俺とスカウト エキセントリック 3 





「にいさんたち、ご注文の品々を運んできたヨ〜。」

両手のトレーに一杯の飲み物とつまめるものを持って夏目がやってきた。朔間が夏目に座るように促せば、やれ腕のなかにおいで。とか、膝の上が空いてるとか。お隣に余裕が……これはいいか。なんかとんでもない単語ばかりが聞こえる。俺はやれやれと首をふって、ここにすわれ。と促す。俺は近くの席から椅子を引っ張ってきたらいいだろう。と判断する。

「一番奥が動いてどうする。」
「いやいや、俺の側からでも出れるから。いいじゃんか。」
「そうだネ。ゆらぎにいさんの言うとおリ、宗にいさんの隣に座るヨ。」
「僕の横には小娘が座っている。ゆらぎも小僧も座れば窮屈になってしまうだろう。……まあべつにいやとかではないのだけれど。」
「そうだね狭くなっちゃうし。夏目、近くから椅子引っ張ってきてー」

これだとどっちが年上だかと朔間があきれているが俺の足はまだ完全には戻りきってないのだ。治りきる前に踊ったり跳ねたりしてるから一進一退を繰り返してわずかに良い方に良い方にと進んでいるのだ。
猫はネ。一番居心地のいい場所を知っているものサ。子猫ちゃんは宗にいさんの横を選んだでショ。そういうことだヨ。ネ?と俺に同意を求められたが、いや、腕のなかとか膝の上とかお隣に余裕と言いつつ、いつ水をぶっかけてくるかわからないから、一番無難な場所であるここを譲ったつもりなのだが。それは言うとブーイングを食らうので、黙って、そういうことだよ。としておこう

「カップを倒して熱いお茶飛沫など肌にかからないように気を付けたまえ。君は意外とも粗忽者なのだから。」

といいつつお嬢さんが大歓迎よ。と言ってるのだから、五奇人って面白いよな。と思いつつ、俺は夏目が持ってきてくれた椅子に腰を下ろす。他のにいさんたちが不満そウ。とちょっと語尾が嬉しそうな夏目が周りを見回す。本人がわかっててやってるのだから夏目は。と俺は頭をゆるくふる。

「つれないですね。これって反抗期でしょうかね?」
「だっテ、零にいさんたちはなにかやたらと『ちょっかい』を出してくるシ、宗にいさんの近くガ、いちばん平和なんだヨ。ありがと、ゆらぎにいさん。」
「さすがの我輩たちでも身内に悪さはせんよ。寂しいのウ。肌寒い時期ゆえに幼子の高い体温が恋しかったのじゃけど。ゆらぎくんで我慢するかの。」

服の裾から入ってくる腕を俺は悲鳴を上げながら叩き落とす。俺は身内じゃないのかよ!と言いながら朔間と距離を開ける。もう、いつまでたっても子ども扱いするんだかラ。とそれに、さぁ、零にいさんたちだけが、『三奇人』とか呼ばれてるでショ。ボクまで『そっち側』に行ったラ、宗にいさんが独りぼっちになっちゃウ。
孤独など苦にならないのだけれど。憎たらしい連中がつくった枠組みに踊らされるのも業腹なのだよ。『五奇人』だの『三奇人』だのくだらないね。と言う斎宮にほら、もう素直じゃないねぇ。と言いつつ俺は茶をすする。長年付き合いの長いからか、こいつの裏はだいたいなんとなく読めてるし、にやけてるのが実に面白い。

「そう言いながら、嬉しかったのか、にやけておるの斎宮くん。」
「いってやんな。言わない方がこいつのかわいい面が見れなくなるぞ。」
「喧しいよ。」

ちょっと照れて視線をさげる癖も俺がこっそり発見したものだ。くつくつ笑ってやると、斎宮がなにかに気づいたようだ。

「なんじゃこれ、星形の角砂糖?形が立方体じゃなくても角砂糖って呼ぶのかのう。」

日々樹くん知っとるか?と差し出しても、零が知らないものを私などが知ってるわけないでしょう。と言い切る。なんじゃそりゃ。呆れ顔していると、深海が一つをつまんでなめた。親のように吐き出せと朔間が言うが、深海は「おさとうですね。ふつうの。」と断言しきる。人数分俺の前にもおかれていて、日々樹が夏目に教えろとせがむ。これではどっちが子どもかわからなくて、俺はケラケラ笑う。手を伸ばしすぎて夏目に叱られてる辺りも可笑しくて、笑ってると笑いすぎだと隣からチョップを一つ。

「見た目は華麗な貴公子ぶってるくせに、日々樹くんはたまに乱雑じゃのう。」
「お客様の前ではお利口さんにしていますよ。早めに説明しないと奏汰が間食してしまいますよ?」
「深海、糖尿とか血糖値急上昇とかするからほどほどにな。」
「ゆらぎにいさんも食べ過ぎないでネ。」
「俺は燃料補給のため、それいがいのときはたべません。」
「ただ、駄弁るだけだと退屈かと思ってネ。ちょっとした余興を用意したんだヨ。他にお客さんもいないかラ。ある程度は騒いでも大丈夫だろうしネ。」

余興という単語に反応してか日々樹がマジックショウを繰り広げましょうか?と言うが、こいつどこまで…さっき108つって言ってたな。と思い出すが、瞬間に日々樹が薔薇の花を撒き散らした。早い。おい、早すぎるわ。

「薔薇を撒き散らすな渉。造花ならともかく、生花は服についたのに気づかずにいると、腐ったりして汚れの原因になるのだよ。」
「そんな本格的な余興はやらないかラ。この若輩者にはにいさんたちを喜ばせるような芸はできないしネ。」

会話のとっかかりぐらいに考えてヨ。というが、頭のなかをボードゲームをしている構図が浮かんだが、男六人のならんでやる構図だろうか、っていうか、日々樹とかがマイナールール引っ張ってきてとんでもないことにしそうな気がした。

「パーティーゲームみたいなもんかや。すっかり飲み会になってきたのう」
「酒のみたい。」
「ゆらぎ、制服ですから駄目ですよ」
「わかってら。」

王様ゲームみたいなものですかね。『魔王』様の命令はー絶対!的な。命令なんかせんよ。『魔王』は引退しておる。おぬしらは、首輪をつけずに野放しにしておいた方が見ていて愉快ではあるしのう。よくわかんないけど、『ぱぁてぃ』も『げぇむ』も『たのしいもの』ですよねー。普通に会話するだけでも十分だと思うのだよ。まぁ、君が望むなら付き合ってあげるけどね。
好き勝手しゃべってるのを、聞いてるのだけでも楽しい。そのまま星の砂糖を一つつかんで紅茶に足してみる。

じゃあルールを説明するからネ。零にいさんにもいったけド。忘年会シーズンだかラ。それにちなんだ余興だヨ。と口火を切って、夏目は話しだした。



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