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朝起きて登良はほしい本があったので、町に飛び出して、ぶらぶらと歩いていると、向こう側から見知った顔が歩いてきた。

「あ、お前みけじママの弟だろ!」
「……そうですけど、月永先輩でしたよね?」

家に何度か来たのを見た覚えはある、神経質な妹をそのまま横に逃がすように促した記憶の方が強いのは兄の友達だからだろうか、と登良は思慮する。みけじママは元気?と聞かれて、さぁ、そのあたりで息してるんじゃないですかね。と答えておく。いやーさっきとんでもないのにであったから付き合え。と有無をいわさないように、レオは登良の手をとって歩きだした。俺本を買いに隣町まで来たんですけど。と言えども、本はあとでも買えるだろ!みけじママに会うんだからお前も付き合えと言われて、げっ。と登良の声が漏れた。
兄に会いたくないから家を出たってのに、こんなところで会うなんて。と思うと登良の気分がげっそりした。肩を落として歩いていると、交差点の門で難しい顔をして街角で楽曲をさわる兄を見つけた。休みの暇でなにもしたくない。離してくださいと言えど、この捕まれた手は離れそうにない。

「ほら、いたぞ!ママ!みけじママ〜!おれだよレオだよ!やっほ〜!!」
「おお!レオさん待ってたぞお!元気そうで何よりだなあ!登良くんもいるのか!歓天地喜!ママが抱き締めてあげよう!」
「うるさい、あつい。」

飛びかかってくるのを避けるように登良は体勢を整え、レオはいや、ママ。チェロ引いてるんだから抱き締めるのは無理があるだろ。なんでこんな吹きっさらしで演奏してるの?と指摘をいれる。いや、演奏してたらレオさんが釣れると思って、コンサートの予行練習にもなるしなあっ、一石二鳥だろう?というが、登良はこの眼前の光景にめまいを覚えそうになった。釣れるってなんだ、この月永先輩は魚だったのか、なんて疑ってしまう。

「ちゃんと、運営側には許可をとってるから安心してほしい!」
「ママ、そういう手続きとかは意外とちゃんとするよな……。大胆不敵に見えるのに、妙に細かいというか」
「常識と道徳は守って損はないですし、ねぇ。」
「そのとおりだぞお、登良くん、たいした手間でもないしなあ。治安のいい日本ならまだしも、海外でタブーをおかせば即座に命の危機になるときもあるし、登良くんもレオさんも気を付けるんだぞ!」

いや、海外いかないし。とこっそり突っ込めど、登良の声は誰にも届かない。レオに問われた質問に斑は答えているのを見る。レオさんはずっと海外かあ?と問いかけながらの会話は高校生らしい会話なのだろうと思いつつ登良の視線は二人から外れて、町並みを見る。ぼんやりみていると、おまえはどうすんだ?と振られて、驚いて斑たちに視線を向けると、楽器を構えた兄と、マイクを片手にたつ先輩という構図に登良は首をかしげる。なにがあったの?と問いかける前に、兄が勝手に登良くんなら歌うだろう。なんて言ってマイクを握らされる。歌えということか、と思いつつ斑が奏で始めるので、仕方ないを装いつつ歌い始めるのだった。



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