俺とスカウト エキセントリック 5e 





どこからともなく整髪料を出して日々樹が朔間の髪の毛を昔のように変えていく。そんな光景をみながらふと思い出したことは一つ。これでいくかーと考えていると、朔間のほうが終わったようだった。

「はい完成!どうですかっ、我ながら会心の出来映えですよ。」
「お〜懐かしい、昔の『れい』ですね〜」
「再現度が高いね、まぁ本人なのだから当然なのだけれど。」
「思い出話に花を咲かせれば咲かせるほど今の零と昔の零が様変わりしすぎて違和感がありましたからね。見た目だけでも若返っていただきましたー!」

さすがですー『じかん』を『まきもどす』なんて、わたるは『まほうつかい』ですねー。いや、その称号は夏目くんに上げちゃいましたけどね。で、ゆらぎくんは見つかりましたか。と話をふられて、あぁ、とおれは返事をする。

「事故ちょっと前のライブの話なんだけど、あの日俺だけ集合時間間違えてさ15分ほど遅刻したの。んで慌てて駆けていったら、なんかわかんないけど、手違いで全然違うユニットのライブ会場教えられたりしてたの。そのせいで、めちゃくちゃユニットメンバーにどやされて、最終的に到着したのライブ集合10分前とかなの。あれ以来、立ち会いを含めて、聞くようにしたよ。恥ずかしかったねー」
「ゆらぎそれって……」
「さぁね、そんなやつは今この学校にいないし、知らねえよ。さ、俺の話おしまい。で、朔間ってすごいよな。そんだけ戻れるんだもんな。」

いや、別にお主らが満足なら我輩も何も言わんけど。あんまり人をおもちゃにせんでおくれ、それこそかの自分を思い出してはずかしいわい。なんていいつつ日々樹から手鏡をかりて、見るとあぁそうだったこんなんだった、よく再現っしたもんじゃ。と朔間がいう。

「自分の顔は他人こそよく見えるものですよ実際。いやあお懐かしい『魔王』陛下っ、我ら『五奇人』の頭目、素晴らしい、我々が憧れ愛した『魔王』朔間零の再臨ですね。なんだか間極まってしまいました、抱き締めてもいいですか?」
「良い良い。おいで?、ほぉれ。これでまんぞくかえ?」

うんうんと頷きながら、日々樹をうでのなかに納めていると、斎宮がノン!と声を上げた。どうした?と聞くと、「駄目だよ零、老人口調のままでは画竜点晴を欠くのだよ。当時の姿に戻ったからこそ、些細な差異が不気味の谷に直結する。」とか言いつつちょっとやっぱり嬉しそうなんだよな。俺は五奇人じゃないからそのあたりはよくわかんない。俺を伏せられるか伏せさせるかの戦い的なのもやったことはあれど、当時の朔間と言われても、あんまりパッと思い出せない。斎宮くんまで悪のり、と朔間がいうのだから悪乗りしているのだろう。そう思うことにする。

「ゆらぎ先輩は朔間先輩に詳しくないのですか?」
「まぁ、学年もユニットも違ったしなぁ。あいつが生徒会のときに俺とそこそこドンぱちしたけど、書類と机上でな。」
「ええっと、当時は我輩どんなしゃべり方をしておったかのう。」

すっかりこの口調に慣れてしもうて、産まれた時から『こう』だった気さえしておるのじゃえれど。というが、赤子は喋らねえっての。と俺は突っ込みを入れておく。横から、日々樹が再現しましょうか。とイって口を開いたが当時の記憶がこうじゃないと訴える程度のレベルで俺は一人おなかを抱えて笑う。

「えっ、そんなんじゃった?我輩そんなんじゃった?」
「いつまでもボケてると、ここぞとばかりに零におかしなキャラ設定を付加しますからね。ほんとは覚えてるんでしょう、あなたにとっても大事な思い出のはずですよ?」

うーと唸りながらも、そう言われたら、惚けられね〜な。うんこんなくちょうだったはず。と独り言を呟くように口に出していく。お前素はあっちじゃねえのか?と思っていたのだが、どうもちがうような気もする。その様子をしばらく観察していると、深海が口を開く。

「でも、れいはそういえばなんで『おじいちゃん』になったんですか?」
「おっと、いけませんよ。奏汰。その経緯は零が先程『星砂糖』のまほうによって忘れさせたでしょう?あんまり覚えてほしくないようですよ。」
「『わすれる』もなにも、ぼくは『しらない』んですけどねー」

もうちょっと当時から、いろんなことに興味を抱くべきだったという深海を慰めつつ、俺は余った料理に再度口をつけ出す。サンドイッチやらを胃の中にゆっくり納めていると、恥ずかしがってもうやめていい。とか俺に訴えだした。俺に訴えんな、ほかに訴えて。っていうか、ゆらぎくんも事故前とあとで口調が変わったよね。とか飛び火がこっちにしてきた。

「いや、俺そんなこと、ねーから。」
「そういえば、そうだったような。ゆらぎも戻してみましょう。」
「やだよ。俺だって、こういうことするために口調を変えてたわけじゃないの。」
「零にだけやらせるのか?ゆらぎ?」
「斎宮、お前もか。」

私はあまり接点がありませんでしたからね。教えていただいても?とか日々樹に言われて、俺もちょっと恥ずかしくなってきた。いや、なんで俺前こんなしゃべりしてたんだろうな。

「渉うっせーよ。ほんと。なんだよ……いや、もう勘弁して。」
「何を照れてるんですか、零もゆらぎもかわいい人ですね、ごく稀に。」
「うう、あんまり調子こいてんじゃね〜ぞ。年上の男に対して『かわいい』とは何事だこの野郎。お前らの方が百倍可愛いから、愛してるぞー!!」
「零も年下になるし、ほんとお前俺と同い年じゃなかったのかよ。って感じなんだけど。」
「れいもゆらぎもおかしな『てんしょん』になってますね。」
「奏汰もいい加減にしろっての、いや、ねぇ。……」

ほとんどかわんねえから俺の口調!お前らの呼び方が名字になったぐらい!夏目以外!それだけだての!!。と俺は泣きそうになりながら頭を抱えるのだった。

「こうして、茶化しあったり馬鹿みたいなことで盛り上がったりしてると本当に当時に戻ったかのように錯覚するよ。あぁこれも僕の青春だった。本当にタイムスリップして、同じ時間を繰り返したいぐらいなのだよ、たとえ、その先にどんな絶望が待っていたとしても。けれど、それは望んではいけないことだよね。」

マドモアゼルに問いかけると、過去があるから今があるの、こうしてみんな笑いあえる、平和なじかんがね。こんなお友達がいるなら、あたしはやっぱりお役目御免かしら。と返事が聞こえる。俺は最後の飯を喉に押し込んでいると、安らかな寝息が聞こえた。ふと音の方を見ると、夏目が斎宮の肩を借りて眠っている。

「わあ、さっきから『しずか』だとおもったら、なっちゃんねちゃってますね。はしゃいでましたしねーつかれちゃったんでしょうか?」
「最近逆先くん、ユニットが本格的に活動を開始し出したから、大忙しだったんですよね。私も手伝ってるんですけど、大変そうで。」
「だから、『ねぶそく』でなっちゃんは『おねんね』しちゃったんでしょうね。」

水くさいですね。苦労しているなら、手助けするのに。と俺の聴覚がとらえる。声からして深海だろう。一年前の話はつむぎくん始めいろいろなところから聞いたりしているが、夏目は何を思っていたんだろうな。と俺は思う、俺はリハビリとレポートに明け暮れてたけどさ。

「僕たちが大変だった時期に、この子だけを蚊帳の外においたしね。その意趣返しでもないだろうけど、あんまり僕たちを頼りたくないのだろうね。」
「私たちがどれだけ残酷なことをしたのかを、この子は巳をもって訴えてるわけですか。呪い返しですね、なかなか味わい深い真似をします。」
「意地っ張りだよなー。お前がそれを望むならさ、俺らは世界を相手に戦争だってしてやるのにさ。」
「かわいい、かわいい俺たち『五奇人』の末息子ちゃんよ。」

無論、お前もその中に入ってるからなゆらぎ。五奇人と一閥だなんて言われてるけどよ。お前もいろいろあるとは思うけど、お前のためなら、一緒に戦争してやるよ。そう言われて、俺がは?と声を上げる。いやいや、お前らには迷惑かけれないよ。俺とあいつらのどっちが斬首台に乗るかわかんねえもん。と言えば、お主は思っている以上に周りに好かれてるんじゃよ。一人で戦うのもやめた方が良いぞ。と言われたが、俺はさあねと曖昧に笑う。

「まずは、この『おみせ』の『おしごと』をてつだいましょう。なんか、『うらない』とかするんでしたよね。そのていどのことしかできませんけど。すこしでも、なっちゃんの『たすけ』になれたら『うれしい』です」
「占いなら得意ですよ、任せてください、私は日々樹渉です。まぁ、本職には負けるでしょうけど。」
「残念俺その看板はないの。しかもそれは占いじゃないんだよな。本人の話を聞いて本人が動くように仕向ける、勝手に解釈する。それだけだよ。皿洗いでもしようかね。」
「僕は店内の掃除をしよう。小娘は料理などを頼むよ、零はは給仕をしたまえ、得意だろう?」
「言い方がひっかかるのう。まぁいい、お気に召すままに」

彼らの仲のいいやりとりを聞きながら俺は夏目に上着をかけてから、あんずと一緒に調理場に向かう。後ろでは深海がなにをやるかを決めようとしている様子だ。彼らの思い出になればいいな、と思いつつ杖を片手に裏方に俺は引っ込んだ。遠くから深海の甘い声だけが聞こえている。あんずと一緒に顔を見合わせて、二人でクスクス笑うのだった。



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