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役が一通りまとまって、登良はそれぞれの役に似せたパペットを作るべきなのかと考えて、紅郎に話を投げ掛けに行くと、ノックの音が響いた。空いてる。となずなが言えば、失礼する。と言って一人が入ってきた。見覚えのある顔に登良は小さく首をかしげながら、その人物が誰かを思い出した。紅月の一人の先輩だと思うと同時にその後ろにあんずの姿を認めた。

「鬼龍殿が、こちらに入っていくのを見かけたと話を聞いてきたのだが、……鬼龍殿はおられるか?」
「おう、神崎じゃねえか、あんずの嬢ちゃんもおそろいでどうしたよ?」

うむ、あんず殿に今朝がたの話をしたところ、『あいどる』が困っているのなら手助けするのが『ぷろでゅーさー』である自分の役目だと言っておられてな。こうして、あんず殿を伴って鬼龍殿を探していたのである。猟師とおばあさんのラフを書いてる間に聞こえてる声を拾えば、たしかに困ってるけどよ。個人の仕事だし嬢ちゃんが気を使う必要はねえぞ。と鬼龍の声がする。視線を上げると、やれやれと言わんばかりの表情をしている鬼龍が見えて、登良は大将でも困ることは有るんだ。と考えた。

「紅郎ちん、なにか困ってるのか?人形劇ので紅郎ちんにはお世話になるし、俺が手伝えることだったら協力するぞ?」
「ん〜。子ども番組に出演することになってよ、でもよぉ。この顔だろ?子どもにん怖がられるだろうし、どうしたもんかと悩んでてな。」

聞こえてくる声を拾って、登良は国営放送の子ども番組を思い浮かべた。ファンシーなきぐるみと歌のお兄さんお姉さんの出てるような光景に登良は想像で紅郎をおいてみた。子どもに嫌われるどころか好かれそうだけどな。と考える。子どもはひどく新しいものに興味を持ちやすい。背が高いとよじ登りたくなる。と言っていた兄を思い浮かべて。あれは別だったかと思考を放棄した。

「紅郎ちん、話すとすっごくいいやつなんだけどな〜。子どもたちも紅郎ちんと話せばすぐなつくと思うけど。」
「大将、子どもに好かれると思う……よ?。兄貴のについってったこともあるけど、そのときひたすらよじ登られてたし。」
「顔で怖がられちゃうって心配なら、変装するのはどう?」

あんまり本格的にやると誰かわかんなくなっちゃうから、すこし見た目を弄るとか。かわいくコーディネートするのは得意だし俺がやってやろうか。となずなが言うので。ぼんやりとかわいくコーディネートした紅郎を考えてみる。うちのユニット衣装とか、と考えて、あわなさに登良は一人ぶふぉっと息を吐いた。丈の足りなくなって出た臍と、膝丈サイズの短パンも大将が履けば。と考えると、滑稽な姿になってきた。

「登良、変なこと考えんなよ。」

震える肩をなんとか押さえつけて、登良は大きく一度首を縦に振る。やはり先ほどの想像が離れなかったらので鬼龍と目を合わせれなかったが。怪しい目で見られつつ、そのままなんとか表情筋を崩さずなんとかできた。青くなったり赤くなったり登良殿は大変でござるな。と言われて、登良はゆるゆると首を横に振った。

「颯馬ちんたちせっかく来てくれたのに何のおもてなしもしないのは悪いから、お茶でも飲んでく?」
「お心遣い、痛み入る。だが、何やら忙しいのではないのか?我、お邪魔なら早々に立ち去るが。」
「忙しいって言うかちょっと困ってることがあって。颯馬ちんたちの登場で話をちゅうだんしちゃったけど、紅郎ちんやっぱ難しいかな。」

そうなずなが問いかけるが、「仁兎が赤ずきんを演じてくれるなら、俺が狼をやってもいいけどよ。とりあず『がお〜っ』て言っときゃいいんだろ。」というので、狼にも台詞があるぞ。狼はおばあさんに扮して赤ずきんを待ってるんだからな、徹頭徹尾『がお〜』じゃお芝居にならない。そうだよな、となずなは頭を振った。

「登良ちんはどう?」
「俺……?兄の見てたから、出来ないことはないし……友也の先輩に声帯模写も教えてもらったから出来ないことはないけど……。」
「それは完全に読み聞かせどころか、一人劇じゃないか……」

うーん。と頭を抱え出すので、最悪なにでもいいんだよ。と声を紅郎に似せて言うと。やっぱりそういうところなんでもできるかんじが斑ちんの弟だよな。となずなに呆れられた。そうこうして話はすすみ、あんずが赤ずきん。忍が狩人、おばあさんが颯馬。狼がなずな。ナレーター小道具登良と放送委員が過半数の出し物が決定した瞬間だった

「大将、配役に寄せてパペットを作りますか?」
「まぁ、わからないぐらいによてせも問題ないだろうが、無難な方がいいと思うぞ」
「はーい。」

台本をもらって、流し読みしながら、登良はラフを仕上げて、パターン取りに入る小道具の作成もいるなら、何がいったかな。とある程度の思考を回しながら、布を裁ったり、縫い会わせたりを繰り広げる。

「裁縫も出来たんだな。登良」
「兄が破くので覚えました。」
「お前ら兄弟は化け物みたいだな。むしろ何が出来ないんだ?」
「なんでしょうね?…繊細に扱うこととかですかね?」

兄は力が強すぎて、俺は弱すぎて壊してしまう。と言うと、気にすんな。と言われたので、そうですね。と返事をして縫い合わせていく。登良、刺繍まかせていいか?えぇ、大丈夫です。何がらが良いかな。といいつつ花柄かな。糸は……色比率は3;2;1の法則で刺繍はこの色……、といろいろぶつぶつつぶやきながら、編み物もあった方がいいなあ。狼とおそろいの…変装するし…狼の毛色が……と様々なことまで思慮を巡らせる。

「にーちゃん、レース用の糸ってある?」
「材料袋の中に入ってなかったらないよー」
「はーい。……こっちは帰宅したらあるはずだからいいや。」

なら、デザインは。と思考を始めると一気に加速していくこの感覚が好きだ。ぼんやりと手を動かしながらも思考は遥か先を考えながら、おばあさんのエプロンの刺繍のデザインをさらさらと書いてから、刺繍にてをつけはじめると、視界のはしっこでなにかが動いて登良はつられてそちらを伺い見た。さきほど出来たらしいおばあさんが机の縁であらあらと動いてる。ふんふんと登良は頷いて刺繍に取りかかると、おばあさんが近づいてきた。

「素敵なエプロンね!わたしのおばあさんのかしら?」
「そうですよ、お花の柄を入れましょうねー……えっ?」

自分で言ってておかしくなって、そちらを振り向くと、登良くんかわいい!!!!と声を上げるあんずが抱き締めてきた。針!と声を上げるとそうだったといって解放される。刺さってないですか?と登良があんずにきくと、無いよ!ありがとうね!とあかずきんが代弁する。ので登良は、やれやれと言いながら首をゆるく振った。

「登良がそのまま赤ずきんをやっても問題なさそうだな。サイズ的にも。」
「大将みたいに、大きくないですからね。」

ぷいっと作業にもどると、そういうところがかわいいって言われる原因だぞと言われて登良は、はっとした表情になるのだった。



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