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作業も終えて、本番当日。家を出て、指定された幼稚園で促された部屋に入ると紅郎が立っていた。

「登良、」
「大将、おはようございます。おかけになってお待ちくださいってさっき言われました。」
「そうか、ちいせぇ」
「子ども用サイズですからね。」

小さな椅子に大きな高校生が座る想定はされていないだろう。体に似合わない椅子に、二人で笑いながらも登良は紅郎のとなりに腰を下ろす。登良は…適正サイズに見えるな。と紅朗か呟けば、##name1##が苦笑を浮かべる。

「小さいですから……大将子どもに好かれると思いますよー。鉄虎とかにも好かれてるじゃないですか。」
「それでも高校生だろうに。おっと園児と目があっちまった」
「大将、ファンサービスファンサービス。」

窓の外でこどもがキラキラとした目でこっちを見ている。登良は笑顔を作って手をふってやるとそのまま舞われ右してどこかに行ってしまった。怖がらせちまったか?と紅郎がちいさく言葉を漏らした。大丈夫です。鉄虎のところの隊長さんも後々仲良くしてるの見てますよ?それと一緒ですよ。とフォローを入れていると、颯馬がやっててすぐに忍がやってきた。

「よかった〜、拙者いつも本番では張り切りすぎて早起きしてしまうでござるよー。だから、今日も接写が一番乗りかと焦ったでござる。」
「おはよう、忍。」
「おはよう、仙石。仙石もあそこにいる子どもたちと同じく元気いっぱいであるな。」

神崎殿たちがいたおかげでござるよ。拙者一人だったら貝のように口を閉ざしておとなしくしていたでござる。まだ、委員長殿たちが来られてないのでござるか?まだ見てないね。と言うと、仁兎が駆け込んできた。

「ごめん、みんな!ぜぇはぁ。待たせちゃったか〜?」
「に〜ちゃん、お水。」
「ありがとう登良ちん!」

水を差し出して、なずなに渡す。慌てた息を押さえるように背中を撫でる。そのままいろいろ話出すので登良は周りの話を聞く側に徹する。今日の予定を確認が始まるので、頭の中にすべて叩き込む。会話のなかでお母さん役を紅郎にしようと言う話も出るが、それでもさきほどのこどもが逃げたエピソードを遣い裏方に徹したいと言う。

「大丈夫ですよ。誠心誠意に勤めれば子どもは心を開くんですよ。大将。子どもは言葉を語らない分自分でそういうのは選ぶんですよ。守ってくれそうな人として選定する力があるんですよ?」
「まぁ、本番では俺たちはついたてに隠れるし、園児たちの視線も人形に向いてるから大丈夫じゃないかな〜。紅郎ちん演技の経験もあるから結構上手に演じられると思うんだけど、でも、まぁ、無理強いは出来ないもんな。」
「俺、紅郎先輩の演技が見たいな〜」

登良、そういうときに可愛い子ぶっても俺には効かねえぞ。と言われて、はぁい。と登良はちぇっと口を尖らせたのだった。窓の外の園児が紅郎に登っている姿を見ると、きっと言っていた幼児番組は成功すると思うのだが。と思考を飛ばしていると、ぶぶぶ。と機械の音がした。

「仁兎、てめぇのスマホじゃねえか?鳴ってんぞ。」
「お、あんずからだ!」

最後に一度台本を開くべきかなと考えてると、事故。という単語が耳に入って登良はそっちを見た。なずなから携帯を奪って、紅郎が電話をしていた。しばらく聞いてから一言二言を交えて通話を切った。

「く、紅郎ちん、あんずは!無事なのか?」
「おう、無事も無事。ピンピンしてるぜ」

どうも嬢ちゃんの乗っている前の電車が人身事故を起こしたらしくてよ。後続の電車に影響が出てるんだと。いつ運転が再開するか解らねぇ状況で本番に間に合うようそこから歩いてくるって言われたんだけどよ。さすがに嬢ちゃんのいる駅からここまで距離があるし、そんな無理はさせられねえよ。と言うので、登良はほっと胸をなでおろした。登良殿、どこまで考えられていたのでござる?と言われたが、そこまでちゃんと聞いてなかったので、何も考えてないよと素直に伝える。

「委員長殿、あんず殿が演じる赤ずきんはお芝居の要でござる。あかずきんが居なかったら、お芝居の進行が困難になるでござるよー。」
「うん、だからおれたちの中から代役を立てる。」

颯馬ちんも登良ちんも放送委員じゃないし、善意で協力してくれる。だから、おれかしのぶんかどっちかになるけど。放送委員長はおれだし。幼稚園での人形劇はおれが提案したことでもある。責任もっておれが赤ずきんを勤めるよ。登良ちんもでずっぱりだし……紅郎ちんにはお願いがあるんだ。さっき言ったちょい役ででるお母さんを紅郎ちんに演じてもらいたい。演技が苦手だって言った紅郎ちんに何度もお願いするのは気が引けるけど。もう紅郎ちんにたよるしかないんだ!
体が折れ曲がるんじゃないかっていうほど頭を下げるなずなに紅郎が言う。頭を下げるなよ。ったく、てめぇが狼と赤ずきんの2役を演じたら、ほぼでずっぱりだろうが。演技は苦手、っつうか、難しいけどよ。いちおう演技の経験はあるしな。クラスメイトが困ってるのを見過ごす訳にもいかねぇだろ。俺が赤ずきんを演じる。お母さんまで園児卯のは難しいからよ、そっちは仁兎が兼任してくれや。
腕を組みうなずいている。おれがやりましょうか。と手を上げかけたが、神崎が手を上げた。

「ありがとう!二人が協力してくれるなら、もう心配はいらない!」
「気が早ぇよ。にとの言う通り練習には付き合ったけどよ。赤ずきんのセリフを全部覚えてるわけじゃねえし。どう演じるかもいまいち自信がねぇしな。」
「大丈夫です。俺がナレーションでなんとかできますよ。トチッたって、違和感ないように修正しますよ。最悪を考えるのは得意ですから。」
「登良ちん!」

ちょっと赤ずきんを演じてみるから、ダメなところがあったら遠慮なく言ってくれよ。おっけ〜、人形があった方が演じやすいかな。人形劇では赤ずきんを動かすんだから、動きなんかも確認しておいた方がいいだろ?じゃあ出るところだけさらっていきましょうか。拙者が人形を取ってくるでござる!今の間に発声しておくぞ!と連携をとりつつ、あれやこれやと最終打ち合わせをかねての一連の流れを最終確認することが決まった。ごほんと、咳払いをして片手に赤ずきんの人形をつけた紅郎は思い出すようにセリフを連ね出す。

「私、赤ずきんよ。これからおばあさんのお見舞いに行くの。お母さん、いってきま〜す……せいやっ!」
「大将。空手の型は要りません。」
「登良殿、大丈夫でござるか。あとすこしで登良殿も殴られるところだったでござる。」

まさか正拳突きされると思っていなかったが、すんでのところで紅郎の拳を掴むことが成功し、お前でよかったと紅郎が言う。

「すまねぇ、セリフを思い出しながら動いたせいか、つい身体が覚えてる空手の型をやっちまったぜ。俺のせいで仁兎たちが怪我しちまったら、本気で人形劇が中止になる。登良大丈夫か。」
「拳を掴むなんて久々にしましたけど、反射神経がよくてよかったです。」
「止めてくれてありがとな。」

つうか本番で、あかずきんが狼をノックアウトしてたら、お話の流れが滅茶苦茶になっちまうな。それもそうだけど、赤ずきんは『せいやっ!』とか言わないから気を付けてくれ。確かに言わないですし、空手の型もしないですね。すまねえって登良。
あぁだこうだといいつつも話をそのまま進める。いっそ型が出来ないよう登良にでも羽交い締めしようか……。それじゃあ赤ずきんを演じられないだろ。となずなが言えど、そのまま一通り流し終える方向で進める。

「ふーん。、紅郎ちん。台詞はちゃんと覚えてるぽかったし、登良ちんのフォローも入るし。あとは『赤ずきん』になることを意識してもらえば大丈夫だと思う俺もフォローするから人形劇の成功を目指して頑張ろう!」

なずなの声に反応して、みんなで片手を上げつつおー!と声を上げるのだった。



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