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鉄虎と登良、そして鳴上と三人で来たのはファンシーショップだった。登良と鉄虎は二人で顔を見合わせて疑問符を浮かべていると、ちょっとテンションの上がった鳴上が「さぁさぁ二人とも、ようこそ、未知なる世界へ。」と嬉しそうに言う。鉄虎はちゃん付けは子ども扱いをされているようで嫌だと伝えると、そっち方面の嫌だったのね。と鳴上が言った。

「失敬、でもアタシから見ると、まだまだ夢ノ咲学院の一年生はみ〜んな『かわいい』盛りのお子ちゃまよ。いいじゃないの、子どもなら男でも女でも『かわいい』って言われるんだし、登良ちゃんのところ『Ra*bits』はかわいいを売りにしてるもの。」

アタシは子どもの頃からモデルの仕事をしてて、世間の荒波に揉まれて強制的に大人にならざるを得なかったけど、今から思うともう少し、ほんの短い子ども時代を満喫しとけば良かったわァ。と悲しむように視線を落とした。そんなもんスかね。俺からすると、うちの先輩たちはみんなと大人びてて羨ましいッス。そんなに年齢も離れてないのに、なんでこんなにちがうんスかね。と鉄虎は首をかしげた。考えてみたらそうかもしれないと、思考を巡らせる。あの兄は枠から外して、大将も鉄虎のところの『流星隊』の隊長さんも大人びている。時おり子どものような事もしているのをみるが。……これは鉄虎に言うべきなんだろうかとあぐねる。

「ん〜『先輩』っていう肩書きを得たからじゃない?大人ってのは年齢のことじゃないのよォ、鉄虎ちゃ……鉄虎クン。」

人間は環境に適応して変化する。肩書きをつけっれば自然とそれらしくなるわ。と言われて登良の脳裏には空手でもらった黒帯を思い出した。もらった当初は使っていいの?とか思ったこともあった。がそういうことなんだろうと登良は勝手に納得した。

「夢ノ咲学院で最も男らしいドリフェス【竜王戦】に優勝したりすればその肩書きは得られるッスかね?」
「いやいや肩書きを得るのなんて簡単よォ、あんずちゃんあたりに頼んどきなさい、雑誌とかで取材されるときに『男のなかの男』って肩書きつけて紹介してもらえるようにさ。」
「う〜みゅ……でもやっぱりそんなの何かずるい感じがするっす。」

自分が『男のなかの男』だって言い張って周りを騙してるみたいッス、きっと大将なら『服に着られてる』って言うッスよ。最初はそれでも良いのよォ、だんだん上手に着こなせるようになるわ。と鳴上が鉄虎の背中を叩く。やっぱり黒帯みたいだな。なんて感想を抱いていると「まずは騙されたと思ってアタシの言う通りにして。まずは子のお店に売ってるもので最大限に自分を愛らしく飾りたてなさい。助言ぐらいはしてあげるけど、まずはなるべく自分のセンスで選んでみてね。登良ちゃんは、言わなくても出きるでしょうけれどね。」と言われて、登良は飾る?と首をかしげた。

「え〜う〜?すんません、正直わけがわからないッス!何の意味があるんスかね?俺は男らしくなりたいんスよ?可愛くなっても仕方ないッス。俺の目指す方向性とは真逆ッスよ?」
「鉄虎、体育会系の掟。その1。」
「あーえっと、先輩の言うことは絶対?え?本気で言ってるんすか、登良くん。」
「やるなら、腹を据える。試合もそう。完全に違うと考えるなら抗議それだけ。」
「そうね、登良ちゃんの言う通りよ。考える前に動く、そっちのほうが『男らしい』わよォ」

言われたからやる。それだけだと告げて登良は店の中を見回して考える。かわいい。とは。誰を参考にするべきかと考えて出たのは、に〜ちゃんだった。ふむ、と考えていると、鳴上が制限時間は30分と区切ったのですかさず自分の腕時計をみる。残り時間の配分を一瞬で算段つけて、登良は鉄虎にお先。と言って背を叩き、そのまま店内を歩き出した。
ファンシーショップまで来てかわいいを言うのだから、女の子かわいいであるのだろう。と登良は考える。女の子らしい、となるならばこの髪の毛を利用する手はないと判断する。ユニットの方針で切れない髪の毛は結んでおかないと邪魔になる位まで伸びている髪を結ぶゴムを一つ。だて眼鏡も一つカゴに入れる。鉄虎はどんなかんじでいくのだろうか、とも考えたが併せるのは意味がないかと判断して緩く首を降る。どんな服装をするか悩む。春めいてきている、色は軽めにとがいいだろう。脳内の創とに〜ちゃんが来ても問題ないもの。という方向にしよう。と思考をすると、コンセプトは決まってきた。薄い青を主に決めて、白のスカートと、水色のカーディガンを取ってしまう辺り自分は『Ra*bits』だな、と思って小さく笑っていると背中を叩かれた。驚いて振り替えると、目をキラキラさせたあんずが登良の後ろにたっていた。

「ひゃっ!……あんず先輩。どうしたんですか?」
「鉄虎くんから話は聞いたよ、困ってない?」

困る、と言われて、方向性は決まったし、あとはそれに合いそうなものを選んでいるので……と言うと、聞かせて!と目を輝かされた、秋にあったハロウィンパーティの時もだったが、着せかえるのが好きなんだろうか思っていると、手伝わせて。と満面の笑みで言い寄られる。うっとかぐっ、と声を漏らして、とりあえず、今こんな感じです。とカゴに入れたものを見せると、いいねーといって、じゃあこっちよりもこっちと会わせた方がいいよ。と、アクセサリーを入れ換える。髪はやったげるから、一回着替えてみよう。とあんずに叩き込まれた。兄にも似た強引さだなと思いつつクスクス笑いつつ、持ち込んだカゴのなかの服に袖を通す。スカートのどこが前かわからなくてあんずに助けてもらいながらも、辛うじて着替えを終わらせる。緩くくくって横足らしていた髪もあんずによって、整えられてポニーテールに姿を変える。

「かわいいね、」
「ありがとうございます……」

真っ赤になっちゃってほんと女の子みたいね!と頭を撫でてあんずは隣の鉄虎を見て問題なければ、鳴上を呼んでくるねと声を出して足音は遠のいていく。いやいや、どうなったんだ。と思うと同時に。これの服を買い取った方がいいんだろうな。と思いつつ財布の事を考える。この間入れたばかりだし、問題はないはず。と思考していると鳴上が来たらしい、隣のカーテンレールが開く音が聞こえて、鉄虎はどうなんだろう?と思い試着室を出ると、「あら、登良ちゃんも可愛いわね!ほんとお人形さんみたいね!」と鳴上が登良に気付いた。

「おお!親分、ほんとうに女の子みたい!すごいッス!」
「……いや、うん。こういうのは……」
「合格合格、あんずちゃんの手助けがあったとはいえ、普通は女装ってもうちょっと笑える感じになるんだけどねぇ。あなたたちに恥ずかしい格好をさせて荷物を運んでもらいながら町を歩かせてさ。傷つけてやろうと思ってたのよォ、アタシはあなたの物言いに傷ついたから。」

鳴上の声に、登良はやっぱり、と確信を得た。最初に引き留めようと思ったのだが、最終的に上の言うことが絶対と、骨身に染みている生活をしていたので、思考を切り替えてしまったのが恥ずかしいと登良は小さく首をふった。

「反省するわ、ごめんね鉄虎クン、もういいから着替えて?」
「お、押忍!次はこの格好のまま町を歩けば良いンスよね!」
「……ンン?」
「了解ッス!南雲鉄虎、全力を尽くすッス!がんばるッス!黒い炎は努力の証!」
「えっ?えっ……」
「行ってくるッス!すんません、財布は渡しとくのでお会計しといてください!」

一礼してあんずに財布を渡してうおぉおお!俺はいつもゴチャゴチャ考えすぎて失敗するッス、今回は何も考えずに突っ走るッスよー!目指せっ、『男のなかの男』……!と声を上げて、走り出した。鉄虎!と声をかけても止まらないので、登良もあんずにお願いします。と言付けて財布を渡して、鉄虎を追いかけるために走り出した。
後ろでちょっと待ちなさい!と声がしたが、止めるのは上の役目なんで!と残して登良は一気に加速して鉄虎を追いかけ出した。残された二人は、さすがはママの弟ね、とんでもない脚力。と呆れるような声色で、言葉を紡いでいた。




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