3e





「これ、兄からです。珈琲と紅茶どちらがいいですか?」
「あーえっと?登良、だっけ。」
「……はい。です。」
「じゃあお前はとらきちな!」

いきなり言われて驚いたが、登良は一瞬だまってから、はい。と返事をするだけだった。珈琲ちょうだい。と言われたので、お砂糖ももらってますが、いりますか?と言うと、ちょうだいと手を差し出されたので登良の分も足しておく。

「あれ?とらきちはいらないのか?」
「いつもブラックです。」
「そっかー」
「お待たせっ、レオさあああん!ママがいなくて寂しかったかあ?」
「あ、ママ。あのさ〜いつも言ってるけど何かするならまず説明してから動けよ」

とらきちも連れ去って知らない人たちの中に置き去りにされて心細かったんだけど。ぎろりとレオが斑を見ても、斑はどこふくかぜと言わんばかりにカラカラ笑っている。裸一貫で海外をさ迷って理解しただろう、基本的に相手が人間なら必ずわかり会える!言葉が通じなくてもな。人間は味方だ。外的じゃない。もちろん、人間だからって100%信用できる訳じゃないけどな。五感という入力五体という出力、それをひとつの脳みそで管理している同じ種類の生き物だぞお理解できない宇宙生物じゃあないし、話せばわかる。笑顔を浮かべて優しく触れあって、一緒に歌えばほら、登良くんとレオさんだってもうともだちだ。そうだろう?どんな国にも音楽はある、俺たちは『それ』で理解しあえる。
ママはそうかもしんないけどー
飲み物を飲みながら、そのまま二人の会話を聞きながら、回りを見る。前につれ回したと言っていた人が彼だったのかと今更ながらに知って、紅茶を飲み干す。氷までガリガリ噛み砕いてたら、ふと声がかけられる。

「お前も夢ノ咲の子だろ。俺の楽譜歌えよ!」
「あ、いや…でも。」

遠慮すんなとらきち。と月永が登良の手を取りステージに引き上げる。ちょっと!と声をあげれども。お前の声きれーだもんな!いい曲ができそうだ!と月永が子どものように屈託なく笑う。この笑みは見覚えがある。仲間とおんなじように笑う太陽みたいな笑みだと思う。いや、まって、それでもおれ普通の私服だし。と言い渋るが俺だって夢ノ咲の夏服だと兄が言う。演奏会!ジャケット!いる!絶対に!と抗議して逃げようと算段たてていたのだが、「あれば文句ないんだな!」とレオからのジャケットを与えられ、反抗するすべもなくした登良はお前も大変だよな諦めろ。それも人生だ。諦めてこの目の前のステージをたのしめとらきちなんていいつつ背中をバシバシ叩かれて、やけくそになりながらコーラスとして参加するのだった。
後日、今回のステージが新聞記事に上がっていて謎のハイトーンボイスの少女とかかれていたので、登良はなにも見なかったことにした。



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