俺と最後の踏伐・夜の終演ライブ。 14 





日々樹の曲が終わると、四人並んで繋ぎのMC、さっきさー夏目の肘が入って死ぬかと思ったー。振りを逃したにいさんがわるいネ。そーだよなー。俺も人間だからとちるんだって。
ケラケラ笑いながら言う。たくさん俺に投票してねー!いやいや、こちらにですよ!と日々樹と無駄に張り合う。

「でもさー。こうしていつかの夢って願えば叶うんだね」

前にお前たちと踊りたいなー。って思ってたんだよな!案がとな!今日出てきてくれて。お前たちも三年だもんな卒業寂しくない?
そう問いかけて唯一の二年である夏目にマイクを向けるととっても嫌そうな顔をしている。うーんあからさまだねぇ。アイドルだよ!俺たち!「無いなら産み出せばいイ。」とか言わないの!もう二年はたくさんいるんだから。もう。あーだこーだしてると、三毛縞が結果を持って俺に手渡すとすぐはけたかけるので、またあとでなー。と手を振って見送る

「で、結果はどうなってるのです?勿論、あなたの日々樹渉が勝ちましたよね!」

よね!とおなじタイミングで手紙を開くとゆらぎ。とだけ書いてた。日々樹は信じられない!と驚く。こいつのテンションならいくらでもいじれそー。とか思いつつちらりと視線をさ迷わせるとアイツらは一人足りてなかった。トイレとかかな。とか思いつつ、なーなー日々樹、俺たち勝敗ついたらさーみんなで一曲踊りたいね!と言うが、にいさんバカかナ?過半数取ってるヨ?と夏目が苦言をさすが観客席から「えー」とか声がする。
「ほらー。お客さんも五奇人ちゃんと揃えるか俺の負けて五奇人のライブになるか見たいよねー?」なんて問いかければ
大絶賛拍手ありがとー。特に最前列。しれっと見てみぬ振りをして、遠くのお客さんもだよねー?声が聞こえないぞー?と煽っていると、舞台袖の斎宮がギリギリこちらを見ていた。多少体力の回復もできたので、とりあえず次の試合するぞー!放送委員会よろしくー!次の曲を促す。後ろにも声をかけて、よろしくー!と手を上げると、俺は満足そうにうなずく。
次の曲は、珍しく歌メイン。
一般でよく流れる民族モチーフのゲームソング。もちろんお偉いバックには支払い済み。いやー高いよね。と思いつつ軽い振りだけをこなしていく。後ろはがっつり踊ってくれるのでバランスだよ。完全俺のソロ曲として先持って言っていたので、歌い初めると三人はそのままステージ最前列まで駆け出して思い思いに踊っていく。舞台の照明が弱くなって、そのままピンスポットライトで俺たち四人を射抜かれる。
いやーこのあと朔間と対決、一曲やって内部粛清なのだから体力は回復させたい。エフェクトガン積みなので、これとこれって指示かけてたけれど、問題なくできてる様子で、俺は満足する。遠い誰かをなくした女の歌。愛しい人を思う歌、歌を聞いたとき俺はみんなでやりたいといった曲だったが、まあひどく踊りにくいので、悩んだが、アイツら少なくともついてきてくれてたのに。とふと思い出した。ちょっとセンチメンタルになりながらも、俺はその曲を歌い上げる。
羽はない。だけども飛べる。飛んで貴方のもとに。なんてアイツら言ってくれたら良かったのにな。と思いつつ目を伏せる。過去は帰らない戻らないからこそ美しい。斎宮はいいそうだな。と思いつつ、そと目線を下ろしてカメラを見る。色気なんてねーのに、どっかから黄色い声が聞こえた。一年で人は変われるかっての。それでも俺は歌い続ける。たまに合いの手のように夏目や日々樹が音を重ねる。たくさん重なってこその民族調をマイク一本でカバーしていく。間奏に入って、俺は靴をならす。ダンダダやってると音が曲調がぐるりと代わり、俺の振りもアイリッシュからバレエに変わっていく。ゆるいアティチュードをかけながら、スキャット。遠くまで響くようなファルセットを思い浮かべながら歌えば、声が遠く鳥のように飛んでいく声が見えた気がする。
最高音を出すと、それに重ねて重厚な音を作り上げる。俺は歌が苦手だったから、ここまでできるようにしてくれたのはある意味お前たちなのにな。曲が終わりになると、泡が溶けていく景色が見えたような気がした。まるで水の中のように歪んで見えた。頭がぼーっとすると思っていると、肩が叩かれた。

「ノン、どきたまえ。いつまでも舞台があると思うな」

肩を叩かれて俺ははっとする、いつの間にか斎宮がたっていた。ぎろりとにらまれて、わかったよ。と俺は後ろに下がる。ゆらぎ疲れてませんか?と言われて、あ、疲れてるんだ。と自覚した。そりゃあ連続8曲目に突入しているのだから、疲れたっておかしくない。水分をきっちりこっそりとりながら、斎宮は自分の芸術を展開していく。最初からバックダンスもハモリも要らないと言われてるので、俺たちは一瞬舞台袖にはける。もしかしてこのタイミングにはけるのは朔間の策に載せられてるのだろうかと思うぐらい、計ったような休息タイミングだと俺は頭を振る。ふうと息をつきながら歩いてると舞台袖を通り抜けて控え室に繋がる廊下の近所で、一瞬足に力が入らなくて派手にスッ転ぶ。袖とかじゃなくてよかったよね。変に頭打ったり器具が降ってこないんだから。一年前の事故を思い出してちょっと俺のあれがヒュンした。いやーあのときにご子息もチン切れなくてよかったね。いや、俺疲れてるわ。しょうもな。おもんな。

「ゆらぎ、大丈夫ですか?」
「イテテ。」
「ドン臭いところ、センパイに似なくていいの二」

ついでに言うがそのセンパイと俺、血はつながってないんだよな。と口を開いて笑っておく、深海と日々樹の手を借りて夏目が持ってきた椅子に腰を下ろすと、うっすら膝が笑ってる。そりゃあ膝ばっか使ってるもんな。飛んではねて、しんどいけど楽しくて俺は嬉しい。一年間、いろいろ参加できなかったから出れていることがひどく嬉しい。

「ゆらぎくん大丈夫かえ?」
「平気平気。斎宮のが終わったらすぐに繋ぎのMCに戻るよ。」
「宗からだ、食え。ゆらぎ。」

おい、お前今前の口調に戻らなかったか?と聞こうと思ったらすでに口の中に飴を突っ込まれた。っていうか、この飴影片のだろ。とか思いつつ、遠慮なく俺は糖分補給に勤め、飴ちゃんをガリガリすることに励む。

「終わったら皆と一緒にいこうじゃないかゆらぎくんや。」

我輩の予想だと、そろそろくるじゃろうて。うんうんとうなずく朔間を見て首をかしげていたら、日々樹に驚かされて、飴を喉に詰めかけた。俺復讐する前に物理的に五奇人に殺されそうだった。深海に背中を叩かれて、一発で取り出してくれたときは、こいつが神様かと思ったのは内緒な。




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