俺と春風 アイコニックなブックフェア 3e 





録音後につむぎくんを呼び出して一番使いやすそうな楽器をつむぎくんに持って帰ってもらう。当日にはつむぎくんには楽器を持って行ってもらうのだけれど、俺は脚が遅いので先に出る。好きに吹いていいと言われている楽曲を聞きながら俺は会場に入る。それでも俺は遅い側だったらしく、ほぼほぼ全員が揃っている。

「ゆらぎくん、今日はお願いしますね。」
「一日好きな楽器で好きなだけ吹いていいんだろ?」
「もちろん」
「『Diana』と『Knights』と『Switch』と『Trickstar』の楽曲吹いてもゆるされるんだろ? 」
「あら、『Knights』のCDを借りたのってそのためなの?」

ふふん。と笑いながらすでに置かれている楽器を取り出す。ケースの中にCDが3枚。『Knights』と『Switch』と『Trickstar』の楽曲がそれぞれ入ったCDだ。この間軽音部に手伝ってもらって録音したものだ。俺が休憩中にかけてもらうように録音したものだ。いや、完全に後付だけどな。鳴上と話をしていると瀬名が大きな声を上げた。

「何で!こんなさえない男のどこがいいのゆうくん!浮気者〜!なんで青葉なの!」
「瀬名。人の弟捕まえてさえないっていうなや!やるか!でるとこでてもいいんだぞ?ゴルァ?」
「ちょっと、青葉先輩、落ち着いて!」

おちついてられっか、人の弟をなにをいってくれてんだ?お前モデルだろうが、なんだろうがただじゃおかねえぞ!?だてに一閥でずっと戦場に立ってねえぞ!と俺が立ち上がると、つむぎくんに頭を軽くたたかれた。ちょっと、君の話なんだけど?と言うとそれはいいですから。と俺は着替えに背中を押されて、鍵を持って着替えの部屋に連れてかれた。

「ちょっと、つむぎ!?」
「あはは、そうやって呼んでくれるのは久しぶりですね。」
「あぁ、もう!なんで怒らないのさ!なに、夏目に怒られ慣れてるから?。」

カラカラ笑って、つむぎくんは俺に服を渡す。緑のブレザータイプの衣装。俺のユニットカラーのオリーブグリーンが裏地に使われている。しっかりした緑に刺し色の黄色は襟元に入っている。完全にユニットカラーが襟元カラーに入ってる。と思って俺は小さく笑った。しょうもなさ過ぎて。

「俺はゆらぎくんが怒ってくれるから嬉しいですけどね」
「こういう反射神経だけは長いこと培われてんの。アイツら守ってくのにもある程度必要だったし。ま、必要ないぐらい強かだったけどさ。」

どういうことです?と言われかけたが、それに気づかないふりして、さっさと下まで履き替えて、刺し色のイエローのベルトをきちんと留めて、ふっと息を吐く。よしやるぞ。と着替えを畳み込んで、鞄の中に詰め込む。大きめの鞄はこういう時便利だよね。ネックストラップに楽器をひっかけて、階下に向かう。杖もないので壁に手をついて歩いていると、つむぎくんは先に行きますねと行ってしまったので、俺はその背中を見送ってしばらく歩く。壁に手をついて最後の角を曲がるころに、大丈夫ですか?と遊木が寄ってきた。

「ん、まぁ、ゆっくり行くよ。」
「楽器持ちましょうか?」
「まじ?いいの?あとでやかましいのが吠えてそうなんだけど。」

瀬名が怖いので、お前にやらせるのが怖いよと伝えると、彼は笑った。二人で目的フロアに降りると朔間弟がぐわんぐわんゆすぶられているのを諌めたりしている鳴上の姿が見えた。うん、『Knights』ってちょっとかわってきた?一年が入ってきてからか、ちょっと俺は首を傾げてその光景を見守ると、足を止めたことに疑問を持ってか、遊木が瀬名がやってきたから逃げてった。俺は、やれやれと呆れながらこの光景が楽しいと思い近くの椅子に座ってリードの支度を始める。一人で一本でずっとソロ楽曲を吹く予定だけれど、客層を見ながら童謡もいれておこうかな、と思考しつつ近くの椅子に座って光景を眺める。準備を終わらせて、俺はそのまま手慰みに楽器を吹き鳴らす。俺のお気に入りのユニットソングをかき鳴らす。俺の聴覚に割って入るように、声が聞こえる。「良い音だねぇ。」「艶のある音を出すのもいいわねぇ。」そんな音が聞こえて、俺の口角が上がる。嬉しくなって、ハイテンポケルトの楽曲を鳴らす。久々にやってるから多少指が滑っていく。この間急いで練習しただけなのでそのあたりはご愛嬌ということにしてほしい。

「ゆらぎくん、そろそろ移動しますよ。」
「お、おん。つむぎくん楽器持ってー。」

楽器を外してネックストラップをつむぎくんにひっかける。楽器を手渡すと、つむぎくんも手慣れたように楽器を取り付けてから、大丈夫ですか?俺の腕に捕まってください。と手を差し出す。俺は、その手を掴んで立ち上がり、今日の俺のステージになるエリアに動いてくのだった。
つむぎくんに誘導されて配置される。読み聞かせブースのお隣に椅子を置いてあったのでそこに腰かける。つむぎくんから楽器を受け取ってネックストラップをもらう。俺は手早く装着して、開始時間を聞いてそれまではこれでもかけとけと焼いたCDをつむぎくんに渡すとありがたく使わせてもらうといって持ち回りの方向に消えていく。そんな背中を見ながら俺は楽器を温めるために息を流し込みながら時間を待った。端っこに座って俺が待機していると子供の目線がちょいちょい刺さる。
始まりのチャイムが鳴ると同時に俺は自分のユニットの音源を吹く。BMGようなので比較的強くならないような曲を吹く。一曲目は俺のユニットのお気に入りハイテンポケルト。よくあいつらと踊ったなぁ。と思いつつこの間の事を思い出す。いや、うん。まぁ。ふてくされても仕方ないので俺はあきらめてるし、この一年間であいつらに逆転するだけの足と力を手に入れねば俺の作り上げた城、もとい『Diana』は奪われてしまうのだ。俺の足を奪っておきながらもまだ足りないとあいつらは奪っていこうとするのだ。ちょっとさみしくなりながらもそのまま一時間ぐらいぶっとおしで吹いておく。んーとか思いつつ持ってた雑な楽譜を開くと次に何を吹こうと考えながらめくっていると、首筋に冷たい何かが刺さった。

「青葉先輩。差し入れの水ー。」
「おどろかせんなよー。あー朔間……なんだっけ、兄ちゃん零だから、はじめとか?いちにかかわる的な。」
「朔間凛月だけど。こっちはスーちゃん。」

そうそう、そんななまえだったなー。と適当にのらりくらりする。あんがと、と言いつつ水を受け取ると俺は一気に半分ぐらい飲み干して傍らに飲み水を置く。これ終了時間何時だっけ?これぐらいですよ。と教えてくれたので、逆算を頭の中で始める。休憩時間はCDで賄うとしてと考えてたったか判断する。

「朱桜です。」
「そんな名前だったなー。ははっ、よろしく」

カラカラ笑って、水もありがとな。ボトルを振ってやるとお姉さまからですよ。と言って転校生のいるほうを指差した。遊木と並んで手をひらひら振っている。俺はボトルを振ってありがとうというようにアクションを起こす。遊木と転校生がふたりでクスクス笑ってるのを見て、俺はお礼と言わんばかりに『Trickstar』の練習していた遊木ソロ曲のフレーズを吹いておく。一瞬二人は驚いて二人して拍手をしている。吹ききると軽くピースをして、休憩おしまいと言う感じで俺は『Knights』の楽曲を吹き始める。吹き始めてそれに気が付いたのか、凛月が俺の背中を叩いていった。ちょっとうれしそうだったので、俺はあとでつむぎくんに渡したCDでもわたしてやろうと決める。
そのまま曲を吹き続けていると、ぱしゃりぱしゃりと写真の音が聞こえた。今日は仕事なので、俺はあきらめて、撮られるのも仕事だろうと判断する。一曲を吹き終えると、知らない人が俺に話をかけてきた。仕事中なので、俺は営業用に笑っているが何かしただろうか?と内心汗ダラダラだったりする。俺は自負するけど躍起な遍歴を持ってるので、いい加減に目立ちすぎるとどこかで狂信者たちが動き出す可能性だってあるのだ。一時の神の子だなんて言ってるけど、そんなのは人が押し付けてきたものだ。神なんざいない、居ても救ってはくれない。掬いはするかもしれないが、強いて言えば足ぐらいだろう。掬ってくれるのは。

「はい?」
「あの、楽器を演奏している姿が素敵でしたので絵のモデルになってほしいのです。」
「…はぁ。まぁ、モデルなら。好き勝手吹いてるのでどうぞ。ご自由に。」

ひらひらと手を振ってまた続きを吹き始める。今度は落ち着いたバラード調の『Knights』の曲。ある意味恋の歌だよな。と思いつつ歌詞を思い出しながら、吹き進めると音のめずらしさにか子どもが寄ってきた。お話ブースが近いからか、わいてきたのだろう。アレンジを加えて音をショートカットして、俺はそのままメドレーのように童謡に入る。聞き覚えのある曲だったのか。そのまま子供たちが歌いだす。ブックフェアとかアートフェアって言ってた気がするけど、まぁ芸術だよな。と自己解釈して、幼稚園でうたいそうなものを片っ端から吹き始める。手遊び歌とかまで入りだして俺のレパートリーが尽きてきた。なんとなくで済ませてもいいのだがやりすぎてきてる気がする。どーしよっかなーと思い始めていると、入り口側につむぎくんが立っていた。「もうすぐ、お話会がはじまりますよー」なんて言いつついったん休憩してくださいね。とつむぎくんに言われたので俺は楽器を持って席を立つ。俺の近所で歌ってた子たちはそのままお話会があるぞー。と声をかけて誘導していく。子どもたちとあいさつしながら、手を振り返して俺はふっと息を吐いた。ブースの端っこで絵をかいてた人がいたのを思い出して俺は最後と言わんばかりに俺の大好きな自分のユニットの楽曲を一曲かき鳴らす。
フラメンコとパソの萌えるような闘牛の曲。一本だけだから深さも何もないけれどお気に入りの楽曲。男役と女役基牛役と決めて俺は自主的に牛役に回ったぞ。激しく懐かしいステップを簡略化して踏みながら楽器を吹いていると、自然と俺は嬉しくなって小さく懐かしむように一人歌っていたのだった。小さな音で、俺をモデルに絵をかいてた人もすでにいない。誰も見る人の居ない小さなライブ会場になったそこは、まるで今の『Diana』を表してるようだった。誰もいない城の主。民も全ていない俺だけの領土。俺の城。大領主だった俺の今。センチメンタルになった俺はあきらめて会場BGMとしてランダムになるように設定をして、いったん休憩に出る。戻ってきたらまたこんな気持ちを抱きながら楽器を吹くのだろうか。と思いつつ俺は一旦楽器を片付けるために控室に下がるのだった。




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