俺と最後の踏伐・夜の終演ライブ。 07 





空き教室で衣装の発注をしてると、夏目が部屋の中に飛び込んできた。

「ゆらぎにいさん、怒ってるんだけド?」
「要点があんまりわかってないんだけど!?」
「センパイが泣いてたんだけド?心当たりはないノ?」

ぐっと襟元掴まれてギリギリ睨まれる。ほんと『Switch』ってバランスとれてるよね。リーダーがこういうとき肉体言語で語るあたりが、さ。その斎宮と似てるのほんと、兄弟みたいだよな。でも参謀で肉体言語って三毛縞みたいだけど。それはいいんだけど、…心当たりはめっちゃあります。すいませんって、わかってるけどさ。でもさ。

「一年前ぐらいに討伐された時、お前はどんな気持ちだった。夏目。悔しくて仕方ないだろう?どうしようもなくて、シナリオを描いたのに、平和なピリオドを目指したのに。お城を立てて美しく飾ったところでつぶされた気持ちはどうだ?」

五奇人だったろ、お前も。仲間が倒れてって踊れなくなった舞台を無理やり整地されてさ、知らない世界に作り上げられるのは悲しいだろ。『Diana』は俺の城。一度つぶれてすたれても俺はそこを根城にしている。そこが俺の帰る場所だともっているからだ。それが一番最後に潰されてあいつらが違う名前でやってやろうとしているならば、俺はそれをつぶす。それが俺の使命だと思っているよ。孤独の野獣の城は、愛する人によって魔法が解けるとかいうけどさ。俺には愛する人なんて、もう居ないよ。私のビューティなんていないのさ。この間勝手にこっちから切ったところだから。魔法は解けない。解かさない。俺の夢は覚めない。覚めさせてたまるものか。

「それは、わかっていル。でも、それでもゆらぎにいさんにハ。」
「っていうほど、俺お前にそんならしいこともしてないぞ?」

ほら、少なくとも四人。師匠と兄はいっぱいいるだろ。できない兄ちゃんでごめんな。最近兄ちゃんになったところだしあんまりわかってないんだよ。兄としての感情の振り方的なのな。まともに自覚しだしたのはとても最近だ。へらっと笑う。傷つくことにはもう慣れた、なんにも考えずに笑っていることはとても慣れてる。ずっとそうだから。五奇人たちと学年も違うし誰ともユニットを一緒にすることはない。ましてや二回目の事故は4月のS1の時だった。偶然だったのかもしれないがな。お前も見てたんだろう、たぶん。覚えてねえけど。

「それでも、五奇人と仲のいいセンパイだし、センパイの兄さんだからだヨ。」
「でもそうて呼ばれる資格は、おれにはないよ。」

俺は卒業式まで復讐の鬼になるんだから。余計なモノはいらない。俺は一人で死ににいく。物理的に殺されて、今度は俺が俺に討伐される。そんぐらいでいいんだけどさ。…はて、とふと思う。

「夏目、お前はなにを見えているんだ?」
「なんでもないサ。」
「おまえんとこ、大丈夫なの?」
「大丈夫だヨ?」

何のことだろう?って言うぐらいの感じで首を傾げているのだから、おかしな話だ。ガタガタ椅子を引っ張ってきて夏目が俺の向かいに座る。作業で忙しいから、と切っても夏目はそこに座って俺の作業を見つめる。俺は多少の疑問を持ちながら発注書の手を進める。つむぎくんと喧嘩じゃないけど手を切ってるし、鬼龍も斎宮も忙しいって言われたので俺の懐かしいお抱えに発注してるんだけどさ。じーっと夏目が見ている。

「なんだよ、夏目。」
「いやぁ、うちはセンパイがいるけど、来年には居ないし、聞きやすいゆらぎにいさんに聞こうと思ったら発注書書いてるから見学しようと思って」
「そ。っていうか」

いや君、センパイいるんだからセンパイに聞きなさいよ。と諌めてみるが、でもやっぱりにいさんのがいっぱい書いてるから見やすいシ。と言ってくれるのは嬉しいけど、コレ、見せちゃいけないやつ―!俺がやろうとしている俺単独ライブのやつー!!

「どれを書こうとしてるか見せてくれたら、指摘はするけど?」
「今書いてる資料はないんだよネ」
「じゃあなんで君俺の資料みたの!?」
「見てても勉強にはなるヨ」

じゃあ見てけば?と言った瞬間に衣装案を全部写真撮っていくそういうスタイル嫌いじゃないよ俺。でも撮ったらさっさと帰っていくスタイルどうなの!??!?いやその潔さめっちゃ好きだけどさ…ま、こんな日も最後になるんじゃないかな、と俺は心の底で思った。
俺の単独ライブまでもう少し。




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