俺とスカウト エキセントリック 2 





どーんと突っ込まれた先に、朔間と夏目とあんずがいた。
有無を言わさず俺はソファー席に押し込まれて、隣に斎宮が出入り口をふさぐ。日々樹が適当に飲み物を頼んで、一息をつく頃に深海に飲み物が渡っていた。まって、いま何がどうなったの?落ち着いて説明プリーズ。なんて思いつつも周りはスタスタ話が進んでいる。

「おいしいですー生き返りました!」
「それは重畳。深海くんは不死者を名乗る我輩よりも、よっぽど死にかけたり生き返ったりするのう。もっと身体を大事にせいよ。冷や冷やするわい」
「貴様もだ青葉。もっと早くになぜ言わない。」
「いやーまっすぐ帰る予定だったんだけどねぇ。お前らと出会ったら立ち話長引くし。」
「冬だけに、冷や冷やですね!Amazing」

おもんねえぞ。と言うと、深海がぞくっとした。まで付け足して、えっ。と日々樹が固まった。そんな光景をみつつ俺はクスクス笑う。小言を垂れても仕方ないよ零。奏汰は他人の言うことなど聞かないのだから。近頃の深海くんならば多少は人語も通じるであろう。我輩はそう信じたいのう。いつまでも世の道理を弁えぬ傍若無人な怪物でもあるまい。どうでしょう?奏汰はいまも昔も我らのなかでも一番浮き世場馴れしてますからねぇ。
とか五奇人が揃って言うが俺から言わせてくれ、お前ら全員、浮世離れしてるっての。なに自信もって言ってる三奇人。一番はわたるですよーじゃないの、深海。

「『普通』って何じゃろうな。逆先く〜ん。我輩にも珈琲のお代わりをおくれ、血のように甘く、夜のように黒い珈琲を。」
「血は甘くないヨ。っていうかボクは店員じゃないんだかラ、給仕をさせないでネ。ゆらぎにいさんも言ってやってヨ。」

ぷりぷり怒りながらも夏目は人数分のお代わりを持ってやってくる。いいけどサ。といいつつ対応してくれる。本職じゃないかラ。味は期待しないでネ。といいつつ俺のカップにも珈琲が注がれる。俺たちのカップにいれながらあんずに、手伝ってくれと助成の声を上げる。

「僕は他の連中と違って、必要なものしか接種しないよ。クロワッサンはないのかね小僧。」
「さっき買い出しで買ったけど食べる?学校近所のパン屋だけど。」

カバンから取り出すと、引ったくられるようにとられた。おい、人の明日の朝飯をうんとも言わずに取りよって。やっぱり奇人だよな。と小さく声をこぼす。袋から取り出されて、そのまま一つが朔間の手に渡る。すかすかして食いでがない気がするのじゃが。斎宮くんは見た目の美しさだけで口に入れるものを選んでおらんかや?なにか問題があるのかね。美しいものだけを体内にいれたいよ。と二人で勝手に話を進める。ので俺は諦めて帰りにでももう一度パン屋によろうと決める。深海にゆらぎ元気を出してください飲みますか〜的なことを言われたが珈琲もあるので遠慮しとく。熱量目的の俺は、珈琲にさっさと砂糖をいれて、ミルクを足す。

「ゆらぎにいさんと渉にいさんハなにか注文すル?」
「なんか甘いの二個。夏目のオススメでいいよ。」
「この面子だと他のみんなが道化てくれるので、私は気が楽です。とりあえず紅茶と夏目くんが我らに饗したいメニューを一品ずつ頂戴しましょうか。」

判断をボクに丸投げしたネ。責任重大…でもないか、ゆらぎにいさんが食べるんだシ。どうせ昼抜いたんでしョ?と言われてぐぎっと体を強ばらせる。会ったら確認しておいてとつむぎくんから連絡が来ていたらしい。あのセコムほんと優秀。ちょっとだけ待っててネ。と言うと夏目は奥に引っ込んでいいった。

「なっちゃんも、はたらいてないで『ごいっしょ』しましょう?たまぁに『えんりょがち』ですね?」
「じゃあ俺どっか行っておこうか?あんず飯でもどうだ?」
「お主もほぼほぼこちら側のくせに何を言っておるんじゃ、一閥よ」

そんな名前じゃねえってのと悪態をつくと、そう気になさらずに。と日々樹に言われて、再度腰を下ろす。

「ひとりだけ年下だからね。先輩どもの群れのなかに単身で突入するのはなかなか勇気が必要だろう。」
「俺の年齢忘れてるときあるよね、斎宮。俺おまえらの実は二年上だけど。」
「留年は一年だけでは?」

あぁ、中学卒業時にちょっとごたごたして一年遅れてんの。入試も二度やったよ……よそとここと。まぁ、対外的に面倒だから一個上って言ってるけどな。

「零が過剰に年上ぶって偉そうにするのと根っこは同じなのだよ。ゆらぎは…ただの馬鹿だが。」
「いま、斎宮が俺の名前!」
「なんでもない!!!」
「こっちに飛び火もしよった。斎宮くんにはわかんらんよ〜。留年して年下の子たちと肩を並べて青春を生きるきもちは。のうゆらぎくんや。」
「そうか?」

俺まともに小学校も中学も通ってなかったから、べつにこういうのきにしてないけど。お主は特殊だった、これはこれでわりと気を使うんじゃよ。深海くんも斎宮くんが心配じゃけども、みんなも進級した方がいいぞ。普通にやってたら進級卒業できるっての。と俺がこぼす。そうじゃがのなかなか生殺しじゃからのう……このあたりは自業自得じゃけれど。と朔間が頷く。

「ともあれ、合縁奇縁。というべきかのう。まさかこんんあ何でもない日に我らと一閥が勢揃いするとは神の遊びか悪魔の罠か何はともあれ興味深い展開じゃのう。」
「単なる偶然だろう。零と小僧が偶然同じ店で遭遇。僕と渉が趣味の博物館めぐりを共にしていて、帰り道で偶然青葉と出会い、奏汰と出会った。」

そして彼に水分を接種させ、ゆらぎの体力回復を求めて入った喫茶店で偶然全員が合流できた。学園に所属している以上、僕たちの活動範囲は重なっているからね。偶然がこれだけ連続するのも確率的にあり得ない話ではないのだよ。零は少々浪漫に偏重した物言いをするのが鼻につくね。ふんと鼻をならして、いるが日々樹に小さく笑って、それは『五奇人』に共通する愛すべき悪癖だと言い切った。

「ずぅっと『ぶたい』にいるみたいでしたからね〜。『きょねん』は。」
「悪かったって。そんな目でこっちを見ないでくれ。深海。」
「おこってませんよ。しんぱいはしました。」
「去年は、今年一年で各々一閥含め、それぞれの人生も様変わりしたようじゃがの。それを語り合おうぞ。偶さか巡り逢えた旧い友よ。」

ちょうど忘年会当愛すべき風習が盛んな時節じゃ、茶飲み話には胃もたれするが、我らの一年を回想しよう。逆先くんも飲み物なぞの準備を終えたらこっちにおいで。嬢ちゃんもせっかくじゃから同席するが良い。無礼講じゃよ。俗世のしがらみは忘れて満喫しようぞ。このような奇態な一幕。滅多にお目にかかれるものではないぞい。
るん。と効果音がつきそうな程、朔間が嬉しそうに笑った。赤い瞳が、ゆったりと弧を描いて、赤い三日月が出来上がっていた。



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