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「押忍!『流星隊』の南雲鉄虎ッス!失礼しま〜す」
「『Ra*bits』の三毛縞登良です。……入ります……。」

鉄虎に引きずるように連れてこられたのだが、挨拶は大事だと判断して、登良は名乗りを上げる。道場に入る癖で同じように行ってしまったが、別に言わなくても良かったのではないかと、言ってから後悔する。中を見回すと、あくびを漏らした先輩が一人なに?とこっちを伺っている。

「おぉう、何なの騒々しい……殴り込み?」
「うわビックリした!誰もいないのかと思ったら、朔間先輩が炬燵のなかに潜ってたんスね〜。炬燵、まだ撤去しないんスか?」
「『朔間先輩』じゃなくて『凛月先輩』ね。そこ大事。」

言葉の指摘を先にして、そのまま『円卓』を撤去するとほんとにみんなとお別れなんだ〜って実感して寂しいから。というが、おそらくきっと『円卓』というのが炬燵に付けられた名前なのだろうかと、登良は聞きながら判断した。円卓の騎士、アーサー王伝説といろいろな単語が浮かび上がったが、多分これでもないと思い、登良は思考をやめた。

「ともかく、『Knights』に何か用事だった?残念なことに今日はもう俺しか残ってないよ。」
「ん〜、そりゃ間が悪かったッスね。今日は『Knights』お休みなんスか?」
「tおいうか、各々ちょっとした私用や個人の仕事がある日でねぇ。軽めに全員で打ち合わせとレッスンだけして早々に解散〜、って感じだったんだけど。」

うちは個人主義だからそういう日も良く有るし、最近は『みんなと一緒に』が増えてはいたんだけど。と言うので、ユニット事で大きく違うんだな。と感想を持つ。よそのユニットについてそこまで考えたこともないのだが、いやいや、そうじゃなくって。

「それよりもマジで何のようだったの、だいぶ相手をするのが面倒になってきたんだけど。」
「鉄虎、俺もなんで引っ張られてるかわかんない。何で?」
「登良くんにも言ってなかったすね。お手間をかけて申し訳ないッス。えぇっと、『Knights』の鳴上嵐先輩はご不在なんスか?」

ナッちゃん?ナッちゃんなら何かストレス発散のためになにも考えずに走り回りたい〜って言ってたから陸上部のほうに顔だしてるんじゃない?そういえばあの人陸上部ッスね。グラウンドのほうは見てなかったッス。俺レッスンが終わったらここに直行したッスから。助言ありがたいッス、さく……凛月先輩、俺ちょっと陸上部の方を見に行ってみるッスよ。登良くん行くッスよ!...俺説明受けてないんだけど。なら、移動中に説明するっす。

「...そう...」
「あ、あれなら俺の方からスマホでナッちゃんに一報を入れとくよ。」

まあ部活の真っ最中ならスマホはカバンとかに入れっぱなしだろうけど。といいつつ凛月が机の上に置いていたスマホを取り出して、画面に指を滑らせる。凛月先輩ってぶっきらぼうな人だと思ってたんスけど、意外と親切なんスね。時と場合による〜、今日は人恋しい気分だったの。そっちのみけじママンの弟くんいい湯たんぽになりそうだねぇ。

「俺、冷え性なんで……」
「あっそ。疑問なんだけど、あーテッコくんだっけ、ナッちゃんと仲良かった?」
「『テッコ』じゃなくて『テトラ』ッス。仲良くはないッスよーあの人しゃべり方が苦手で、仕事以外であんまりまともに会話したことがないッス」
「そうかなぁ……?前にS3で一緒にライブしたけど、そこまで……?」
「慣れないと戸惑うよねぇあの言動。……いちおうナッちゃんに連絡を入れてみたら、ちょっ早で返信がきた。今ちょうど休憩して駄弁ってるところみたい。」

じゃあ今すぐ行けば普通に会えるッスかね?俺大急ぎでグラウンドに向かってみるッス!登良くんも行くッスっよ!……あ、いや俺今日妹の……ではでは失礼するッス!お世話になりました〜!……鉄虎話聞かんかい!……
大きな声を上げながら、二人は出入口に消えていく、最後まで礼儀正しく一礼して去ろうとしている登良の手を取って鉄虎が走っていくのを、登良が怒鳴りながらも消えていく姿は、どこかで見覚えあるなぁと思いつつ、凛月は手を振って見送った。
行っちゃった。若者は元気だなぁ。ドタバタしちゃってさ。でも、ほんとナッちゃんに何のようだったんだろ、あの子とナッちゃんって実際傾向が真逆って言うか接点なさそうだけど……あぁ、そう言えば、ナッちゃん今ちょっと世間から不本意な騒がれ方をしてるんだっけ。『あの噂』を聞いてナッちゃんに会いに来たならあの子普通にナッちゃんの地雷を踏み抜いちゃうかも?みけじマッマの弟くんがいるならある程度舵きってくれるんじゃないかな。知らないけど。
なんてぼんやり考えてたら、再び入り口がピシャリと開いた。再び失礼するッス!と声が一つ。扉の開く音も大きくて、凛月は驚いて入り口の方をみた。

「あぁ驚いた。何で戻ってきたの?忘れ物でもした?」
「いえ、忘れ物といえばそうなんスけど、凛月先輩毛布を持ってきたんで使ってください。」
「鉄虎、走るの早い。廊下走らない。」
「登良くん、ありがとうッス。」
「えっ、なぜ毛布?」
「炬燵にずっと入ってると、外に出てる顔とか肩とか冷えるッスからね。そのまま寝たりするとうっかり風邪を引いちゃうッス。って登良君が。」

なので毛布を、これたまに『流星隊』で泊まり込みに使ってるやつッス。お節介かとも思ったんスけど、登良くんが気にしちゃって。ね、登良くん。……炬燵は眠たくなるので……。
凛月が視線をあわせようとすると、そのまま登良は視線を下げた。ちょっと人見知りの気があるのか、鉄虎の裾を引っ張りつつ、隠れるように逃げている。

「ん、大丈夫なのに〜。俺たちは血を飲んでるかぎり健康だし。」
「血を……?」
「油断大敵ッスよー。風邪流行ってるみたいだから気を付けてほしいッス。身体が資本の商売ッスよ。なんて偉そうッスね。では改めて失礼します!」
「うん、ばいば〜い」

凛月に見送られて、登良は今度こそ一礼して鉄虎を追いかけていった。一人残された鉄虎は、毛布を一瞬かいで男臭いと毛布を放した。

最近世代交代だと言われて兄にあれやこれやと教えてはもらってはいるのだが、あの兄は異質で異物だと登良は思いつつ鉄虎に手を引かれて歩いてると、グラウンドに到着した。そのまま目的の人物を見つけて、まっすぐそっちに向かっていく。

「チワーッス。どうも鳴上先輩、『流星隊』の南雲鉄虎と『Ra*bits』の三毛縞登良ッス!」
「うん、凛月ちゃんからスマホで連絡があったから、来ることは知ってたわ。でも、いったいアタシに何の用事?」
「押忍!実は鳴上先輩に男らしさの秘訣を教えてもらいたいんス」

鉄虎。と登良は隣の鉄虎の裾を引く。どうしたんスか?登良くんも可愛いだけじゃ嫌だって言ってるじゃないスか。と真ん丸の目が登良を射る。ふるふると横に首をふって止めようよと制したかったのだが、そういう話じゃないかなとは思ってたわ。と鳴上が口を開く。

「あれ、何でそんなに俺について詳しいんスか?」
「『頑張る男の子』が好きなのよねェ、二人ともそんな感じだから結構注目してたのよォ、登良ちゃん鉄虎ちゃん。」
「ちゃん付けで呼ばれるのは正直あんまり気分がよくないっす。」
「鉄虎。戻らない?」
「あら失敬、男らしくなりたいんだもんね、うーん?どうしましょ?」

頬に手を当てて鳴上が考える。引き下がろうと声を上げようとしたら、アタシでいいかしらもっと相応しい人が居ると思うんだけどなァ?どうせ例の写真集をみたんだろうけど、アタシ普段はこんな感じよォ?男らしさの秘訣なんか教えれるかしら?と首を捻る。それでも鉄虎は鳴上を滅茶苦茶最高だった憧れちゃう、あんな風になりたいと口を開く。ねえやめない?と弱めにささやけば、「親分は男らしくなりたくないんじゃないんですか?」と言われて困ったように眉を下げた。なりたいのはなりたいが、きっとこういうふうなのじゃない。と伝えるためにどうやって言えばいいのかと迷ってると、鳴上が「いいわ、そこまで言うなら教えて上げる。アタシ、年下は甘やかす主義なの。そうね、じゃあ男らしく鳴るためのステップ1よ。鉄虎ちゃん、登良ちゃん。」

『1、男らしさを知るためにはまず女を知らなくてはならない。』
今から着替えてくるから待ってちょうだいね、おでかけしましょう。と鳴上は声を上げて、着替えるために動いていった。その背中を見送りながら、登良は首を傾けていまだに鉄虎にどうやって言おうかと悩んでいた。




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