俺と軌跡 電撃戦のオータムライブ 7 





着替えをぱっぱか済ませて、柔軟を念入りに…俺は足に問題があるからね。衣更を見送って、しっかり体をほぐす。合流するために部屋に入ると歪な光景だった。明星たちもいて、乱もいて、七種もいる。『Adan』と『Trickstar』がにらみ合うように立っていた。2つのユニットの間で絶望したような顔した衣更がいた。「この子は駄目だね」乱の低い声が俺の聴覚をとらえた瞬間に、脳天を殴られた気がした。俺の過去が一部見えた気がした。影で叩かれてた俺が、心に皹入れて戦ったあの日々が。ダブって見えた。

「何が駄目なんだよ。格上の余裕って奴か?」
「つむぎくんのお兄さん」
「質問に答えろや。」

あぁ、そうだね。と思い出したように乱が駄目だと言った理由を上げはじめる。天性がない。と生まれ持ったものがない、誰でも努力次第で立てるところだと、乱がいう。そのまま最後につむぎくんのお兄さんが入った方が映えるとか言い出して、ふざけんなと俺は叫びそうになった。ふっと息を吐いてから、乱…お前にこいつらの何がわかっている?俺がそこにたったって彼らの培った後にたつのもおことわりだ。俺は本来『Diana』であって、『Trickstar』ではない。それに、俺はこれからどこかのユニットに属するつもりもない。ましてや『Trickstar』という後輩の場所を奪うつもりもない。俺は…そこまで言って冷静になれてない俺を自覚する。
俺は氷鷹に今日のスケジュールを明日に回す今日中に一通り確認して明日やるからよろしく、とつげるだけ告げてと部屋を出る。違う、あいつらは俺たちじゃない自分に言い聞かせども、腹にまったく落ちていかない。納得できない腹ただしさを感じて、俺はくそったれと吐き捨てる。あいつらは人の影で笑うようなやつじゃないのを知っている。そんなに付き合いはなかったけど、それは周知の事実だ。
だから、応援したくなるのに、自分たちに重ねてしまうことにお腹がたつ。

「あいつら、じゃないのにな。」

冷静になれない俺が、あいつらの代わりに怒ったって仕方ない。よそのユニットに噛みつくのは今回の俺の仕事じゃない。ゆるゆる首を振ってカバンの中に入れたタブレットを取り出す。適当なレッスン室を借りて、明星たちに位置を知らせておく。GPSだけつけた内容のないものだが、おそらくこれで、わかるだろう。そのまま俺は部屋に飛び込むと、我をなくしたかのように踊る。俺に才能なんてない。ひたすら躍りくれるのだけが俺だ。それが、才能だなんて言われても、俺はそうじゃないと思っている。誰が悪いんじゃない、俺が悪いんだからさ。ひったすら踊り狂っているとふと音が終わった。俺の背中から光が照らされて驚いて振り返ると警備員と見慣れた顔がそこにいた。

「ゆらぎくん、まだ踊ってたんですか?」
「…へ?つむぎくん?」
「はい、もうとんだ目にあいましたよー。…ゆらぎくんどうしたんですか?お顔が暗いですよ〜。」

帰りながら話ぐらいなら聞きますし、帰りませんか?そう言われて時計を見るとかなりの時間を使っていたようだ。感情のままに踊るとこうだ。やだやだと首を降ると。どうかしました?と聞かれるが、俺が言うことではないので、なんでもないと言い切る。あいつらの問題だし、俺が口を挟んでもややこしくなるだろう。最悪、介入は考えてるので、そこまで深刻じゃないよ。と告げる。で、つむぎくんはどしたの?こんな時間まで、仕事?なんて聴くと、聞いてくださいよゆらぎくん。と言い寄ってくるので、これは話が長そうだと判断する。長いと長いでいいんだけど、ここで立ち話をかねてる暇はない。つむぎくんと一緒にやってきた警備員さんが困り顔でこちらを見ていた。

「もう俺も着替えて帰ります。タブレットもあるんで、入退室は大丈夫ですー。これと一緒に帰りますから、気にしないでくださ〜い。」
「これってなんですか、ゆらぎくん。」

ぷいっと頬を膨らませるつむぎくんをみて俺はクスクス笑う。警備員もそーですかー。と柔和な笑みを浮かべて、他の点検に回っていった。さっさと着替えるために俺は部屋の隅においた荷物を拾い上げる。どうせここで着替えても帰ったらすぐ寝間着だ。もうこのままでいいや。と思い鞄を背負い、つむぎくん帰るぞ。と声をかける。膨れっ面していたつむぎくんは、騙されませんよ。とまだ唇を尖らせている。ほらほら、かえっぞ。と杖を持たない手を差し出してやると、つむぎくんはそっと俺の手に重ねてくる。

「帰ったら伏見にどやされるかもな。そんときにでもつむぎくんの不幸話でも聞かせてもらおうかな。今晩の飯なんだろうな?」
「英智くんのおうちのご飯ですから美味しいですよきっと。」
「じゃこおかかチーズおにぎりより?」

それはわかりませんねー。とつむぎくんが笑う。いいじゃん、俺の大好物。と言うと、帰ってからしかつくりませんよ。と言われて帰ってからの楽しみが増えて俺は嬉しい。つむぎくんも俺の食べてる顔がいいえがおですよね。とかいうぐらいなので、結構おれたちヤバいところ走ってるよな。って今更ながらに思う。いやいいけど。
そのまま他愛ないことをしゃべったり、そのままどうでもいいことや仕事のことを話しているとすぐに宿にたどり着く。フロントというか古式ゆかしい受付を経て部屋に入ると、伏見が待っていた。

「お帰りなさいませ、青葉様。お待ちしておりましたよ。同室の青葉様方が姿を見せないまま、わたくしだけ先に眠るわけにもいきませんし。ゆらぎ様は踊られてたのですか?」
「いろいろ考えることあったからな。」
「ごめんなさい、伏見くん。ご迷惑をおかけしました。」

この程度で目くじらを立てていたら坊ちゃまの執事は務まりません。と伏見が言う。確かに、あの我が儘姫宮なら、そうかもしれないな。と俺はひっそり頷いた。それと『Trickstar』の皆さんが心ない人のように思われるのは遺憾ですので、ご説明します。皆さん、青葉様が先に旅館へ戻られたと思っていたようですよ。ゆらぎ様のお借りになったレッスン質にも顔を出したようですが、鬼のような形相で踊っていると仰ってられましたから、そのままにしておいた。と伺いましたが。旅館へ顔を見せてくださった際に『あれ?青葉先輩は?』などと仰っていましたし、忘れられたわけではないでしょうから、そう気を落とされずに。やんわりと説明しているのに、まだちょっとひねくれモードのつむぎくんは、いいですけどね。今回は『Trickstar』のみんなが主役ですからね、俺のことなんか忘れられちゃっても。と完全に唇がとんがってる。

「凪砂くんのお世話をしたあと、置いてきぼりにされたうえに、うっかり浴場にとじこめられちゃって、俺にっちもさっちもいかなくなってたんですよ。秀越学園の設備は、専用タブレットがないと出入りすることもできないらしくって、なんかその辺のシステム的な問題で身動き取れなくなって、ようやく見回りの警備員さんに助けてもらったと思ったらこんな時間ですよ。」

近頃ゆらぎくんに助けてもらって平和だったから油断してましたけど、すっごい不幸です。と肩をおとすので、俺はつむぎくんの頭をごりごり撫でて、気にすんな、笑っとけと。と慰めるように笑うのだが。一方伏見が浴場に閉じ込められたならスマホなどで助けを呼ぶこともできなかったでしょうしね。見事なドジっぷりでございますね。と叩き落とすので、もうフォローできなくなる。

「わたくしの観測するかぎり、かつての『fine』は手がかかる子であることが加入条件だったのではないかと」
「あーそれ、お前も含まれてないか?伏見。姫宮もふくまれてるんだから、お前も必然で入ってるぞ?」
「えぇっ、意外と毒舌……!英智くんの影響ですかね〜?」

そうじゃなかったら、誰が『fine』をたちあげるんだよ。とこっそり思いつつ、俺はごそごそと風呂の準備を始める。ふたりのやりとりを聞いてると、軽い漫才の気分になってきた。

「ふみ、けれど実際、本日の『trickstar』の皆さんはやけに様子がおかしくはありましたね。」
「普段なら、青葉様の姿が見えないなら心配して捜しそうなものなのに、皆さんどうも気もそぞろで、入浴や食事もそこそこに寝床についてしまったようです。」

枕投げなどしていたらしばき倒せるように腕捲りをしていたのに。と伏見は考え込んだが、多分乱がからんでくるのだろうか、と俺は推測する。夏にあったライブとは違いこちらはひどく粘着質だ。大丈夫かよ、と思いつつ、あいつらは俺たちじゃないと判断して首を降る。そうだ、信じればいい。それだけだ。

「ていうか、『Trickstar』のみんなはおれたちサポート要因とは別質って感じですか?」
「えぇ、皆さん仲良しですし、その方がよかろうと考えて同室ですけどね。私たちサポート要員は何組かに別れて別室で寝泊まりします。」
「俺たちまで、こんなお値段がしそうな部屋に泊まっちゃって大丈夫なんですか?」
「はい、会長様がご厚意で旅館を貸しきりにしてくださったので、宿泊費などの心配は無用でございいますよ。」

旅館の従業員も、敵の息がかかってない信用のおける人物のはずです。そのあたりは茨の存在が気がかりですし……、わたくしがひと悶着を起こしてまで徹底的に確認しましたから。と満面の笑みで言う伏見の一悶着がちょっと気になった。アイドルだから、暴力沙汰はやめような、と釘を差しておく。そこまもちろん。と笑みを崩さず言っている辺りが、手厳しい。

「ええっと、敵って。どうも物言いが物騒ですね。これも英智くんの影響ぽい気がします。」
「わたくし、とくに会長様から影響を受けている実感がございませんけど、率直に申し上げると、大変遺憾です。」
「いや〜夢ノ咲の子たちはみんな周りに影響を与えちゃうんですよ。ゆらぎくんとかとくに。」

一閥だなんて名前がついちゃうほどに。五奇人と匹敵するほどのネームバリューを持っちゃうんですから。でも、まぁ、それがアイドルですから。俺も、みんなの影響でちょっとだけ前向きになってきた気がします。満足気に頷いているつむぎは確かに変わったと思うよ。もちろんいい方向に。俺もお前もマイナス寄りだったからね。それがちょっぴりプラスとかそんなかんじだから、いいんじゃないかな。前に進んでて。それでいいと思うんだけどな、一人思う。カバンからシャンプーやらを出し終える。同じ家に住んでて同じものをつかっているので、二人で共用のシャンプーリンスボディーソープを準備を終えて、そのまま着替えに手をつけだす。

「朱に交われば赤くなる。わたくしも、最近は毅然とした執事ぶるのも面倒になってきています。ちょっと素がでているのかもしれません。」
「そうですか〜、それは良い傾向だと思いますよ伏見くんっていつも演技ぽいと言うか、慇懃無礼ですから。もうすこし年相応な男の子っぽくふるまってもいいのに。って思いますよ。」
「お前らほんと二人とも、慇懃無礼だよな。」
「ゆらぎくん。もそうじゃないですかー」
「お前が治るまで俺もこうしてるの。目には目をだよ。」

えぇ、そんなーとか言うけれど、兄弟なのにこういうのってまぁ、俺は何でも良いとか思ってるから良いんだけど、な。仲がよろしいようで。とクスクス伏見が笑っている。そうですよね、『Trikstar』のみんなを見習って、同年代の男の子としてなかよくすべきでしょう。一週間同じ屋根の下で寝泊まりするんですし、ずっと他人行儀に振る舞ってたら、肩がこっちゃいます。なんていうが、俺たちこれが普通だろ。と笑うと、「わたくし、堅苦しい感じに振る舞う方が楽でございますよ、同じクラスのかたに怒られますけど、気安い感じのタメ口でしゃべったりする方が苦痛ですね。」うんうんと勝手に卯な付く伏見をよそに俺は俺とつむぎくんの荷物の支度を終える。

「ともあれ、青葉様にはかつての『fine』のことなど……いろいろ教わっておきたいところですし、なるべく仲良くすべきという点については同意いたします。」

そんな伏見の言葉に俺は小さく眉をひそめた。良い思い出はない、ゆっくり風呂にでも浸かろうと席をたてば、つむぎくんの笑い声が聞こえて、言葉が耳に入る。「昔の『fine』のことなんか、聞いて面白い話でもないですよ。」
「けれど、知るべきでしょう。わたくしも『fine』ですから。わたくしも、坊ちゃまも、いつまでも愚かで無邪気な子ではございません。『fine」を名乗りつづけるかぎり、いつか正視するべきことです。話せることだけで構いませんので、色々おしえてくださいまし。今の『fine』の先輩方は格好をつけてなかなか話題にだしてもくれませんけど。わたくしも馬鹿ではありません。『fine』が以前からずっと完璧で後ろ暗いところのない気高い集団であったなどと夢想はいたしません。けれど汚いところも痛ましいところも含めて受け入れたいとおもいます。」

坊ちゃまにすべて伝えるかどうかは、内容次第でございますけど。綺麗なものだけ与えてては、いつまでも免疫がつきません。わたくしは坊ちゃまの奴隷ではなく守り支える使用人です、坊ちゃまのために。その輝かしい居場所となった『fine』のことはすべて知っておきたいです。ここでかつて『fine』の一員だった青葉様と、そしてそれ以前の夢ノ咲を知る一閥様と同室になったのも何かの縁でございましょう。色々ご教授くださいまし『先輩』方。
是も非も言わせぬ物言いは完全に『fine』の子だな。なんて俺は思ったが、とりあえず先に風呂と飯だ。と俺はつむぎくんの耳を引っ張って大浴場に向かう。そろそろ風呂の営業時間が終わってしまう。部屋風呂でもいいけど、せっかくの風呂だから良いだろ!と言うと、ええ起きて待っておりますので、なんていって、伏見は俺たちを見送ってくれるので、作戦会議だよ。つむぎくん。わかったから、スマホ触ってていいから。



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