俺とスカウト ゴンドラ 2 





そのまま放課後。あのあとどうだった?と問いかけると意外と普通に過ごせたという。ならいいんだけど、俺はさいですか、と返事をして二人で図書室に入る。今日はなにするの?と会話をしつつ図書室に入って、この前まで無かった特集の棚が組まれているのに気付いた。
水の都ヴェネツィア。イタリア東部の都市、縦横無尽に水路が走る行き止まりが多い町。この土地は、アクア・アルタなんていう水位が上昇する現象が起きたりするらしいから、まともに道を作るとこの水害でおしゃかになるから、水路を採用しているとかいないとか。毎年2月から3月ぐらいにサンマルコあたりで行われるカーニバルとかって日々樹が好きそうだな。とかぼんやり思いながら、コーナーの冊子を手に取る。見覚えあるって思ったら、民族文化研究部の部費で買ってしこたま怒鳴られた本じゃん。部室を生徒会に持ってかれたから行方が気になってたんだけど、ここにあったのね。よかった。サルディニヤのドルガーリモチーフでやったことあったなー。とか思い出しながら本やらを読んでると、がらがらと扉を開けて紫之が入ってきた。

「ゆらぎ先輩。」
「おーっす。つむぎくーんお客さーん」

一瞬挨拶をしてつむぎくんに声をかけると、奥から顔を出してきた。ちょっと待ってくださいね。と声をかけてカウンター側にやってくる。お忙しいなら後日にします。返却期限までまだありますし、んー俺やろうか?これを戻したら作業完了ですからー。そーおっけ把握。声だけのやりとりをしつつ、俺の目線は本の旅行企画を眺める。
つむぎくんは本当にすぐに終わったようで軽い足音を鳴らして寄ってきた。

「おまたせしました〜、創くんはよく図書室に遊びに来てくれるので嬉しいです。」
「本を読んでると楽しいですから。それに青葉先輩とのお喋りも楽しくって、ついつい足を運んじゃいます」
「ゆらぎくん聞きましたか?嬉しいことを言ってくれますよ!俺も創くんと話してると楽しいですよ。」

俺の背中ばしばし叩いてうれしいのはわかったけど、痛いよ。つむぎくん。ばしばし叩かれていると、紫之がゆらぎ先輩は何を読んでるんですか?と問いかけられたので、俺は目の前のコーナーのを指差してやる。俺の指先をたどって、前に来たときは違う本だった気がするんですけど。と首をかしげている。

「気づいてくれましたか〜、図書室の利用率アップを目指して特集コーナーをつくることにしたんです。」

梅雨時期だから気分転換に海外特集で、今月はイタリアの本やら写真集旅行雑誌などを並べてイタリア特集にしてます。幸い、ここの図書室外国の文化や旅行本がたくさんあるみたいで。なんででしょうね?とつむぎくんが疑問符を投げているので、つむぎくんに声をかける。その本、裏表紙開いたところに民族文化研究部って書いてるから見てみなよ。と進めてやると、あぁ『Diana』の研究用であったんですね。と納得された。いや研究用で正解だけど、名目もほしかったから部活にしたんだよなぁ、ユニット活動費で買うのも勿体なかったし。体よく使わせていただいてました。はい。人数足りないからって今年頭でほぼほぼ廃部というか、同好会扱いだから部室もないしね。

「ゆらぎくん、今度はフランスやアメリカ特集もやる予定なんですけど、いい本教えてくださいねっ」
「考えとく。」
「イタリアですか〜、ぼく海外には行ったことがないんです。」
「イタリアに行くなら今の季節がおすすめですよ〜。梅雨がなくてからっとしてるから観光に人気のシーズンんだそうですよ。」

紫之とつむぎくんが湿気と髪の毛について談笑するのを聞きながら、俺はぼんやりとヴェネチアの水路について思い馳せる。水の精霊ウンディーネやらに思考の枝を広げていく。手元の本はヴェネチアの水路について記載してるので、その風景を見てるとその風景綺麗ですね。と紫之が覗いてきた。みる?と本を渡せば、つむぎくんも内容を伺っている。ヴェネツィアですか〜水の都として有名ですよね。大小さまざまな運河が張り巡らされていて、車での通行は不可能なんですよ〜、なので移動には船を使います。なかでも観光客に人気なのは。と多少勉強したらしく、ゴンドラが、と言っている。

「ぼくも一度乗ってみたいです。イタリアまで行かなくても乗れちゃったりしませんかね?すっごい大雨ですし、このまま降り続ければ水位が上がっちゃって〜なんてことさすがにないですよねー。」
「それもう、なんかあれだよな。ゴンドラでっていうよりも、避難ボートのほうが正しいんじゃね?。」
「そうかも知れませんね?……青葉先輩どうしたんですか?」

紫之が不思議そうにつむぎくんを見てて、ふと夏目の連絡を思い出した。水難の相、いやいや考えすぎだろ。交通事故と隕石落下が同時にやって来るようなレベルだぜ?ってか、まじで考えてたの?っていうか、君考えて不安になりすぎて顔真っ青だけど。紫之が慌てて、具合が悪いなら保健室まで付き添うとか言い出してるじゃん。おいおいつむぎくん!?え、お昼変なもの食べた?俺はパンだったけど、つむぎくんなに食べたの?

「ご心配をおかけしちゃってすみません。朝から災難つづきでして。」

朝から何があって、昼からはと言い出してるので、俺の知らないところでもだいぶ災難はあったらしい、俺はただ吸われてるだけみたいで、やっぱり一人じゃつむぎくんの不幸を救えないんじゃね??って思うぐらいになってきた。っていうか、大丈夫かよ。って感じ。帰るのも試練じゃないのかな。って気がするんですけど。いいよ、帰ったら全部洗濯機をかければいいんでしょ?やってやるよ。いるかいないかわかんねえけど、神様と戦争ぐらいしてやるよ。

「ちょうど大雨ですし、もしかしたらこれからもっと大変なことが起こるんじゃないかって心配で心配で。」
「す、すみません!そうとは知らずぼく水位が上がっちゃうかも〜なんて言っちゃいました。」
「いや、紫之は悪くないだろ。」

そのまま紫之のフォローが入るが、もう後輩にいれてもらってるのを見るのが俺がしんどいわ。どうせあと帰るだけだし、今晩の買い物は俺がして帰るから、と伝えると雨ですし一緒に帰りましょう。それに蟹座のラッキーパーソンはゆらぎくんなんですから離れません。とだからなんでそう言い切れるのかね。蟹座の男なんてごろごろいるでしょうに。っていうか、俺の1位要素今日はどこにも感じてないんだけど。まあいいんですけど!はい。お守り落としてるよつむぎくん。

「かわいいピンクのお守りですねー」
「今日のラッキーカラーがピンクなんです。」

ラッキーナンバーが4でラッキーパーソンは蟹座の男性なんです。だから、今日はゆらぎくんにお願いして大きな移動を一緒にしてるんですけど、なんだか悪いなあって……。思ってるなら占いの話離れよう。とか一瞬思ったけど、もうアイデンティティーレベルで染み付いているので、俺はとやかく言うつもりはないし、そのあたりはもう諦めというか俺はそっとため息をついてから明るい声で言う。

「大丈夫だってー俺がいるじゃん。」
「でも、ゆらぎくんまで巻き込んじゃってますし。」
「朝から巻き込んでてなにいってんだ。」
「創くん、お友だちでも知り合いでもいいので、蟹座のひとがいたら、教えてくれますか?身近な人だと宙くんが蟹座なんですけど、今日は用事があるとかで断られちゃいまして。」

こんなことを後輩にお願いするのは心苦しいんですけど、ゆらぎくんにも朝から迷惑かけてますし、このままいくとゆらぎくんを俺の不幸に巻き込んで、事故とかおこせないですし。。今回はそうも言ってられない感じがして、藁にもすがる気持ちなんですよ〜!藁どころか俺をつかんでますよね。君。逆に俺が居たから5回ですんだって考えない?っていうか頭も下げんなっての。

「ほら、あの、ええっと。後輩とか先輩とか関係なく困っている人を助けるのは当然だと思います。ぼくは蟹座なのでお役にたてますね!」
「本当ですか!?やりましたよゆらぎくんと創くん。蟹座の男が二人居たら心強いですね。」
「そこは安心してよ。今日の星占い1位が二人揃ってるんだよ〜?」
「ゆらぎくんも創くんも傍にいてください。一生のお願いです〜!」
「んなことに一生を持ち出してくんな!使わなくても朝から一緒にいるだろうが。」
「ぼくなんかでよければ傍にいますよ〜」

なんかなんてとんでもない、涙がでるほど心強いですよ。ゆらぎくん一人の負担が、とか半泣きで言うのだから、つむぎくんの思考が俺には今一わからない。いや、別人だからわかるはずないんだけどな。とりあえず、雨が落ち着くまで三人で駄弁ろう。だらだらしよう。そう言う提案するとなんかあんがいすんなりとおって、三人でゴロゴロしてたら。急遽『Ra*bits』の召集がかかったようで、つむぎくんが死刑宣告されたみたいな顔してるの。俺だけじゃ不満ですか!俺だけじゃ!



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