俺と最後の踏伐・夜の終演ライブ。 10 





佐賀美ちゃんとわかれてレッスン室についたとき、月永がふらふらしていた。ノブをひねって入りかけてる時に気づいて、声をかけると案外元気そうで俺にとびかかるように寄ってきた。待って!それはお前座ってるとき限定だろ!踏ん張り聞かないんだからやめてくれ!と声を上げるとそっだった。と寸前でブレーキをかけてきた。怖いよ、俺。君のことが。いや、つむぎくんが若い子怖いって言うの今めっちゃわかった気がする。

「おばくんじゃん!元気か?飯食ってるかー?」
「まぁ元気だよ。月永は愛変わらずそうだな。」
「だろー?」

セナから聞いたぞ、ライブするんだってな!んーまーね。と返しつつ、入ればー?と促すと彼は素直についてくる。お前と出会ったのって一年前の病院が初回だったけどさ。君もなかなか変わり者だよね。と俺はつくづく思う。あの頃から瀬名にガミガミ言われてたしさ。飯一緒に食う?と聞けばお前いいやつだよなー!セナだったらとカロリーがー。とかなんて月永が口を開けば二言目にはセナなんだから、ほんと羨ましいよな。俺にはまっすぐに構えててもそれを受け取ってくれるような仲間が居なかったんだから。

「な、今度のライブ来いよ。最前列の真ん中以外ならどこでもいいぞ?」
「本当か!俺お前が踊るのきれいだから好きだぞ!見てると霊感が降りてくるんだ、おばくんのはな!指先まで伸びてバレエみたいにくるくるして、妖精みたいでさ!」
「まじかーそれは嬉しいや!」

ははっと笑うと、隣が足を止めた。どうした?と聞くと、お前なにかあったのか?と聞かれる。どれについてだろう、と一瞬考える。つむぎくんと喧嘩したぐらいかなーとはぐらかしたが、違うだろ。と月永が言う。いや、違わないんだけど。困惑した俺に、なんかおばくん、なんだろう?何かの覚悟決めた?とか言い出す。妙に鋭いからこいつ怖いんだけど。

「まぁ『Diana』もいろいろありすぎてな。お前達みたいなの。あったんだよ。王様。」
「なんだよ、そういうこと早く言えよ領民なしの大君主。」
「まーなーそうやって簡単に言えたら良かったよな。」

もう俺の気持ちがだいぶ固まってきたからこうしていってるんだよ。わかってくれよ。なにもしなければ好き放題言われて、最後に処刑台で首をおとされるんだぜ?お人好しの自覚はねえから、ここで潰すしかねえんだよ。俺は踊れていたらいい。手だけつながってたらいいんだって、思ってるよ。まぁ、どんだけダメージ受けるかわかんねえけどな。アイツらに夜の女神は似合わないっての。

「かっこいいなソレ!あ〜霊感沸いてきた、この曲お前にやるよ!踊ってくれ、おばくん」
「わかった、受け取ってやる。だから、先に飯な。わかったから。俺お前引っ張ってく力ないからな!!!それとやるならダンサブルにしてくれ、バラードは俺が萎える。ケルト調なら俺が尚更跳び跳ねる!」

よーしまっかせろー!ってすぐに俺のレッスン室に飛び込んで、うわー。と声を上げる、壁一面に張られた紙の資料に月永は目をキラキラさせてすげー!やっぱりお前はすげーよ!と両手放しの大絶賛。中身は俺が散るための手順書だったりするけどな!
わかったわかったわかった人たらしの天才め!変なとこポンコツなのにこいつ。そういう誉め言葉はお前の自分の後輩に言え!その辺りの紙束で月永をしばくと、俺は俺がすごいと思ったやつにしか言わない!スオ〜にはいつも言ってる!と自信満々に言うのも、なんかもう直視出来ないほどピュアなんだけどー?どーなってんのナルくん?なんて小さな瀬名が俺のところに降りてきた。
恥ずか死しそうな俺が両手放しの賛辞を受けてると、月永を探しにきた朱桜と出会ったので、わけてやろうとした飯を全部押し付けてさっさとお引き取り願った。恥ずかしいんだけどー!あとで電話が来て王様に豚飯みたいなの渡さないでって怒鳴り込みが来てる。朱桜が食べたんだってさ。理不尽!!電話ガチャ切り10分後に鳴上が謝りにくるんだからほんと家族みたいだよな。と笑った。…俺の家族絶賛喧嘩中なんだけどな。
佐賀美ちゃんがつむぎくんが忙しそう。って言ってたからなんかあったのかな。とか思いつつ携帯を開くと、ご飯食べてますか?って来るから、食べてるよ。と返事だけはしとく。あれは心配性だからね。ほらこの間のじゃこおかかちーずのお握りのこともあったし。この間あんずに持たせたお握り美味しかったよ。とメッセージを送ると既読がすぐについた。ぺこっとスタンプが送られてきて、高峯好みのゆるキャラスタンプで、ちょっとほっこりした。けど、ライブが終わったらお話しましょう。って書いてるからやっぱりまだ怒ってるじゃん!なんて俺は思ったよ。了解と送ると満足そうな笑みのスタンプなんだけど、目だけが笑ってない。おい、こんな怖いスタンプ買わせたの誰よ!俺だよ!結局俺がやった行動に対して俺にツケ回ってんじゃねぇかよ。あー悲しい!なんでつむぎくんに「このスタンプ可愛くね?」とか言ったの?ってさなんでつむぎくんは買ってるんだよ。「ゆらぎくんが好きだ〜って言うからたくさん見たいと思って」とか言いそうだけどさ。いや!そこにつぎ込まなくていいから。




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