサンドイッチを交換してかじるす。アボカド独特のねっとりした食感とハムの塩気が美味しい。もごもご口を動かしてると、創がピクニックみたいで外に行きたくなる。と笑っている。そんな創の向こう側でひなたとゆうたががっついて食べてるのが見えた。一応レッスンがあるから家からおにぎりを持ってきてはいるが。友也はもう一個もらってこよう。と席をたつ。登良もいるか?ととわれたが、おにぎり持ってきてるから。と断りを入れておく。みんなでわいわい騒ぎながら、小休憩を入れて、ひなたとゆうたがダンスバトルをしよう!と騒ぎだす頃、不意に窓から大きな音をたてて何かが部屋に飛び込んできた。

「Amazing!こんにちは、拍手で出迎えてください!あなたの日々樹渉です☆」
「ひぃっ!!!!」
「うにゃっ、あわわわ!?ビックリして噛んじゃった。渉ちん、一体どこから現れたんだ?入り口はあっちだけど?」

気球で飛んでいたら、あなたたちがレッスンしているのが見えましてね〜、楽しそうでしたし窓から乱入してみました☆。そう日々樹が言う。クラスに何度かやって来たことのある男なので、彼が誰だか知っていた。が毎回唐突もなく現れるので、登良の心臓はいつも爆発しそうになる。大きな声をあげたことによってなずなも驚いているのに、申し訳なくなりながら登良は跳ね上がった心拍数を落とすために深呼吸を繰り返す。

「登良、大丈夫か?」
「平気……平気」
「おやあ、友也くん私を無視ですか?もっと私を見てください!ほぉらほら、あなたの瞳に私が映っていますよ〜」
「や、やめろ!せっかく知らない振りをしてやり過ごそうと思ったのに〜!」

友也が日々樹に噛みつく。あんたに構っている暇はない。そう言えば、日々樹は折れるつもりはないと言う。賑やかな攻防戦になると登良は予想するのだが、日々樹は用が済んだら帰ると言う。どうも、ゆうたが日々樹に演出の相談を持ちかけたらしく、ゆうたと日々樹がなんだかんだと話をしているのを眺める。その間に、登良は鞄からおにぎりを取り出して、胃に入れていく。ゆうたが双子を推すのが嫌だ、と日々樹に伝えれば、即座に日々樹は口を開いた。

「双子でなく三つ子になりなさい。」
「へっ?三つ子?」
「さぁさぁ、可愛らしい三つ子さん、私に愛と驚きを見せてください。」

満足そうににっこり笑う日々樹に友也が訳わかんないからな!と大きな声で割って入る。説明してください、と抗議を入れれば、日々樹は結論を愛が足りない。と下す。そんな話をしているのを聞きながら、登良は疑問符ばかりが募っていった。日々樹渉という存在事態が謎や驚きに満ち溢れているものを理解しようというのが無理なのだが。日々樹は部屋にいるメンバーを一瞥してから、あなたはこっち、そっちのあなたは。と左右に振り分けていく。ひなたと創と友也。ゆうたとなずなと光。そんなグループと登良。にわけられて、日々樹は胸を張る。ほらほら、三つ子ちゃんになりましたよー。と。

「なるほどな、三つ子ってそういうことか!」
「どういうこと?」
「どうでしょう、本番もこのチーム分けでダンスバトルをするというのは。」
「つまり、俺は?」

三つ子になりなさい。という日々樹の言葉すら崩壊する存在。一人で三人分をやれと言うことだろうか。忍に分身の術でも教えてもらうべきなのだろうか、思考はあらぬ方向に飛んでいこうとする。遺伝子操作、クローン技術。今から研究。と舌に乗せていくと、日々樹が君はそつなくこなせてしまうのですから、両側のサポートにまわりなさい。先日の公演もそうだったでしょう?三毛縞の弟君。と肩を叩く。

「『Ra*bits』と『2wink』はほとんど一年生の『ユニット』ですし、経験の違いもさほどありませんよね?」
「そうだな、良い力試しにもなりそうだし、おれは賛成だ。登良ちん、一番しんどいかもしれないけれど、大丈夫か?」

心配そうな赤い目が登良を見た。登良は間髪入れずに「やります。」と返事を一つ。体育会系で育った登良に断るという概念は存在しなかった。サポートというが、どうすれば良いのだろうか、間を持たす。などの事を考えるが、とりあえずは両チームの動向次第になってくるだろう。そう判断して、登良は頷く。

「『ピンクチーム』と『ブルーチーム』と『イエローチーム』ですかね。」
「赤青って来ると黄色だろうけど、登良はちん。それで良いか?」
「なんでももういいです。」

「あ、これ登良くん、ふっきれてるやつだ、」ひなたが小さくそう漏らしたのを登良は聞き漏らさなかった。



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