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チェロ一本とコーラス二本でのライブは喝采に終わる。そのまま時計を見て、時間が!とあれよあれよと三年生に振り回されて、音楽堂の座席にレオの隣に座ったと思ったら、斑に手を引かれて引きずるようにつれてこられたのは、生徒会長と副会長の前だった。俺なんでこんなところにつれてこられてるの!と兄のつかんだ腕をバシバシ叩けど、効果はなく、まるで石橋を叩いてるかのようだった。

「ははは!なんだか難しい話をしているなあ、二人とも!才気煥発!たいへん結構、意味があるのかないのかわからないことについて議論を重ねるのは若者の喜びだなあ!」
「三毛縞、とその弟…?貴様らこれからコンサートに出演するのではないか?なぜ客席にいる?」
「やあ三毛縞くん、君って図体がでかいしおしつけがましいのに、なぜか死角をつくようにしてうごくよね。あまり驚かさないでほしいな。心臓が止まっちゃうから」
「失敬!ちっちゃいころに『みけくん』なんて呼ばれてた時期があってなあ、猫っぽい呼び名だろう?だから猫っぽい動きを登良くんと練習したことがあるんだよなあ」

あれがそうだったのだろうか。とぼんやり聞きながら過去を振り替える。自分の背丈よりも高いブロック塀を上らされたり、高い木から落とされたり、ろくなことがなかったような気がすると思い返していると、英智の視線が登良を見ていた。登良はそれに気がついて、びくりと小さく跳び跳ねる。とって食いやしないよ。と彼が笑うのを見て、登良はひっそり兄の背に隠れた。

「元気がいいね。それと意味がありそうなことをまくしたてて錯乱して、話を反らそうとしてない?質問にはちゃんと答えるべきだよ」
「君たちもよく使う手だろ?数式じゃないんだし、理路整然とした会話なんか現実的じゃないなあ」

現実の話をしょう。俺が姿を見せた理由は二つある。ひとつ目の理由!君たちに飲み物の差し入れをしに来たんだなあ。どうぞどうぞ!ワンドリンクまではサービスだぞお!ほら登良くんも。隣の人のもあとで渡しておいてくれ。
ほい、と手の上に二つの紙コップをおかれて、そのカップの中に珈琲と紅茶が一つずつ。登良はどちらでも飲めるので、隣の人に聞いてからにしようと判断する。どうやってこの場を離れてドリンクを渡しにいこうと考える。お礼を言ってお辞儀をしていくのが無難だろうか、と考えたが、すぐに終わりそうなので傍らで大人しくすることにした。

「今日は二人とも『お客さん』でいてほしい。俺は、そういいに来たんだよなあ。余計なことはせず、適度に楽しんで、ああよい経験をした〜と満足しておうちに帰ってほしいんだよなあ。無論登良くんは別だぞお!『お客さん』にあるまじき行いをするなら、俺はコンサート関係者として対処するし登良くんにもお願いして退場を促してもらうし、さっき渡したサービスのドリンクも返してもらう。」

『返してもらう』って言われても。もう飲んじゃったよ。と生徒会長が言うのに、お腹を殴って吐き出せばいい。と言ってのける兄に登良はぎょっと目を開かせた。「暴力はちょっと…!」と抗議の声をあげれば、例えだよ。と斑がいうが、生徒会長は「今の発言だけで脅迫罪が適用できるよね?」とか言い出して、登良は余計にあたふたと生徒会長と斑の間で視線を世話しなく右往左往させる。「次からは録音しておく、法廷で有利になるからな。まぁ、貴様に言われなくても俺たちは最初から『お客さん』として振る舞うつもりだぞ?それに三毛縞弟、おちつけ」と言われて、そっと胸一杯に酸素を取り込んだ。

今回、レオさんがステージに立つ可能性がある。久しぶりのあの子が大好きな舞台だ。彼の精神状態は不安定だし、『こっち側』に戻ってこれるかどうかの瀬戸際にある。登良くんには手伝ってほしいし、絶対に邪魔をするな。あの子を待っている人間が、世界中にいる。その道行きを邪魔するなら誰であろうと俺が、俺たちが蹴散らす。それが今の俺の正義だ。

「俺はいってるの…」
「あとでちゃんと、そういう支払いは済ませるから、今回は登良くんの力が必要だからなあ。ま『流星隊』から脱退してとっくの昔にヒーロー失格ではあるんだけどなあ」
「なんかよくはわからないけど、必要にされてるなら。手伝うよ。あとで、に〜ちゃんに謝ってね。」
「登良くんも、正義の血が流れているんだな」

偉い偉い。と頭を撫でられたが、それを撥ね飛ばして、ガンをつける。『みんなのために』か。それはまさに正義だね。僕たちの革命にも通じるものがある。君とは仲良くできそうな気がするんだけど?弟くんも。と生徒会長に手を伸ばされたが、登良はふるふる首をふった。初めての舞台の涙は忘れられない。仲間たちが泣いてた原因を作ったのは彼ら生徒会長だった。登良はじっとその手を見てから視線をあげて、生徒会長を見つめる。青空に似た青い瞳の中に何が隠れているのだろうかと思うぐらいに済んでいる青はひどく怖くなった。

「嫌われちゃったかな?」
「敬人さんはともかく、英智さんは『みんなのために』行動していないだろう?」

だから君は偽物のえいゆうだ。自分がヒーローだなんて勘違いせずに、困ったことがあったら『助けて!』と叫ぶという本来の役目をまっとうしなさい。満面の笑みで言う兄とこの生徒会長の仲がよろしくないと登良が気づく頃に、挑発だ。自分に敵意を向けさせて、月永への狙いを逸らそうという目論見だろう、と副会長がいいきる。その本意を過去をしらないので、登良は首をかしげる。帰ったら一度聞いてみてもいいかもしれない。とりあえず手の中の飲み物が温くなる前に渡しにいった方がいいかもしれないと判断して、登良は生徒会長たちに一礼をしてから下がることにした。



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