俺と最後の踏伐・夜の終演ライブ。 13 





一曲目は俺のソロ、こないだ月永に書いてもらったさらっピンのひたすらダンサブルナンバー。ギザギザみたいな音のギターが俺の横をすっと通っていく。音はめしつつ喉を開く。細かく装飾音符と共に地面を叩き観客を煽る。疾走するベースに任せて民族舞踊も混ぜて俺が出来ていく気がする。細胞一つ一つが踊りたいと叫んでいる。楽曲後半は別の曲がフェードインしてきて、俺の聴覚をテクノみたいな旋律が聞こえてきて、来る。と思うと同時に最初の敵である夏目が姿を現した。
今回は一対一の対局なのだが、一人で普通のパフォーマンスは広すぎるから。負けたら後ろで、後攻の時は先行が手伝うルールを敷いている。勝負が決まる度に人が増えて最後の勝負が決まって連戦した側が一曲歌う。集計は装置もないから目視計算。結果計測中はMCで繋いで、結果は朔間が仕込んでやらせし放題。俺の連勝で決まっているのだ。しこみだ、やらせだ?昔からあるシステムなんだよなぁ。残念なことに。
夏目が踊り出すと、俺は声を重ねハモリやバックダンサーを勤めている。振り原案やらレッスンをやっているがので、夏目を見ながらタイミングを合わせるということだけだ。俺は一人で広々使うことにはなれてるが、他は相方や仲間を持つ彼らにはいつもと違うことを行っているのからこそ、申し出た。いや俺が踊ってたいだけなんだけどな。
そうこうしてると、夏目の曲が終わる。後奏がなり終わって、歓声があがる。

「ほらー集計するよーペンライトー振ってー、先攻『Diana』は黄色、後攻夏目は赤ねー他のいろ振ったら…どしようか、そこまで考えてなかったや。」
「バカでしょにいさんハ。普通は無効票だからネ。」

ちらりと最前線をみるとアイツらは夏目側の色の振っている。本格的に俺を笑いにきてるね。と俺はあいつらに笑い返す。俺が負けると思ってるのか?ちょっと煮え繰り返りそうな腸を押さえ込みつつ、アイドルの仮面を被る。今回のルール説明するネ。と夏目が今回はゆらぎにいさんが連戦するよ。負けたらボクたちがライブ終了までオンステージの予定だヨ。急に変わってゴメンネ。でも、その分
ゆらぎにいさんが何とかしてくれるからネ。

「俺かよ。まー負けたら夏目は後ろで踊ってもらうからね。大丈夫、これは俺の卒業ライブだよ。今日予定している残り4戦については対戦相手アイドル人生を奪うことなんてしないよ。」

もーんだいないよ。と笑って言えば集計が出たらしく、裏方手伝いとして呼ばれたらしい三毛縞が手を振って入ってきて、俺に手紙を握らせる。おい、俺の活動費どこまで使う予定なんだ?もう俺の活動費ここのステージ設営用のお金でカツカツだったはずだけど?脳内の予算書類を思い浮かべていると、ほら、ゆらぎさん。楽しみなさい。ママも千秋さんも後ろでいるぞー。なんて耳打ちして背中を叩いてはけてった。
なんだったんだと思いつつ、「三毛縞ママありがとー」とはけてった方に手を振ってじゃあ開くよー。カメラさん寄って寄って!!と後ろの映像で確認できるように思いきり引いてもらう。ほい!と声に併せて開くと、ゆらぎの勝ち。と表示されている。いや、朔間だから大丈夫だと思ってるけど、ちょっと怖いよね。

「ゆらぎにいさん、強すぎ」
「今回はね、ほらほら、次の曲行くよー。」

夏目お前後ろでちゃんとおどれよー。じゃなかったら二人でラインダンスしようぜー。また膝使って…。とぼやく夏目を笑い、放送委員おねがいなー。と二曲目をかけてもらう辺りが緩いライブだと思わせる。まぁここまでも戦略なんですがね。二曲目のポジションに立っていると、下手側からとてとてと一人走ってきた。

「ゆらぎー」
「『にばんめ』はぼくですよー。」
「奏太にいさん…」
「ゆらぎは、わすれんぼさんですからねー」

はいどうぞ。と小道具と一緒に、はしゃぎすぎるなよ。と朔間の手紙。わかってらい。何年アイドルしてると思ってんだよ。…いや、四年だな。もうにいさんは後攻だから、こっちだヨ。と夏目は深海の手を引いてバックに下がらせる。どっちが兄だと思わせる光景だ。なんともしまりのない。とも思いつつ、改めて二曲目お願いしまーす。と俺は放送委員会に声をかける。二曲目はフラメンコとパソ燃えるような闘牛の曲に合わせてチョハの裾を摘まんで、深海の届けられた小道具カスタネットを器用にならして、情熱的なカルメンを思いの丈を詰めて頭の拍を強く踏む。ダカダカ踏み鳴らして、音が後奏になり、フェードしていく俺の二回目の終わりはエイトフオー二回目のアクセントまでだ。
ステージ端まで靴を強かに鳴らして最後の四つでアクロバットを繰り広げる。着地と同時にアクセント音が鳴り終える。それと対抗するように深海が俺の頭上を飛び越えた。深海の得意曲が流れ出すのを聞いてから、後ろに下がる。

「にいさん、はしゃぎすぎ。」
「うっせー、いいだろ。こんぐらい。」

まだあと俺は10曲以上踊れるんだぜ、楽しいじゃん。深海の背中を見ながら、俺たちは軽く踊る。いまいま今この場は深海のためのステージなんだから、俺たち添え物だよ。ほら、アクロバットやんぞ夏目!深海のタイミングで二人揃えてバク宙を一つ決めると間奏にはいる。客席にコールしながらも「ほらほらなっちゃんもゆらぎも、きてほしいー。」とか言われて俺と夏目で深海を挟んで、ハモリや振りを続ける。
深海の曲が終わって集計中のMCタイム。
はしゃぎすぎの俺はあぢー。といいつつチョハの裾を揺らしながらも、「今日は来てくれてありがとー!そういえば深海?ライブ終了前に抽選やるって言ってたよな?」と適当にアイツらを引っ張り出す為の段取り会話をしておく。
「ゆらぎそれは『めっ』ですよー。ひみつです」と言うからふざけたように「あ、いけね!」と舌を出す。なにやってるんだカ。と夏目も少し乗りぎみに返答している。

「ゆらぎ、投票結果を持ってきましたよ!」

Amazing!!!!の声と同じタイミングで日々樹が上から降ってきた。いや、まって、上にそんな装置おいた話聞いてないけど?!慌てて上を見るが「上には何もありませんよ!」「じゃあよじ登る?」「はい」…いや、はいじゃないよ。落ちたらどーすんの?日々樹。
Amazingでしょうじゃないんだよ!!で、投票結果は?そう聞くと、彼の両手にかかれていたゆらぎの勝ち。と詳細な点数までかかれている。手がかかりすぎだよ。と伝えるとこれぐらいしないとねぇ。と日々樹が口をだす。

「どうせ日々樹、お前だろ次の対戦相手。」

もちろん!ゆらぎは五奇人で倒すのですよ!と芝居かかった口調でいうと会場が多いに湧いた、五奇人発足前の頂点は一時俺たち『Diana』だったが、一閥の俺の事故により斎宮に持っていかれて皇帝陛下が君臨している。五奇人と一閥の共演は幻と言われていたのに、その幻がここで繰り広げられるんだ。と観客がわかってか始まって以来の歓声が聞こえてきて「そんだけ声張れるのならもっとはっちゃえよ!!」ってか元来『Diana』ライブなのにな!ちらりと仲間を見ればアイツらは驚いた顔をしてこちらを見ていた。ファンサービスもかねて、そっちに向けて澄ました顔でピースを一つ。お前らが無理だと言ったことを後悔させてやる。

「あと朔間も斎宮もきっちり出るよー!みーんな投票よろしくねー。」と言いつつ、日々樹も深海も夏目も手伝え!と号令をかけると聞きなれた音楽。
バレエをモチーフにした歌。パをどうするか悩んだ日々も懐かしい。この曲はあれを告げられてすぐに踊った曲だった。家でやるからつむぎくんにめちゃくちゃ怒られた記憶は懐かしい。リズムに合わせてピルエット。チョハのおかげでとても面積をとってくれる。音に合わせてるので、後ろも揃ってなければ不細工なんだけど、深海たちもある程度練習してるらしく三人の背中が見える。
誰かと踊るのが楽しくてちょっと意地悪に最後の二拍で人より多く回る。照明の熱が気持ちよくて痛み止のふわふわ感を増してくる。将来酒とか飲んだらこうなるのかな。とわくわくしつつ、生きてるを実感する。この間疲労でぶっ倒れたライブ以来なので、結構最近だな。とどこか冷静に考えて、歌い出しのタイミングを合わせてマイクを強く握り、ツーテンポでサイドステップをきめて、ロンドゥジャンプ。
着地に一瞬よたったが、ここまで5曲目。まだまだ半分も行ってないのが凄く嬉しくてたまらないのに、アイツらと踊れてない寂しさがふっと顔をだしたりする。アイツらは俺を裏切ったのに、お人好しだな。と一人自嘲すると、俺のターンが終わる。どこか切なさを覚えていると、気持ちを察したか察してないか、ほらほら私ですよ!貴方の日々樹ですよ!と背中を叩く。はけろと言外に言われて俺は後ろに置いた水を一気に飲み込む。ゆらぎはやくー。と深海にせっつかれて、俺は夏目と深海の間に入り日々樹のバックを勤める。
日々樹の背中を見て、ちょっともうなんか今感極まってきた。うるっとしてると、振りが一個飛んで避け夏目の肘を腹に喰らう。

「うぐっ!!!」
「なにしてるのサ」
「涙引っ込んだわ…サンキュー…」

いてえ。と呟きつつもハモリの手を抜かない。ほらーいたくないですよー。の深海にいたくないよなー!と同調する。いや、痛いよ。めちゃくちゃ痛いよ。アイドルだから顔に出さないけど。




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