俺と最後の踏伐・夜の終演ライブ。 08 





活動費を使って部屋を借りて音源の波におぼれて踊っていると、あんずが部屋に入って来てた。練習中にすいませんと頭をさげるがそんなの気にしなくていいよ。どうせ昔からここを借りてるのはうちだけだって伝えつつ地面に座る。鏡越しにあんずを見ると首を傾げてた。あぁ、そっか去年をしらなかったか。『Diana』で一年借りてたんだよ。ほら、セナスタジオ的な。って伝えるとあんずは納得したようだ。便利だなセナスタジオ。俺もここ青葉スタジオって…ダンス教室を思い出した。やめとこ。

「先輩?おうち帰られてます?」
「んーつむぎくんと喧嘩して帰りにくいんだよねー」

今後の音楽性について、なんだけどさー。とケラケラ笑っていると、あんずが心配そうな顔をしていた。ご飯とか食べられてます?と言うが食も細いし食欲はないし食っても痩せるし、満塁ホームラン決めてるのでそんなに食べずとも…とか思ってると、食えとあんずにおにぎりを口の中に押し込められた。死ぬかと思うよ!こんど死のうとしてる俺が言うのもおかしいけどさ!んぐんぐと胃の中に収めると、…この感じつむぎくんの作ったおにぎりの食感に似てる。俺が楽しめてるの食感だけだしね。たぶんこれさぁ…んーたぶんじゃこおかかちーずだろ、っていうかつむぎくんだろ作ってんの。この味つむぎくんしか出せないんだよなぁ。何?愛情?照れるじゃねえかよ。じゃなくてあいつ!やっぱ心配性だなぁ。と思いつつ胃の中に収める。

「朔間先輩に聞きましたよ。単独ライブの話。」
「朔間から聞いたの?もーしゃーねーやつ。B1にもならない俺一人のライブの予定だよ」

一人で、ですか?と聞くので、そー。と返す。
返礼祭とかぜーんぶほったらかしにして、俺のやりたいこと。の話、まえにしたろ?その結晶をつくりたくてさ。お前にも前言ったじゃん。入院中にさ。言うと、あぁありましたね。とあんずも思い出したようだ。あれのさバックに五奇人を立たせるんだよ。バックダンサーを呼ぼうとしてたけど手違いで呼べなくて俺は伝手を使って五奇人をバックに立たせる。朔間には言っているから、何とかなると思ってるんだよ。天祥院にバレたら止められるから俺はほとんど知らない方向で走ってるんだけどさ。

「ちょっとだけあんず。休憩がてらにさ話を聞いてくんない?俺の過去っていうか、『Diana』の話。頭ン中まとまってなくてさー。企業秘密入るから周りには言わないでね?」

いいですよ。と言ってくれたので、「ほら、ここすわれ。冷やすからタオルの上な。」なんて俺の近くに新品のバスタオルを二つ折りにしてほい。と即席座布団を作り上げる。あんずは失礼します。といいつつそこに腰を下ろすので、俺は一番最初に一閥の話をし始める。
「なーあんず。一閥ってどんな意味か知ってるか?」そう問うと「知りません。」と返事が来たので、俺の仲間たちがつけたんだぜ。一人ぼっちの暴君。一人で団体。孤高の暴君だよ。音も振りも手配も全部しちゃったんだよね。だーれも動かなかったから。
『Diana』は俺が誘って俺が作って守った。『Diana』が大事な場所だった。
だけど、一昨年の春の終わりぐらいに俺は事故で、ライブ中に機材を倒れて…まぁ機材って重たいじゃん。その落下地点に俺がいた。慌てて横に反れたんだけどさ下半身巻き込まれたの。それでも抜け出して普通にライブだけは終わらせたの。まじ俺すごくね?って思うけど足の骨折…てより骨がまぁ服の下に出てた的な。アドレナリンってすげーよな。まぁいろいろやらかしてさ。普通なら即死に近いって医者にも言われた。一年リハビリのために休学して死ぬほどリハビリして普通のパフォーマンスできるぐらいまで戻して、裏方で点数稼いで進級してさ。去年度の卒業式の日。なんとか学校に戻ってあいつら卒業式で見送ったんだけどさ。その日に言われたんだよな。
「卒業したら追いついてきた瞬間に俺を解雇するためのライブをしよう」「俺達の名声のために知名度をあげといてくれ、ほら五奇人と踊るとかさ。無理だろけど」「俺らは新しく頑張るからお前は今まで通り孤高の暴君してるといいよ、どうせ一人だからドリフェスに出られないんだろうけどな!」「その活動金は俺達からの選別だ!」ってあいつら笑いながら言ったんだよな。俺は夢かと思ったよ。三年間一緒にやってたやつに腹刺された気分だよなー。守って戦っていろいろしてしてたのに、俺の仲間が全員俺に反抗してたのさ。俺はどうもしょっぱなから孤高の城主だったみたいでさ。まぁ踊りしか見てないから、全て見てなかったんだよ。俺が全部してたから、仲間の声なんて聞かなかった。いや、聞こえてなかったんだ。一人ぼっちの暴君。一人で団体の量を仕事してしまう。一人で完結している。一つの罰であり一閥。踊りを愛しすぎたがゆえにすべてを無くした。俺は赤い靴も無くして、仲間も無くしたのさ。その時がショック過ぎてか今でもあんまり飯の味が解らねぇけどな。
今思えばあれは、最大多数の幸福を求めていたが故で思ってるんだけど。まぁ、生徒会がーとかではないのかと俺は勘ぐってるけどさ。詳細は闇のなかってな。つまるとこ俺、あいつら見返したくてライブやるのさ。趣旨はそこ、俺はあいつらのチケットを4枚をあいつらの事務所に送ってやったけどさ。俺はこんだけ踊れるんだぞ。って見せたいんだよな。来るかは知らねーけど。

「青葉先輩、本心ですか?」
「ん?そだよ。」
「そのわりに、あんまり嬉しそうじゃないですよね」

そう?視線をレッスン室の一面に張られた鏡に向ける。鏡にあんずと首を傾げた俺が写っている。あんまり目が笑ってなかっただろうかとおもいつつ、目も笑っておく。それでもあんずにはわかったのか、ステージに立つのが嬉しそうな先輩なのに、そんなに嬉しくなさそう。とか言われてちょっと図星。もう踊れなくなるとか思うとなんか淋しくなるよな。でもさ。

「この夢はかなえるべきか迷うよな。」

俺の夢はあいつらが絶対にないと言った五奇人との共演だ。だと言ってみるがもしかしたらその実落ち着いて考えたらあいつらの名声をつぶしてやりたいだけなのかもしれない。俺が舞台上で散ってもしくは舞台終わってから消えて、遠い未来で『Diana』はゆらぎくんがいたほうがよかったというようにしてやりたいのだろうか。と俺は俺自身に問いかける。いや、でも見返したい。手に入ったといった瞬間に潰したい。

「叶えたくないんですか?」
「じゃあさ、命を懸けて叶えたい夢ってどんなのなんだと思う。あんずは?」
「私ですか…?」

んーと。なんて声を出しながらあごに人差し指を置いて考える。あんまりよくわかんないですけど、やっぱり自分のために叶えたいんじゃないですかね。だって、夢ってそういうものでしょう?と彼女は言う。どこまでも彼女はまっすぐだと俺は思う。ひどく真っ直ぐだからこそ『プロデューサー』になれたのかもしれない。『アイドル』にもなれずに『プロデューサー』にもなれそうにない俺はひどく濁っているなと思う。思考も、心も。「自分のため、ねぇ。」と言ってみるが、あんまり自分の中でピンとこない。舞台上で散るのはどうだろう、このあんずにもダメージがいくのだろう。じゃあやっぱり舞台上は駄目だなと思う。結局渡す前に死んでも、俺を平然と騙して笑ってたんだ。違う名前に変えて生きていくのだろう。人間はそんなもんだ。軽薄で薄情で腹の中では何を思ってるかわからない。

「な、俺どうしたらいいんだろうな。わかんねえや。」
「とにかく目の前の夢をかなえましょう?さぁゆらぎ先輩!レッスンしましょう!振りを教えてください!違和感あったら言います。」

ふっと笑う彼女に俺は自分のひどさが色濃く見えて自分が一層小さく見えた。矮小な人間だと俺は思う。自分勝手で、やはりどうも俺は孤高の暴君みたいだ。いや、でも迷ったら終わりじゃないかな。と自分で思う。やっぱり俺はステージで散るのがいいだろう。じゃああの設定の中でどうやって散るべきだろうかと思う。

「ほら、はやくレッスンしましょう!もうすぐでしょう?ライブ。」
「そうだな、休憩終わり!あんずあんがとな、あとで飲みものおごるな!」

とりあえず笑う。俺はただの自己満足のために命を散らすのだろう。たぶん。それでもいいと思う。俺が死んだって誰が知らなくてもいつかその真実が詳らかになるのだろうから。それが例えば天祥院だったりしても。大多数の幸福のために俺はまた散るのだろうか。こんな小さな群れでさえ潰していくのだから、やっぱり皇帝様っていうのは恐れ多い。さて、どうするものかと俺は思考しながら音の海におぼれる。

「俺は自己満足だろうとしても、俺は―――。」

ステージで散ってやる。誰にも知られずに俺はそっと消える。それでいい。むしろ。それがいい。『Diana』が終わる。否、終わらせてやる。アイツらが、一年かけて牙を研いだって俺を食い倒せないだろうけど。アイツらに手を出させてたまるものか。俺を嘲笑った奴に俺が嘲笑ってやるさ。





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