俺とスカウト エキセントリック 4 





ひとーつ。星の砂糖に夏目の魔法がかかっていて、誰も抗えないこと。
ふたーつ。星の砂糖にかかった魔法は、忘却の魔法であーる。
みーっつ。忘れるのは舐めた本人じゃなく周りの方。
よーっつ。砂糖を口にしながら、忘れてほしいことを念じる。
いつーつ。終わったら思い出すかもね。

夏目の話を完全に訳すとこんな感じ。間に五奇人の茶々入れがあったので、俺も把握するより突っ込みに疲れた。初っぱなに日々樹が手を上げたが、お前はダメだと斎宮が断言するので。いちばん最後に回してしまおうと全員同意の満場一致で可決した。そのままルールを知らないうちに砂糖を食べまくった深海が一番手になるようだ。それなりに深海の内面というのには各々が興味を持っているらしく、各々が口々にいい放つ。

「むずかしいですね〜。あらためて『かんがえる』と。」
「所詮は茶飲み話じゃ、飲み食いしながらまったり考えればよい。ゆらぎくんの飯も美味しそうじゃのう。わけてくれやしないか?」
「俺独りで食べきれる自信なかったし、どうぞ。スプーン俺のでもいい?」
「かまわんよ。」

俺の食べかけのスプーンと皿を朔間に渡してやるとそのまま残りを食べていく。そんななかで思い出したように深海が手を叩いた。『はっぴょう』しま〜すいいですか?と聞かれて、朔間が問いかけた。

「ぼく、『おかね』の『もちあわせ』がないんでした。だから『のみもの』の『だいきん』はみんなに『はらって』もらったんですけど。その『かり』をわすれてください。こんげつ『ぴんち』なんです。」
「せこい!っていうかちっちゃいですね『みんなにわすれてほしいこと』が!」

いいですよ、おごって忘れますよ。そのぐらい。わざわざ魔法に頼らなくてもいくらでも。日々樹が頭を振る。おきにめしませんか?じゃあぼくの『おうち』のことを『わすれて』ほしいです。と真逆の方向性をぶっこんでくるので、日々樹が話題のチョイスが極端だと言い切った。確かにそうだな。と思いつつも、忘れたよ。と俺がいう。そうすると、次々に俺も。と言い出して、うんうん。と頷いた。「けれど、最初から我らは『深海さんちの奏汰くん』ではなく、お前がお前だから好きなんだよ。」と「人魚姫の泡から生まれた」とかいろいろいいつつ、深海は「『いきぐるしさ』が、すこし『きえた』きがします。おさとうを、ほんのすこし『なめた』だけなのに。なっちゃんの『まほう』はひとを『しあわせ』にしますね。」と夏目に笑みかける。その笑みに夏目は笑み返して、そのための魔法だという。

「次、僕が発表していいかね。皆と話していたら、不意に過去の恥を思い出したのだよ。」
「えっ、何ですか?夢ノ咲学院の『帝王』と『魔王』が糸電話で会話していたことですか?あれ、端から見ると爆笑でしたけどね。ゆらぎ。」
「あーあったな。」
「それも、忘れたまえ。意外とアナクロな手法の方が盗聴の危険性が低いし、そんなに馬鹿にしたものでもないのだけどね。」
「デジタルに偏重すれば、人肌のぬくもりも見失ってしまうぞい。」

そういう世の中も時代の流れじゃけど、蝋で封をした手紙の良さも忘れてはならんの。と言いつつ朔間の昨日の連絡全部ひらがなだったのを思い出した。それを言えば、喜んで教えますよ。と日々樹が申し出る夏目も同意しつつそのまま斎宮の話に戻していった。

「いや、恥ずかしいかどうかは個個人の主観によるけれど昔僕がつくった『ある衣装』のことを忘れてほしい。」
「まだ未熟な時代に作った作品とかかのう。そういうのを見られると恥ずかしい〜という意見に同意できるわい。」

過去六人で踊っていたあの頃の映像とか俺好きだけどな。というと、お主の経歴が経歴じゃからの。と言われる。歌は今でも下手だけど、楽しそうに踊っている自分を見るとおどりたいな。と感化される。家で弟凛月氏の嫌がらせ上映会の方が気になったけど、俺が言及することはない。

「私も、手品をしてたはずなのに、鳩が制御できずにコントみたくなった映像が残ってるんですよ。子どもの失敗みたいな感じでほほえましい感じではあるんですけど。」
「えーわたるが『しっぱい』するなんて、『ぎゃく』に『めずらしい』です。みたいですそれ。こんど『みんな』で『じょうえいかい』をしましょう。」
「えぇつ、奏汰は意外と意地悪ですよね〜。そんな屈辱には耐えられません、あぁ考えただけでゾクゾクしちゃいます。」
「悦んでいるではないかね。まぁ、だいたいそんな感じの…若気のいたりで作った衣装なのだよ。みんなに一着ずつプレゼントしたと思うけどね。」

僕たちが『五奇人』などと呼ばれて、どんどん仲良くなって、一閥の青葉が加わって、僕せっかくだからみんなでお揃いの衣装とか着たいな〜。などと思ってしまってね。作っただろう、そういうのを。あれ、当時の自分の浮かれっぷりがまったく隠せてなくて悔いが残っているというか。思い出すだけで、赤面してしまうのだよ。だから、忘れてほしい。まだ持っているなら燃えるゴミの日に出すか、永遠に発掘されない深い地層に埋めてくれたまえ。
真っ赤な顔をして斎宮がそっぽを向く。抱いたマドモアゼルは沈黙を保っているが、ちょっと嬉しそうにも微笑んでるように見えて、あ。あれか、と頭にすぐに浮かんだ。あの衣装は気に入ってるので俺の部屋でいちばん見えるところに飾っている。事故を起こしたときの衣装の横に。一緒に飾ってある。

「えー、そこはさすが宗。という感じで、出来のいい衣装でしたけどね?私、みんなで取った写真と一緒に大事にして飾ってますよ。」
「ボクもだヨ。『五奇人』なんてまとめて呼ばれていたけれド。それぞれアイドル活動は個別にしていたしネ。おそろいの衣装ッテ、な〜んか嬉しかったんダ」
「俺も『Diana』の衣装の横においてるよ。見えるところに、あんまり今はそんなにユニットに思い入れもないしね。つむぎくんにはいろいろ言われるけど。」
「結局、ゆらぎくんが事故してしまったから、全員揃って着ることもなかったからのう。それも衣装がもったいない。」

そのうちみんなで着て『五奇人』で秘密のゲリラライブとかせんか。
そんな一言を聞いて、俺の頭のなかに五奇人と俺とならんでライブしている図が見えた。あ、いいかも。とか思ったのをひっそり胸のなかに仕舞い込む。言ってはならないだろうと思うと同時に、そんなことになるなら壁はひどく高いような気がする。少なくとも5ユニットの4人ほどリーダーをしてるから問題はないだろうけれど、秘密裏にというにはかなりの人数がかかっているなぁ。と思う。

「ゆらぎはどうですか?」
「いいよな。ライブ。俺も最後はソロライブやりたいなあ。どうせ一人だし。手切れ金としての校内活動金もらってるしなぁ。」

手切れ金?俺もいろいろあるの。お前らのユニット並みのゴタゴタが。ま、止まらない処刑台への行進曲は俺もあいつらも降りれないし、誰も止めるなんて出来ねえよ。なんて意味ありげに笑っても俺はそれ以上口を開かない。

「待ちたまえ。みんな前提をすっぽ抜かしているよ。『星砂糖』を食べて忘れてほしいと強く念じたことはみんな忘れるのだろう。そういう規則だよね。ちゃんとそれを遵守して忘れたまえ。」
「みんなが忘れてくれないってことハ、きっと宗にいさんも覚えてほしいっておもってるのサ。心から強く念じてないかラ。魔法が発動しなかったんダ。いいんじゃないノ、いつかほんとに『五奇人』とゆらぎにいさんでライブができたら最高に幸せだよネ。苦しいことや哀しいこと、痛みや憎悪は一旦忘れちゃってサ。」
「うむ、忘れるなら、『それ』じゃのう。人間は苦痛や重荷をすべて捨て去って、愛だけを抱えて生きていくことは出来んのじゃけど。」

我らは一度、怪物のように呼ばれた。人間を超越した神か悪魔のように。だからこそ、その程度の奇跡は一閥のゆらぎくんがおれば、きっと赤子の手を捻るよりも簡単に、いや息するが如く起こせるじゃろうの。な、ゆらぎくんや。
降られて、おれはそうだなぁ。とかんがえるのだった。いろいろ考えていると、そのままつぎはのーと、そういえばさっき珈琲に入れておったじゃろゆらぎくんと言われて、そういえばそうだったと思い出して、とりあえず追加で珈琲に二三個突っ込む。

「俺の忘れたい過去なぁ。軽いことで言えば、『Diana』があったこと、かな。」
「自分で拵えたユニットじゃのにか?」
「あいつら卒業式のときに、学校に戻ったんだけどさ。あんまりいい感じのこと言われなかったんだよね。」

ほんとに忘れてほしいこと持ってきたノ?これ以上いうと、重たくなるけど…。事故のこと忘れてくれないかな、とか中学卒業の時のゴタゴタを…とか、産まれてすぐぐらいとか…。にいさん重イ!それもっと私たち以上の人間が関わってるじゃないですか。うーん。ほかなぁ言うなら、あんずが倒れたときに、もっと振る仕事軽くしてりゃあ良かったなとか、もっと俺の仕事重くしてたら蓮巳と三毛縞に怒られることもなかったんだろうなーとか。駄目だ、次だ次。と振っていると、朔間が口を開く。日々樹が口を開けながらで構わないので、違和感があるから零の髪型を変えたいと声を上げる。ゆらぎはその間に思い出してください。と言われたので、渋々おれは考えることにした。



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