俺と最後の踏伐・夜の終演ライブ。 18e 





お腹すいたなぁ。とか思って目を開くと、白い部屋だった。いや、見覚えあるなーとか思いつつ、自分の腕に管が刺さっているなーと眺めて、ふと横を見るとつむぎくんの背中が見えた。ぐっと起き上ると。お腹が悲鳴を上げて俺は痛い!と声を上げてベットに戻る。

「つむぎくん?」
「ゆらぎくん、起きましたか?」
「ここどこ?」

覚えてないんですか?なんて言われて、俺にひたすら疑問符が付く。あー?とか言いつつも思い出すが、ライブで俺のユニットソング歌ってるぐらいからあんまりおぼえてないことをつむぎくんに伝えると、え覚えてないんですか?と言われるんですけど、俺に覚えはありません。っていうか、俺ライブしてなかったっけ?気づいたら病院とかなに、俺夢遊病??

「ゆらぎくん、ライブで『Diana』のメンバーを舞台上に上げて対決して、一人が逆上してゆらぎくんを刺して、それでもゆらぎくんはひたすら歌って笑ってましたし、覚えてないんですか?」
「…え?…うっすら腹は痛いとか思ったけれど、おれ刺されたの?」

うっすらって、ゆらぎくん!ちょっと!痛覚あります?ってたしなめられて、とりあえずお医者さんとか連絡とかしてきますよ!。逃げちゃだめですよ!そんなことを言い残してつむぎくんはパタパタと足音を立てて走って行った。俺は小さく賑やかなやつだな。とこぼしてとりあえずベットを操作して上体を起こし傷とかの確認をする。よこっぱらに触れると、ガーゼの感じがする。ここ縫われたかなーと思いつつ、傷口を撫でて目を閉じる。はーとか息つきながら、全部終わったんだなーとか口から出た。ライブの最後の記憶があんまりだったなー。あーでもなんか最後ありがとー!とか言いつつ朦朧だった気がする。あー勿体ねーと叫ぶように頭を抱えると、ノックが一つ。

「あいてるー。」
「入るヨ。」

キッ。と音を蝶番が鳴らす。音の方を見ると、しかめっつらの夏目が立ってた。よ。と手を上げると、腹に一発拳骨を叩き込まれた。おま!!!まって!!!!痛い!!!傷口開いちゃう!!!!!一発呻いて痛みに耐えていると、夏目が俺にとびついてきた。だから痛いっての!!

「にいさん。どんだけ心配したと思ってるんだヨ?」
「いたい…痛い…君本気で殴りすぎだよ。」
「朔間、あと任せた。って譫言のようにいうシ。死んだかと思ったヨ!」

あーでも、ごめんな。俺もそこまでも予想できてなかったよ。赤色の髪を梳くように撫でると、小さく肩が震えてるように見えた。泣いてる?とか声もかけにくいので俺は普通に気にせず声を明るく勤めて声をかける。

「まー刺されてもしかたねえんだよな。俺も俺で勝手にしすぎてるんだからさ。」
「そんなことなイ!」
「ないわけあるか。俺はあいつらの青春を全部奪ったの。」

俺が声かけてたから、あいつらは俺のユニットに入ったし、楽して生きるため俺を食ってたの。そんで、俺はそれを許してたから、一つの罰。そして一閥。そんでいいの。気にすんな、お前はお前のユニットの事考えなさい。つむぎくんも五奇人もいなくなるの。宙と二人でお前はやってくの。俺にしがみついてても、仕方ないの。

「にいさんは馬鹿ダ」
「いいの、どうせこんなもんだよ。俺」

なーんにも気にせず俺のしたいことだけを進めてたの。それが俺の罪で罰。いいんだよ、高校生活も終わるしなぁ。まぁ、ここで清算できたなら万々歳だな。って今俺すがすがしい気分だよ。卒業後の心配とか考えなくていいんだもんなー。

「とりあえず、夏目。お前泣くのやめてくれ。」

服冷たくなってるし、つむぎくんもそろそろ帰ってくるだろうし。泣いてると俺の体裁がないんだけどなぁ。もうないけどネ。おい!夏目も一回言えやゴルァ!俺の腹の傷が開いても問題ない!夏目の襟首掴んで揺すってると病室につむぎくんが異変を察知してか部屋に入ってきて俺と夏目の間に立つ。

「ゆらぎくん、お腹も5針縫ってるんですから!暴れないでください!」
「俺が暴れたくて暴れてるんじゃねえよ!夏目がな!」
「ゆらぎにいさん。ボクが好きだからっテ!」
「ふざけんな!テメェ!!!!!」

話をややこしくすんな!と声を上げると、まぁ、冗談だけどネ!センパイ、にいさんを任せるヨ!まぁ、元気そうでよかっタ。学校には連絡を入れておくから、安心しテ。とひらっと俺の追撃をかわして、病室をしゅっと逃げて行った。待って!お前俺の話終わってないんだけどぉ!?俺の四年ぐらい鍛えた腹式呼吸が唸っても夏目は戻ってこなかった。

「どうして、夏目くんはゆらぎくんをにいさんと呼ぶんでしょうか?」
「妬いてる?つむぎくん、俺に。」
「まぁ、でもゆらぎくんにはない、俺たちは昔のやりとりがありますからねぇ。」
「つむぎの愛が夏目に向いてて俺が妬いちゃう。っていうか、一閥だからだろ。五奇人と仲が良かった。それだけだよ。」

そのために君の皇帝陛下に『Valkrie』より先に倒されてるんだからさ。俺は物理だったけど。
ぷいっと頬杖ついて、つむぎくんと反対側を向くと、妬いてますー?とか言って入って来るのなんだよ、天使かよ。ぐっと唸れば視界に入ってきて眉間に皺よってますよーって眉間をつつく。

「しばらくは安静が大事ってお医者さんが言ってましたよ。」
「卒業式間に合うかなぁ。」
「それまでになんとかしてください。」

まぁ、縫い目つくるのなんて慣れてるから別にいいんだけどな。よくありません、ゆらぎくんいいアイドルなんですから。いいアイドルなのかなぁ。ぽつぽつと喋りながら、つむぎくんは俺のベットの上に座る。ベットのバネが二人分の体重を受けて悲鳴を上げる。そんな音を気にする素振りもなく、俺の頬の輪郭をなぞる。晴眼の瞳が俺を捕らえている。そーっと視線を逸らしかけたら、こっちを見てください。って言われるのでしぶしぶ視線を合わす。怒ってんだろうなーって思っていると、居心地がちょっと悪い。

「ね、ゆらぎくん?。」
「なに、つむぎくん?。」

好きですよ。と形のいい唇が動く。…ん?説教じゃないの?俺が何を返事するのかと思考を一瞬走らせる、どれ?俺?えなに?好き?え?どれ?なにが??脳内大パニックの俺の唇を優しく撫でていく。…まって、俺お兄ちゃんだけど?え、なんだって?いやいやいや。

「つむぎくん。夏目に妬いたの?」
「他の人全員苗字で呼ぶのに、夏目くんだけ、夏目なんだなって思って。」
「逆先。って呼ぶとアイツ睨むんだよなぁ。っていうか、お前のユニットだけだよ。宙も、夏目も。そうやって呼ぶのは。」

くんづけで呼ぶのつむぎだけだけど。だめ?そうやって聞くと、ゆらぎくんずるいです。とかっ言って真っ赤な顔した彼は走って出て行った。元気だなーつむぎくん。俺も好きだよ。言わないけどな!すがって来るならいくらでも甘やかしてやりたいし、望むなら俺の心臓だって差し出してやるよ。まぁ、絶対に口に出してやんないから、しばらく俺のセコムでもしててよ。俺のつむぎくん。





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