俺と最後の踏伐・夜の終演ライブ。 15 





斎宮のパフォーマンスが終わると、俺は日々樹の肩の上に乗せられてステージに出る。俺を先頭に、夏目深海と続いてる。なんかこの上から見てると、世界がもっと広く見えるな。

「『しゅう』もおつかれさまですよ。」
「一曲なんぞ軽い。もっと複雑に展開させるべきだった。」
「それは、帰ってきてから俺をバックダンサーにしてやってくれ。」
「さっきの抜けた顔してたのに、言われたくない。」

あ、そうそう。多分みんな知ってると思うけどさー。と話を強制的に変える。いやー言っておかないといけない気がしてさチケット見せて入ってきた入り口にさー、グッズ販売とかもやってたんだけどさ。いやーグッズ用のデザインとか俺やったのー。ランダムで俺のサインとか入ってるから買ってやってねー。俺のサイン持ってる人ー!あたった人ー!
おら、手ェあげて。と挙手を求めてみると、紫色したペンライトがちょこちょこと揺れ動く。それなりにいるってか。うんうん。みんな買ってくれてあんがとー!あいしてるー!!とちゃっかりおべっかも射れてると、五奇人のところのユニット分も足しているから安心してかってくれたまえ。って斎宮いつの間になにしてんのさ。
夏目たちもお礼を言ってると三毛縞が入ってきた。どうやら仕込みの済んだ集計が終わったらしい。見なくてもわかってるんだが、三毛縞から押し付けられた紙を開くと、俺の4連勝が書いていた。

「朔間、お前の番だぜ!!」
「わかいのはせっかちでいかんの。」

あくびを漏らしながら舞台袖から出てきた、朔間に会場がわいた。いや、俺よりわいてね?とか思ったけど、ちょっと悲しい。すっと視線を下ろすと、安心せい、お主を食ったりなんてせぬわ。とクツクツ笑って、赤い瞳がアイツらを射抜く。

「俺たち勝敗が決まったらあと一曲で終わっちゃうんだけど、最後まで盛り上がろうぜ!」

朔間も出てきたんだし、俺の服の仕込みちょっと手伝ってくんない?うむうむわかった。と朔間が頷くのを見て、ほら最終戦やるよー!みんな楽しめよ!と声を上げて放送委員会に頼むと、最後の曲が流れだす。
イントロ頭四拍で俺が軽く回ると、五奇人が俺を取り囲み、あとの四拍でのチョハを引っ張って、ヒットに合わせて破りちぎる。チョハの中から現れたのは俺がこの四年間来ていたぼろぼろになった『Diana』のユニット衣装。事故でぼろぼろになったけど、修繕してずっと戦ってきたユニット衣装だ。
一年ぶりのきちんとしたユニット衣装のお披露目にステージに歓声が響く。BGMと混ざって、声がシャワーのように降ってくる。
今回俺の選曲には意図がある。『Diana』の曲を流さない。歌うのは世間で聞き慣れた曲で、授業でつかうような教典レベルのものばかりだ。五奇人のレベルが高いのを知っているが、今回の目的は俺が踊れて、あいつらの神経を逆撫でするがためのものだ。しいて言うなら、朔間とのライブをしたあとの1曲が、あいつらがなにかを仕掛けてくるタイミングだと思っている。というのが俺と朔間の見解だ。そこに『Diana』をぶつけていこうとしているのだから、朔間も俺も人がわるい。やるヨやるヨ詐欺だなんて夏目に言われたけれど、別に今までも、DDDだってこういうことお前らもやっただろう?というと黙った。おい、朔間黙るなよ。明星たちに入れ知恵したのお前だろうが。

そのまま前奏に入って、俺はそのまま踊る。ぐるん、とターンするときに、後ろの五奇人を見ると、どうも全員おなじ仕込みをしていたらしく、『Diana』の衣装のわずかな色違いを着用している。これには俺も驚いた。上から降ってくる日々樹よりも。インパクトがあった。寸分違わない『Diana』のユニット衣装を着た彼らが立ってたのだから。

「んな?!」
「Amazingでしょう?」
「『しゅう』がよういしたんです」
「流石の宗じゃの」
「宗にいさんだからネ」
「これぐらいは出来て当然だよ。」

メンバー毎に多少の誤差を作っていたのだがそこまでもそろえちまうのか。あいつら五人分そろえちまうなんて。アイツらはお前たちじゃないのに、昔が色鮮やかに甦ってきた。違う。お前たちは違うのに。目頭がひどく熱いし鼻も痛い。声が震えそうで、俺は唇を噛んだ。
ステージが始まる前に言った身を任せろは、こういうことだったのか?

「ほれ、歌わんか」
「ゆらぎおどりましょう」
「楽しめ青葉」
「宴ですからね、夢ですよ。」

夢は自由であらなねばいけない。
脳に直接届くような夏目の声に、こいつ魔法使ったろ。俺にはそこまで意味ないのにな。それでも、使ってくれてる優しさが嬉しくてたまらない。たとえそれが夢だとしてもだ。
俺はたまらなくなって靴を目一杯空に届くように願って靴を鳴らす。嬉しい、たまらない。大好きを込めて、ライトの熱で溶けて蒸発してステージにざわめきを与える。それでも嬉しくて今なら32分音符や64分音符までつけれそうだ。足に羽が生えてるのかもしれない。
夢なら終わらないでくれとも思うのは、俺がこのステージを愛してるからかもしれれない。歌い出しが始まる。五曲目はジャイブ。スイングジャズやらいろいろあるけれど、俺は跳び跳ねるようなこの曲が好きだ。社交ダンスモチーフなので、男役女役で踊るし、社交ダンスじゃないからペアもごろごろ変わる。夏目と日々樹と俺が女役であって、夏目がものすごく嫌そうな顔をした。なっちゃんとたのしいですね!と深海が言うと夏目のテンションが滝登りのように上がっていくのだから、現金なやつだよな。俺もテンション上げすぎて、ラインダンスやらやってるときに、煽るように奇声を上げていくと深海がたのしそうですねー。なんて言うから、もっと俺が嬉しくなって、深海が俺をリフトするはずなのに俺が深海をリフトして放り投げる。流石『流星隊』どいつもこいつも運動神経いいんだから、高く放り投げると深海はくるんと回って、俺のもとに降りてくる。やりすぎです。といわれたが、深海も満足そうなので、それ以上とがめられなかった。テンション上げすぎて、歌詞一個言い間違えたけどゆるしてな。




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