俺と最後の踏伐・夜の終演ライブ。 17 





でさー。と歓声を割って話を切り替える。観客の一部からなにー?と問うので、今日は俺の仲間来てたんだぜ!俺の卒業祝いにって!すごくない?ほら、カメラさんあそこ。寄ってよって。いえー!
またどっかで黄色い声でアイツらの名前を呼ぶ声があった。ごめんな、あいつらのファンだろ?ごめんな。心のなかで謝っておく。そのまま上がってこいよ!と俺が誘導する。俺がかき集めたスタッフが、さっさと駆け出してどうぞー。と促す。いい仕事するね!あのスタッフ。っていうか俺のいつも使う業者の人じゃん。

「一年ぶり、元気ー?俺、お前らちゃんと見えてなかったんだけどさ。どうだった?」
「なんだよ、あれ、俺たちへの当て付けか!?」

五奇人なんて呼んじゃってさ、俺たちへの当て付けか?と彼らは笑う。そうだヨ。とか夏目が言うが、日々樹に黙らされてる。

「いやー朔間たちがこんなことしてくるって俺も聞いてなかったよね!」
「俺たちの『Diana』をよくも汚したよな!!対決といいつつなんなんだよ、青葉!『Diana』の曲を全く入れないとか!」
「もっと入ると思ってたよ」

俺らの曲は一人じゃ歌えないよ。俺は六人で『Diana』だと思ってるんだから。でも、そう思っていたのは俺だけだったようだ。
嘲笑った一人を見て、ぷちん。と俺は何か切れた。守沢が俺の名前を呼ぶが止めんな。いや、アイツらのなんなの?俺はにっこり笑って、じゃあさ。と俺は笑顔でマイクを握る。お前らはその振りを全部嘲笑ったのになにいってんだ?よくもその口叩けるよなあ?面従腹背で、三年間騙してたんだよな。キラキラしてあれやこれややる暴君である俺をせせら笑ってたんだろう?じゃあ俺はいつまでも怖い暴君でいてやるよ。骨の髄まで徹底的にそれを刷り込んでやろうか。応。と答えて腹で笑っていたあんたたちにさ。

「じゃあ、賭けてみろよ。自分の魂を。己の心をさ。」
「ゆらぎくんや、どうしたんじゃ?」
「返礼祭の一貫としてさ。去年俺はお前たちを送れなかったから。やりたかったんだよ。」

マイクを離して俺はあいつらに笑って言う。俺が負けたら『Diana』だって俺のアイドル生命だって何だってくれてやる。好きにしろよ。お前らが負けたらアイドルなんてやめちまえ。トラブルが起きたらニヤニヤ笑うような奴らにアイドルなんて語る資格なんざねぇよ。
俺が作った俺の『Diana』だ。あいつらに負けるつもりなんざ全くない。むしろ、お前らを下す想像図しか俺には描けないんだから。

「なんだよ?怖いのか負けるのが?尻尾巻いて帰るか?一対五で戦って負ける予想図があるのか?そんなわけないよな。」
「相手もその道のプロですよ、そんなことないでしょう?」
「いや、それでもさ。事務所とかあるじゃん?」
「ステージに上がってるのに、よくいうヨ。」

断ろうとする仲間たちに五奇人が立ててやると、援護射撃が入り、深海が手拍子のリズムに会わせて「ばとる。ばとる。」と声を上げれば、観客席からもまだまだみたいと深海のリズムに合わせて声が飛んでくる。そしてとどめといわんばかりにマイクを遠ざけて、俺は10曲以上踊って膝も痛み始めた負傷してる俺に負けるのが怖い?お前ら、俺を首にするために一年間俺を処刑台に送るために牙と磨いでたんだろ?その牙はただの飾りか?と焚き付けて煽ってやると、活動費は手切れ金だと言ったあいつが、俺のマイクを奪って「お前には負けないよ青葉」なんて一つ。こわばった強がりでいい放つ。相対する俺は、好きな曲かけろよ管理団体には手続きしとくからさ。告げるとあいつらは少し迷ってから俺の苦手なバラードを指定する。うん、そういうところ俺好きだよ。大好きで大好きだったよ。そう思う俺はひどく道化なのだろうかとふと思う。兄弟だから似るのかもな、なんて思いながらも、俺は放送委員に向けて、音楽かけれそうなら赤振ってと指示を出すと、二三秒たって三本の赤が振られた。仁兎もそっちにいるようすだな。と思いつつ俺は指定された曲をかけてくれと、声を出す。

「さ、俺たちの青春だった、音楽を奏でよう。」

さようなら、俺の大好きな『青春の日々。』二度と戻れない青春を抱いて俺はきっと生きていくんだろうな。こうして、強制的に袂を解っても。俺はあいつらがすきだよ、今となってはもう名前も覚えてないけどな。ほんと、暴君だったんだななんて実感して、俺は音楽が流れるのを待った。
ヘカテーの目覚めだな。と自嘲してみたが、答えるものなんて誰もいない。
放送委員に音を指定すると、すぐに音が流れだした。ハウスを混ぜながら、躍る。『Diana』には珍しい民族調じゃない楽曲。一番最初に俺たちが持ったオリジナルユニットソング。スローなバラードに俺は身を任せて歌っていく。痛み止もきれたみたいで、とんでもなく痛い。それでも、最後にあいつらと一曲踊れるのが嬉しくて、あなたの傷を見せてください。だとかそんなニュアンスの歌詞に載せて、歌いすぎて掠れた喉で歌う。汗だくで、体幹の保持もしんどくなってきた。背筋を曲げたくなるがあと一曲だし耐える。一曲四分半の切ない歌に俺はなにを込めればいんだろう、とふと思う。
あいつらは五人でハモリやユニゾンをどんどん取り込んで行くのに対して俺の武器はひどく弱い。それでも、踊れる。もしかするとあいつらはこういうことしたかったんだろうな。と今さら思うが、過ぎたものは戻れないのだ、

「どうか、おねがいだ。」

間奏に入って、俺はどんな感情をもって踊ればいいかわからなくなった。だけども、俺からは一つだけ。あいつらがなにを考えてたかわからないけど、こう言うことをもっとはやくに言えてたら、こうやって対決する未来すらなかったのだろうか。
間奏は緩やかに手だけを使い踊る。ファルセットをふんだんに入れて、高く高く澄んだ音を一つ遠く遠くに飛ばす。
四つ打ちで少しずつ上げて、最高音を長く遠くまで飛ばして、ラストサビに入る。なにも聞こえない。ただ俺の気持ちをすべてそこにぶつける。お前たちは自分たちを見るのだけで精一杯なのかもしれないけど、俺は、やっぱり好きだよ。お人好しでやっぱり俺はつむぎくんに似てるのかもな。そんなことを思いながらも曲はつつがなく終わった。
隣を見ると躍り疲れて地面に倒れたあいつらがそこにいた。
勝敗は火を見るより明らかだった。観客席一杯の青色のサイリウム。
俺のかちだ。
歓声が俺の名前を呼ぶ。スポンジに水が染み込むみたいに俺の心の中に歓声が吸い込まれていくような気分だ。ぼんやりとその光景を眺めていると、照明がゆっくりと落ちはじめる。相手は夢ノ咲外の人物だからか、放送委員が手を回してくれていたのだろうか。アイドルの俺は、平然とした顔で笑って、みんなありがとう!と手を振ってから、お前らもありがとうな!と声をかけて手を伸ばす。仲間でなくなっても、俺は友人だと持っていたいからだ。お疲れ、最後にステージの主役が立ってなかったら、お前らのファンに失礼だって。と言いつつ立ち上がるように手を差し出すと視界の端でゆらりと誰かがたった。
「青葉ぁ!!」と、呼ばれて音の方を向くとアイツらの中の一人が俺に向けて駆け込んでこようとしていた。俺は、ん?と声を上げると同時に、腹に一瞬冷たいなにかを感じて衝撃を一つ。それからすぐに追いかけるように燃えるような熱を感じる。
あ、これ刺されたとか他人事のように思考が走る。ふわふわしてるから痛み止まだ聞いてるのかと思考には余裕がまだまだあるらしい。ふと視線を下げると横っ腹に見慣れない短い刃物の持ち手が一つ有った。刺された。とか思ったがまだステージの上。照明が落ちて緞帳が閉じるまで、見える世界がアイドルの世界だ。にっと笑ってそいつの肩を抱き観客席にばれないように隣の奴を使って柄を俺のなかに埋め込むように押し込む。痛くて小さくうめきつつ、ぐっと俺の喉がなるが今はばれないことが優先だ。
隣の仲間が震えているが俺は平気平気と声をかける。ほら、お前もアイドルの端くれだったら笑え。と囁く。あいつらがヘマしたらフォロー役も俺だったなぁ。と昔をふと思い出した。こうして二度と彼らとは同じユニットとして立つことができないのがすごく残念だ。俺お前らのために頑張ってたんだけどなぁ、でも結局水をやりすぎて根腐れでもしたのだろう。とかどうでもいいことを考えて、腹の熱さに耐える。
お疲れ、お前もアイドルなんだから手を振ってやったてよ。と仲間の耳にまた、ささやく。さっきいったっけ?まあいいや。
どこか他人事のように思いながらも、緞帳が下がりきるまで俺はアイドルの仮面を張り付け観客席に手を振った。となりも怯えながら小さく手を振る。照明が眩しすぎて目が焼けそうだけれど、眼前に広がる青いペンライトはひどく嬉しくて仕方なかった。俺の声が聞こえてたのか、ほかのメンバー四人もそれぞれ肩を組ながら助け合いながらしぶしぶといった感じに手を振る。
ありがとうな!と大きくマイクに声をかけると、緞帳がゆっくり降りはじめる。もうすぐ完全に夢から覚めるんだな。とか思いつつ楽しかった学生生活を思い浮かべる、薬切れてるのかと思っていたが、またふわふわし出している。頭のなか真っ白になりそうなほど薬強かったっけ??とかなんて思いつつ、俺は満面の笑みで緞帳がおちるのを見届けて、小さくため息をついた。世界が回った。あれ、地面が天井になってるとか思ったのを最後に俺はこっからまったく覚えがないのだ。
「ゆらぎくん!」と聞こえたが、あれは誰の声だったのか。俺にはわからない。




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