俺と最後の踏伐・夜の終演ライブ。 11 





月永から一曲貰った。ダンサブルなナンバーだ。走り抜けていこう!みたいな感じが見えて、俺は急遽プログラムを変更してタイムテーブルを全部組み直して躍り直していると、あっという間に当日になった。

俺の命日となる日。
青葉ゆらぎとして生を全うする日。
『Diana』の終わる日。
終わりの日が始まるのだ。

目を覚ますと自宅の整理をしてねぇなぁ。ほぼ寝に帰る家のような場所だからそんなに置いてなかったか…。と朝起き抜けで思い出した。ま、いっか。と思いつつ時計を見ると16時。ちなみにライブは19時。夜通し踊って飯くって昼13時まで最終調整をしてたので、睡眠時間は三時間ほど。放送委員はそろそろ集合時間だったはずだからそっちに音源の確認とお礼を言いに顔を出さねば。その前に痛み止だったと思い出して、慌ててパイプ椅子を横に並べただけのお粗末にもベッドとは言えないモノから抜け出して、制服に袖を通す。
レッスン室で寝泊まりしてたんたけど、一面に張られた鏡の向こうの俺は死んだ顔をしている。ほら笑えと自分自身に言い聞かせて部屋を出る。携帯を開きつむぎくんからの連絡がないかチェックするが、まぁ喧嘩中なので連絡はないだろう。
保健室に行って佐賀美ちゃんに痛み止めの筋肉注射をしてもらう。しばらくしてから動けよ。と促されたので、この間貰った月永の歌を鼻唄でおさらいしてると、ふわふわとした感覚がするのを覚える。ほどよい酩酊感がしていると言うことは聞き始めてるのだ。どこか真新しい靴を履いたような浮いてる感じを味わいながら、お礼を言いつつ教室を出る。気を付けろよー。と言われたので、佐賀美ちゃんくっすんと来てなーと返事して、保健室の佐賀美ちゃんに杖を託して俺はステージにいるだろう、放送委員の仙石と遊木のところに顔を出して最終的な打ち合わせだ。

「遊木、仙石いるかー?」
「ゆらぎ先輩だ!今日頑張ってくださいね!それにしても五奇人と一閥のB1だなんて奇跡みたい!」
「ん?あれ?話違うんだけど」

え?朔間先輩から企画書きたけど?と首をかしげながら彼らに配布された企画書を見ると、企画書の中身がまるっと違う。まって、俺一番目に好きな音楽持ってきたはずなのに何で?と企画主の方を見ると朔間とあんずとつむぎの連名になってる。待って!!!!!どこまで俺の過去の傷開いてくれてんの?報連相とかできたの朔間?!ってかお前ら俺のバックで踊るんじゃないのかよ!待って!話が違う!セットリストとか全部一緒なのに、やってること一対五のデュエルみたいなことになってるけどぉお!!!!おかしいじゃん、俺一回もまけれないじゃん!いや決闘というなら勝つけど、そうじゃないよ!!ちげえ!俺の計算はライブ中の事故再度。だったのに!

「なんだこれ!?俺のライブ全然違うじゃないか。待って、なんで?」
「僕たちに資料が届いたのも昨日で…。」
「朔間か…あいつ、生徒会室にでも忍び込んでかきかえたのかよ。」

あの食えないじじいめ!俺の活動費使ってちゃっかり五奇人をプッシュすんじゃねえよ。俺が発狂しかけているとなかなか気が立っておるの。なんて笑う朔間が俺の後ろにたってた。俺がライブ用に発注した衣装の色違いを着て笑ってた。
朔間先輩じゃないですか!と遊木の声をほったらかしにして。おや今日は杖がないんじゃな、って言うけど、ちげえよソレどころじゃねえよ。お前人の企画書読んでこれか!お前文字読めないとか…いや、こいつ読めないから踊れとか言ったよな!お前記憶力は虫か鳥か!?ばしばし叩きつけると、虫じゃないわい。と企画書が地面に落ちた。いや、ちがうわい。待って、朔間俺一晩ぶっつづけで踊ったよね?待て何で覚えてないの?

「いや、こちらもゆらぎくんのバックで踊ろうと思っていたのじゃがな。助けてくれと言う願う子達がいたんじゃよ。じゃから、方向性を変更して貰ったわい。」

お前は孫溺愛のジジイか!いや、ジジイだよ。お前、そういうのだった。俺が最終日直前に確認してなかったのが悪かった。そうだ悪かった。うん確かに。俺が悪い。俺次から企画書最終確認しよ。っていうか、俺。もう次ないよ。そうだわ。もう朔間のテンションに持っていかれ過ぎて俺の思考要領が基本的に足りてない。とりあえずだ。
放送委員会、最終確認を一時間後にずらす。朔間借りるぞ。有無を言わさず俺は朔間の首根っこをつかんで、近くの空き教室に向かう。部屋の中に投げ込むと、最近の若い子はと言うが、お前と同い年だってっつってんだろ!じじい!!学院の表向きはな!
俺の混乱をよそに朔間は悠々と椅子に座って俺の方を向いた、一年前のようなしたり顔で俺を見る。赤い目だ。この間手を取ったあの時をふと思い出した。生きていることを実感させる血のような色は、ついこの間に見たはずなのに遠い昔に感じた。それでも俺は俺の意思を曲げたくない。ふわふわする感覚の自分の手を摘まんで意識を取り戻せと訴えつつ落ち着かせるように息を吸って、俺も朔間の向かい出入り口に背を向けるように、腰を下ろす。

「お前はいったい何を考えてるんだか、頭のよわーい俺にどうしてこうなったか教えてくんない?」

朔間とあんずとつむぎくんとで書いた連名の企画書でばしばしと顔に当ててやると観念したのか朔間は口を開く。簡単に要約するとするとこうだ。
俺の「俺は俺を全部散らす」だけを聞いたつむぎくんが俺が死ぬと思ったらしく、真っ青な顔で歩いてたらあんずと出会って、「ゆらぎくんが今度のライブで自殺しようとしてる」とか言っちゃって、その相談が朔間に行ったから、本来バックで踊る予定だったが、方向性を変えた。朔間はうんうんと頷きながら言う。余裕を出してるのは俺が朔間の手の中で踊らされるからだろうか。

「つむぎくん残して死ねるわけねぇだろうが。あの心配性メガネ!だぁあ!!!」
「我輩のところに嬢ちゃんが駆け込んできたときは二人とも真っ青な顔をしておったわい。さて、改めて。ゆらぎくんが一番踊れて、死なない方法でライブを成功させるのがの方向性を改めて考え直そうではないか」

譲れないのは、アイツらが『Diana』を俺を殺してに手に入れようとしていることを阻止することだ。アイツらは俺の場所を笑ったんだ。面従復背で三年間俺を笑ってたんだ。仮面を被ってアイドルとして楽したいと言ったんだ。もしも俺が居なくなった『Diana』で売れていくつもりなら、俺はアイツらを許さない。許せないから、アイツらの手に渡る前に俺ごと潰したいと思っている。そう告げるとふむ、死ぬのは手段だといいたいんじゃな、赤い目が薄く開かれる。さて、では。本来の話をしようではないかと朔間が口を開く。

「その計画でゆらぎくんは何をしたかったんじゃ?」
「ライブ中に放送委員会に退学届けを渡してもらおうと思ってた。お前のせいでぐちゃぐちゃだけどな。そしたら、生徒外の人間がライブしてんだから、生徒会は中止しにくる。元『Diana』の俺は校外につまみだされて『Diana』はライブをすっぽかした。まぁ、その時点で『Diana』の面々はいないんだけどさ。」
「意外と手の混んでおるの。」
「ただ、そっと解散届けを出すだけならば、そんなにダメージにはならない。大きな事故があって失態があってこそだと俺は思っている。」

そうかの、なら。我輩の持っている案が一番実現しやすいのう。ゆらぎくんや、死ぬのはよくない。お主の家族も悲しむじゃろうし、お主は不死なるものではないのじゃからな。この案なら誰も悲しまん。お主も怪我する必要はない。誰も傷つかずお主は『Diana』を続けることができる。そして、お主を笑っていった奴らも置いていくことができるが、聞く限りになかなかゆらぎくんも一年あった割に思考がまだまだじゃの。鼻で笑う朔間に、さっさと教えろと急かすと、そう急かすでない。もう準備はほぼほぼ整っておるのじゃからの。
赤い瞳が艶めかしく弧を描く。壁につっている時計を見るともうすぐ控え室に行くような時間になってきている。時間はないぞ、と再度催促をすると、なぁに簡単なことじゃよ。あやつらを舞台に引き上げて、お主が噛み潰してしまえばいいではないか。と朔間が言った。なんということだ、それは確かに思ってなかった。目から鱗だ。
俺はアイツらをステージで潰すなんて考えてなかった。あいつらに渡さない。ということだけに考えすぎていたようだ。もうと俺は肩を落とす。簡単な解決方法は足元にあったのだ。だが、どうすればアイツらを引っ張り出せるかと考える。視線は手元に落ちる。夕焼けの光を受けて机に長い影を作る。

「復讐は目を鈍らせるのう。まぁ、今回については、お主は我輩の手を取ったんじゃから、お主は腹を据えて楽しめばよい。そのための宴じゃ。尚もお膳立てもしてやろうじゃないか。」

今までさんざんどこもかしこもいろんな『ユニット』が礼になっておるんじゃ、たまには餌にでもなってやろうではないか。お主が倒れぬ限り、今宵の舞台はお主のものじゃよ。我輩らはお主よりも丈夫での死なぬわ。安心せい。こうして集えたのはお主がいてこそ、お主の野望は我輩らがなんとかしてやる。だから、今日は、今日ぐらいはお主は楽しめばいいのじゃよ。なんて説き伏せてくるから、もしかしたら最初から朔間はわかっていたのかもしれない。がちょっと待て、いろいろ打合せしなきゃ俺がわけわかんなくなる。俺のためってどういうことだよ。お前達ちゃっかり五奇人復活祭に相乗りする形じゃないのか?待って朔間意味がわからない。

「朔間何が言いたいんだ?」
「我輩達をなにと心得る。五人よれば奇人も一閥と並ぶぞえ?」

ほれみてみろ。と指いうから俺は顔をあげる。前に視線を向けるとあり得ない光景が広がっていた。
朔間と同じ服を着て、ちょっとだけ怒っている夏目が、久しぶりに揃ったのが嬉しそうな深海が、驚いたでしょう?という目をした日々樹が、いつもよりもむすっとしてる割にちょっと嬉しそうな斎宮がそこにならんでたってた。俺が着る予定の色違いの衣装を纏って。俺が見たかった光景がそこにあった。
アイツらの一人が無理だと言った光景がここにある。だから、夏目はあの書類を撮影していったんだなといつぞやの光景に納得して、目の前の光景を見て俺は思う。

「朔間、こんなの卑怯だぞ。ずっこい。ほんとせこい。じじい。」
「なんのことだかさっぱりわからぬな。お主はただ、我輩たちを食いあさりそして、仲間を食うんじゃろう?」

『Diana』はヘカテーでもあるんじゃからのう。夜は死じゃよ。なんて楽しそうな声で言ってから鼻をならして朔間は俺の肩を叩き他の五奇人と並んで、妖しくに笑う。太陽は彼らの後ろ、窓のもっと遠くで赤く悲鳴を上げている。逢魔の時に彼らは怪しく笑って姿を出した。夜はまだまだだ、宴をするならば、我らを求めよと彼らがいう。

「ご用命はなんだイ?」
「あいつらを…元『Diana』のメンバーを処刑台にかけたい。」
「さて、どんな風にだ?」
「あいつらを一度調子に載せて舞台に上げてだ。」
「それなら、Amazingはご入り用ですね?」
「もちろん、最後に俺が全員を討つのだから。」
「『こよい』はゆらぎの『こま』として『てあし』としてなりましょう?」
「ああ。頼んだ。」
「Yes,Your Majesty。我輩達が主の剣と刃となろうぞ?」

仰々しく頭を垂れる彼らを見て、俺は夢を見ているのではないかと思った。見えてる世界が上手に見えないんだから。視界が揺れるのを感じながら、俺の望む場所はここだったのかと錯覚を覚えているのだから。なぜか俺は、不覚にもこの光景をつむぎくんにも見せたいと思った。
まずは第一歩だ。この一歩は一年待った。誰にも言わずひっそりと、あいつらは絶対にくる。そう俺は確信を持っている。俺を笑いに来てるのだから。

「さぁ、サバトを始めよう。」

夜の女神が姿を変える時間だ。
俺はこれから見える光景に胸が高まった。

「でも、とりあえず打合せな!本番まで。」

俺、朔間の手の内で踊らされるのはほんと勘弁してほしいんだけど?眉根を寄せて五奇人を眺めればゆらぎ兄さん100%怒ってルと小さく呟くのを聞き逃さなかった。そりゃあ怒るだろ!ばか朔間!なんかもう、今さっきまでカッコ良かったのに駄々崩れだ。もったいねー。さっきまでの調子を崩してるのはお前だと、斎宮に言われるが、断じて言うが。お前らが勝手に動いてるから俺の計画もめちゃくちゃなんだってば。とにかく、お前らの求めた方向性と俺のやりたい方向性を擦り合わせようじゃないか。俺必死に最終調整したのに、全部おじゃんにされてるの、ほんと許さないからね?わかったか、てめぇら!!!!覚悟しやがれっての!!





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