俺と最後の踏伐・夜の終演ライブ。 12 





朔間達と打ち合わせや説教を済ませて、音響を勤める放送委員会に指示書を一つだけ渡してくる。俺たちが決めたライブの進行表で、どのタイミングでどの音源をかけろ。という指示まで全部つけている遊木と仙石によろしくと頼んで、俺はさっさと控え室にこもって衣装に着替える。もうすぐたくさん踊れる。と思うと心が跳ねている。ライブ開始10分前になって舞台袖につくと、つむぎくんがいた。久々に見た気がする。オレは企画書を最後まで真剣に眺めてるつむぎくんの背中に声をかける。最後は気まずそうに別れて以来で、どうにも話しにくいがひどく悩みすぎている様子はなさそうだなんて俺はつむぎくんを見て思う。企画書から目を反らしたつむぎくんがこちらを見た。あとが怖いねぇ。と思いつつも、つむぎくん!と声を発する。

「ゆらぎくん、杖は…?」
「今日だけ特別痛み止打ってるし終わりまで踊ってれるよ…つむぎくん、飯食ってる?君も食細いんだからさぁ。」
「ゆらぎくんは食べましたか?」

そう言われると俺に返すことはできない。そっと視線を反らせると、もう。とポケットの中か小さな俺の大好物つむぎくん特製の『じゃこおかかちーず』のお握りが出てくる。やっぱり食べてないんですね。せめて一つは食べてください。ライブ持ちませんよ?と言われるので、俺も遠慮なく食べる。もぐもぐとしながら、俺は色々動いてたんだろあんがとな。と一言いうと、無茶はしないでくださいよ。あんずちゃんも俺も零くん達もみんな心配してるんですから。と言い切ってつむぎは視線を上げる。つられて視線を上げると、あんずが泣きそうになりながら駆け寄ってきた。

「先輩!足は?」
「痛み止、佐賀美ちゃんにうってもらってるからライブ中ぐらいなら万全に踊れるよ。」
「お願いですから、先輩。ライブを怪我なく終わらせてくださいよ!」

それはできないかな。とゆるやかに首を横に振る。少なくとも俺は『Diana』の看板をアイツらに渡さないのが譲れないポイントだと先ほど朔間達との打ち合わせで改めて決めたことだ。俺の人生、青春の大半を占めているソレの重要な部分であるメンバーというモノをなくすのは俺を無くすに等しいと考える。俺はこれを怪我をとらえてるんだけどな。とか思うと、夏目に後ろから盛大に蹴りを食らう。ふわふわ酩酊の俺に踏ん張る力はなくて、地面に崩れ落ちる。

「なに勿体つけて言ってるのサ。早く言っちゃいなよ、『Diana』を解体するためのライブだっテ。」
「もうちょっと、お前は兄さんを敬え。少なくとも、お前のユニットの先輩の先輩だぞ!?つまりもっと年上だぞ?」
 
それは今回『コマ』のボクとしては関係ないヨ。と減らず口たっぷりの夏目に俺はつむぎくんの手を借りて立ち上がり、このやろうと鉄拳一つ。なっちゃん、ゆらぎをからかったらだめですよー。と深海が回収していく。おちついたらくるんですよー。と言われて、返事を一つ。なんかしまんねえな。と思いつつも、ふと思う。

「解散するためのライブ?」
「え?ゆらぎくんどういうことですか?」

あーもう。お前ら企画書練っといてそれかい。っていうか、朔間の独壇場かよ!もうじじい!!あんずたちの企画書には、舞台近に照明器具ないのってそういうことか?と俺はふと勘ぐる。
死にたい、潰したい。渡さない。と散々俺が言ってたが、もしかして真に受けてまだ物理的に俺ステージ上で死のうと思われる?眉根を寄せてまさかとは思うけど?と聞けば、え?ちがうんですか?ってつむぎくんとあんずが口を揃える。待って、俺そんなにつむぎくん並みのありんこメンタルしてないよ?来世に期待って俺何もできないからな!
そんなことするならしぶとく強く生きてやるって。と口を開きかけたが、「ゆらぎ、始まるぞ。」と斎宮に耳を捕まれてひきずられる。

「いたたた!!!!斎宮いたい!!!あんずもつむぎくんも座席いけよー!終わったらもうちょっと、詳しく話そいたたた!!!!強く引っ張んな!」

俺普通に歩けるから!!!俺耳伸びてウサギさんになる!!!耳たぶそう叫ぶと遠くになりつつあるつむぎくんとあんずが二人してお腹抱えて笑ってた。待って、俺そんな変なこと言ってないぃたたたたたたた!!!斎宮お前わざとだろ!!!耳をつかむ手をタップして解放を望むと、サッサと歩くといい!と解放される。

「もー斎宮は、もうちょっと、言葉に出せ」
「貴様の方が言葉は足りてないが?」
「斎宮にも言われたかねーよ!」

二人でギャンギャン騒いでると、日々樹に首根っこ掴まれて斎宮と離されて夏目の横に下ろされる。笑いなよにいさんアイドルだろ?とその顔は戦争する顔ダ、夏目は両人差し指で口角を指差してスマイルひとつ。踊れることが嬉しい俺はもうすぐしたら満面の笑みの浮かべるだろう。
朔間にほれそろそろ時間じゃぞい。と背中を叩く。ほれ、我輩達を食い散らかして、死を呼びもっとたくさんの死体を食うんじゃろう?ニヤリと笑った朔間に、手加減はいらねえよ。全力で一対一で傷つけあおうぜ。と返事して、俺は舞台に姿を出す。

「さ、狩りの時間だ。狩猟の女神。」

真っ暗の照明の中を俺は歩く。俺の衣装はチョハをモチーフにした仕込みを済ませた黒の特注衣装。対して朔間たち五奇人たちは白を基調にしたもの。スカートの様に長い裾は軽く回っただけて軽やかに舞うのだろう。
ステージのど真ん中に立ってその時間を待つ。最前列の真ん中一番見やすいところに一年前と変わらずに笑っている仲間がいた。今は俺を嘲笑うといい。「一年越の返事をしてややるよ。お前達に絶対に渡してやるもんか」と小さく呟くと、客席の照明が落ちた。観客席から黄色い声が聞こえた。さあ。俺のステージの時間だ。俺はもう一人じゃない。
ふと息を吐くと、俺にスポットライトが灯る。光によって浮き出された俺は一度だけかしこまってお辞儀を一つ。
いままで俺にしたがってくれてあんがとな俺からお前達にできる返礼祭だな。マイクに拾われない声量で呟いて靴底を叩く。
リズミカルに鳴らしているとそれに併せて音が鳴りだす。学校でも使うよく聞き慣れている練習曲だ。いつもと違うのは俺専用のアレンジが入っていることだろう。足を壊した俺が足を酷使使う。
じゃん。と音が鳴ると同時に靴をならして、ステージ全体に照明がつく。

俺の復讐が始まるのだ。




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