俺と最後の踏伐・夜の終演ライブ。 06 





水を買って『Knights』のところに向かう最中、水を恋しがってる深海に出会った。行き倒れてるのにびっくりしたが、いやこの間からいろいろ行き倒れてる影片とか見てるから特段驚くことはないんだけどさ。俺もこの間行き倒れてたし。…つむぎくんにばれてませんように。

「深海大丈夫かー」
「みずがほしいです」
「そっかー、頭からぶっかけたら寒いから、これに指でもつけてろ。」

ペットボトルのふたを開けて深海の指を突っ込む。入り口が小さいから指一本しか入れられなくてごめんな。いや、俺ペットボトル会社の人じゃないから謝る必要ないんだけどさ。なんかつい、謝罪を入れてしまった。そのままぷかぷか、という深海を見つめてなんか元気になってきたっぽいので、そっと声をかけてやると、はっとこっちを見た。…いや、気が付いてなかったの?え?五奇人こわいんだけど。いや、うん。最年少の夏目が一番怖いよね。…いまはそれはいいんだけどさ。

「たすかりました。ゆらぎ。」
「その水やるから、そのまま教室にでも戻ったほうがいいぞ?体育館に守沢がいるならそっちにいくか?」
「だいじょうぶです〜。」

ほんと?ほんと〜。そっかーじゃーいくかー。そうですねー。
こいつほっといたらまだここにいるだろう。春めいてきた今日この頃で日陰のここにいるのは寒くて凍えるだろう。ほらいくぞー。と片手を掴んでたちあがれー。と声をかけると、深海はゆっくり立ち上がる。うんいいこ!俺片足まだ完全じゃないからなー!お前の体重かかってきたらまた折れちまうよ。ゆっくり移動しようと動き始めた頃に前から仙石が走ってきた。

「深海殿ー!探したでござるよ」
「おー仙石、深海探してたのか?」
「隊長殿から連絡を受けたので探しにきたでござる」
「んじゃ、こいつ任せるなー。あんまり水辺に寄ってないみたいだから気をつけろよ。」

今度のお仕事海でござる!生きるでござる深海殿!!!と応援すように声をかけて仙石が深海を連れていく。それを見て二人に背を向けて歩き出した俺に、深海が声をかける。ゆらぎ、きをつけてくださいね。ちあきからはきょかをもらってるんですから。…は?驚いて振り返ると、深海がまっすぐこっちを見ていた。ちあきもたのしみにしてます。ですから、まってますね。『すてーじ』で。
鼻がつんと痛んで進行方向に――仙石と深海に背中を向けなおす。俺の望んだ場所が、そこにある。と深海が言う。…まさか、と思うが、『すてーじ』と言ったんだ。いつの、とかどこの。とか聞くのは野暮だ。

「俺は孤独の暴君だ。俺が望む場所がステージで。俺が立ちたい場所がステージだ。」

従者もコマもない暴君だよ。すべてに裏切られて切られて孤独の暴君さ。魔法が解けたって孤独なんだよ。と笑ってやると、わかってないですね。と言うが、そうなんだよ。俺は一人。夜の孤独の女神だけが俺を縛って離さないんだよ。だから、俺は一人でこの一年を立っていた。校外活動で『Diana』として動いていた。俺があいつらにしてやれる、最大で最高のやり返し。ルールが変わって一人で立てないからって放っておいた結果は俺への最大の賛辞に変えてやるよ。アイツらが卒業後の事務所で牙を研いで立って俺にはかなわないんだからさ。

「ゆらぎまってますよ。」

声を出すと喉が震えてるのがばれるから片手だけを上げて俺は彼らに返事する。じゃあ、今度は俺の足が千切れても踊る。俺はあの舞台でまた散るのだから。今度は俺の手で自分でつぶす。そうだよ。今度こそ俺は。杖を握ってる手が震えるけど、これは踊る喜びの武者奮いだと思っている。つむぎくんが悲しんでもここで『Diana』は終わらせるんだよ。卒業までに…。

「『Diana』は俺一人で解散させる。アイツらの手にも俺の手にも渡さないし残さない。俺は俺を絶対に散らす」
「本当ですか?」

ふと顔を上げると、つむぎくんがいた。俺は力なく笑ってそうだよ。と告げるとつむぎくんは顔を真っ青にして俺によって、肩を掴む。どうしてですか。と言うが俺はそれをずっと決めていたことだ。

俺は孤独な暴君だ。俺のスタンスについてこれなくなったアイツらが俺を裏切って天祥院の元についた。アイツらは事故として俺を倒れてくる機材の下に突き飛ばして足を潰した!オマケに更に一年置いて行った!それなのに卒業までは俺に「『Diana』を守ってくれ」なんて託して卒業してった。この一年でアイツらは事務所で牙を磨いて、最終的に卒業した途端に俺を罷免にする予定までも俺が知っている!アイツらの卒業式の日に言われたんだぞ?それなのに俺はどれだけお人よしをすればいいと思ってるんだ、つむぎ!。残した活動資金は俺への手切れ金だと言ってたやつをだぞ。許せるかよ。俺が頑張ってたちあげたのによ。そうやって裏切られて潰されて、ここ一年で稼いだ名誉だって全部持っていかれるんだ。アイツらに。俺の居た時の映像なんて二度とテレビや雑誌で取りざたされない、もしくは俺が消されてる写真ばっかりだ。無理に空いてる写真なんて持たないほうがいい。誰も。ならどうする。アイツらは全然違う名前で動かすように俺が死ねばいいんだ。ステージから。

「ゆらぎくん落ち着いてください。お願いですから」
「嫌だ。俺は、孤独で従者もない暴君だ。幻想に帰るんだ。頼むよ、つむぎくん。これだけは黙って見れればいい。」

ばれてしまったんだから言うけど。しばらく家にも帰らない。つむぎくんに負担はかけるつもりはないから、ほっておいてくれたらいいよ。俺がひったすら貯蓄した活動費が残ってるんだ。アイツらが残してった遺産とは別にね。ライブが終わって卒業式の日には二酸化炭素も生み出さないゴミになるんだから。世界には環境的にささやかだろうけどさ、まぁやさしくなれるよ。

「ゆらぎくん考え直してください!そんなこと俺が」
「つむぎくんが悲しむとは思ってるけど、それはそれ。そのあたりは後で考えるよ」

誰も悲しまなくて俺も死なずにあいつらをシメれるのが一番だと思うんだけどな。まぁ、そんなおとぎ話なんてないんだよ。俺の赤い靴を奪ったやつらにはなかったのがすべての始まりだったか。いやそうじゃないのかもしれない。俺は再び赤い靴を履くために動くんだよ。
とんとんと懐かしいリズムでつむぎくんの頭を撫でてそのまま彼の横を通り過ぎる。言ってしまったんだ。じゃあ前に進むだけだよな。




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