俺と最後の踏伐・夜の終演ライブ。 09 





朔間の手を取った。というもののあれからうんともすんともない。いや、連絡来たらなんかあるんだろうけどさ。ないことは良いことなんだろう。
多分俺のバックとして練習してるのかもな。と思いつつ、日誌を書いたり書類を切ったりしてると気づけば下校時間だとチャイムが鳴った。まぁ。なったとして俺はここにとまりこむんだけどな。と思いつつ、そういえばつむぎくんともしばらく話をしてないな。と思い出す。ちょっとさみしいな。とか思いつつ、放送委員会への申請、生徒会に出す書類やあれやこれやと手配を進めるメモを書き上げて、ノートを閉じる。
こうやって見える景色はもうすぐ終わる。そう。終わらせるのだ。と自分に行聞かせていると教室の出入り口で三毛縞が顔を出した。

「ゆらぎさん!」
「おん?三毛縞?」
「今度ライブをやると聞いたんだが、どうなんだ?」

どうもこうもねえよ。つつがなくすべてを終わらせてやるよ。と告げる。三毛縞は一瞬ん?と眉根を寄せたが、ライブが平和に終わるならいいことだ。と三毛縞は言う。続いて帰るなら途中までの送別を買って出ようとしたが、俺は泊まりだから気にすんな。と言う。そうだったか、こんな時間まで教室に電気がついてたから見に来たんだがゆらぎさん。

「浮かない顔をしてるがどうしたんだ?ママに話してごらん。」
「そんな悩みはないかな。この間あんずに話して腹ン中は決まったから。」

それはよかった。と三毛縞が言う。この腹のうちを全て言えば、即刻こいつは手を回し始めるから油断ならない。まるで水のようなやつだと俺は思う。気づいたら、近くにこいつがいたりするのだから。

「ゆらぎさんは、一年前のレオさんを見ているようだ。」
「一年前の月永なんて俺は知らないけどな」
「レオさんと顔つきが似てるんだよなあ。どこか死線に赴こうとしているような。」

俺は一年前のこの時期はリハビリで血ヘド吐いてたかんな。まぁ、つむぎくんのぼやきを聞いた気はするが、はっきりとは思い出せない。天祥院に手を求められて。と言って俺でもできることはあるんですね。と嬉しそうだったのは知っているが。塞ぎこんでリハビリしてたから、あんまり覚えてないや。再び踊るぞ。あの頃その意思だけが俺の全てだった。戻ったら仲間が笑ってお帰りと言ってくれると思っていた。そんな言葉はなかったけどな。

「聞いてる話じゃあ王様には優秀な盾も鎧も剣にもなる人がいた。まぁ多分瀬名だろうけど。俺にはそんなやつ。いなかったけどな。」
「『Diana』は穏やかなユニットじゃないかあ。」

あの様子ならどうせ、俺のいない一年は俺をこきおろしてアレンジを加えて好きにしてたんだろう。卒業までに帰ってこないのだから。好き勝手やってたのではないのだろうか。なんて俺は勘ぐってる。アイツら隠すのは上手いもんな。三年の卒業までそんなのおくびにもしなかったんだからな。

「そう見えてたならいいさ。俺は踊れたらよかったんだから。」

そろそろ教室閉めるぞ。ほらほら出てけ。と俺もカバンを背負って出入口まで動き出す。練習室まで連れていこうか、という申し出にありがたくも遠慮しておく。計画書はあの部屋に置きっぱなしなので、見られると都合が悪い。

「なぁ三毛縞。お前から見てさ『Diana』はどう見えてた?」
「そうだなあ。」

考え出す三毛縞にいや、やっぱり聞かない。ライブが終わったら教えてよ。と言う。まぁそんな余裕さえ与えないけどさ。舞台中に事故に巻き込まれるんだから。ふっと息を吐けばゆらぎさんお疲れか?ママが手料理をー。なんて言うのを丁寧に断る。美味しいぞーと詰め寄ってくるので騒いでたら守沢もやってきて、結論俺が折れて三人で飯食ってたし、味なんてわかんねえから、守沢と同調して、うめーうめーって言っておく。気づいたら俺の練習室にまで来てた。慌てて見られて困るものを片付けたけど、怪しまれてないかちょっとドキドキ。別に躍りは見られて困るものはないから、そういえばと思い出したように「一通り踊るけど見ていく?」と誘えば、二人は快く答えてくれて、俺達三人の夜は更けていく。

「ゆらぎさん、ここはもっとターンを」
「いいんだよ。これ以上変更はかけれないんだ」
「拍でタイミング取ってるから、遅いとか角度が悪いとかないか?」
「そうだなー」

多分変えたら夏目に起こられる。また勝手にしテ!。と脳裏で怒られた。暴力ついてくるかもしれないけど、そんなの言ってる間に俺は冷たくなってるさ。まぁ、もしかするとつむぎくんがあれやこれやと手を回してるだろうけれど、俺はそれをも対策をとっている。大丈夫だ。と自分に言い聞かせながら音に踊る。俺は舞台上でしか死ねないんだから。
一通り三毛縞と守沢による『流星隊』気味な振り付けになってしまったが、三毛縞と守沢も帰る頃合いになったので二人を見送る。買い出しもあったので二人に近所のコンビニまで送ってもらい、適当にしばらく用の水をまとめて買ってカバンに背負う学校に戻る。お疲れ様でーす。と警備員に声をかけて校舎に入ると見回り中の佐賀美ちゃんと出会った。

「青葉、お前まだ残ってたのか?」
「この二週間ぐらいうちのレッスン室で引きこもってるよ」

まー今度のライブはとんでもないことをするよ。とケラケラ笑っておくと、お前まだ足完治してないんだからなー。と言われるが本番は三時間以上踊りっぱなし歌いっぱなしの予定だ。まー間にMCでも入れるかなー。単独だしバックダンサーはいらないし、ほぼほぼ出来上がった俺のライブはやるよ。

「怪我すんなよ」
「俺単独ライブだしー問題ねぇって」

サポーター必須だろうけどよ。なぁ佐賀美ちゃん!足に痛み止打って欲しいんだけど!なんて言う間もなく佐賀美ちゃんは「却下」と食い気味な返答。ケチー!ペンタジンは依存するから…って言ったってお前は聞かないんだろ?当日朝に一度しか打たないからな。ありがとー佐賀美ちゃん流石だぜ!いえー!なんて飛び上がりたくても上がれないので声だけ上げる。うるせー!って怒られたけど、痛み止のペンタジンを確約したので、本番は打ってもらって瞬く間に杖なしで今以上のパフォーマンスできるー!やったー!
踊りたいだけ踊れる!と空いてる手を握りこぶしを振り上げる。あーそうだ。と思い出したように佐賀美ちゃんが俺に話を振る。

「そういえばお前最近弟となんかあったか?なんか忙しそうにしてるけど」
「んーまー兄弟喧嘩だよ。やっぱり動いてるよなぁ」

まー暇だったらくっすんと見に来てやってよ!くっすんがイエスっていうまで杖で爪先つついてやる。椚先生って言え!俺がどやされるだろうが。青葉やめろ!俺の爪先で試すな!
一年前にはリハビリの話を聞いてくれた佐賀美ちゃんの怒り声をききながら、もうひと躍りして寝るなー!おやすみー!と返事して俺は引きこもり部屋に戻ろうとしたら、佐賀美ちゃんにしっかり寝ろよ!と言われたのでへーい。と軽く返事をして引きこもり部屋に帰る。俺の最後はもうすぐだよ。しっかり寝ている暇なんてないよ。




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