俺と疲労と金色の風・励ましのウイッシングライブ。 5 





周りに被害がいかないようにはしっこに移動してから今回のソロを万が一の保険三毛縞やなぜかいる守沢。自主練休憩中の冷やかしを兼ねたメンバーが仙石にああだこうだと教え込む。あとは自主練習で、不都合があったら俺に問い合わせてくれ。と伝えて俺も自主練習に励む。ひたすら踊っているのがとても楽しい。仕事もなにも考えずに音に身を任せて踊っていられる環境が心地よすぎて、気がついたら終電も終わって誰も居なかった。なんか帰りまーすとかに緩く返事した気はするが。はっきり覚えてない。今日ぐらい帰ろうと思っていたがなぁ。と思いつつつむぎくんにとりあえず返事を送って畳んだタオルの上に投げ置く。飯食ったっけ?昼は食べた記憶はあるが、夜はないなぁりと思い出す。
ふー。と息ついて、地面に座り込みゆっくり上体を倒して、膝周りのクールダウン。汗かきすぎてべたべただなぁ。とか思いつつ俺はそのまま意識がとんだ。

「ゆらぎちゃん先輩。こんなところで、寝てたらあかんで〜」
「ゆらぎ先輩もお疲れなのね」

聴覚が音をとらえて、意識が浮かぶ。ゆるゆる目をひらくと、鳴上影片が俺を除き覗き混むように見ていた。二人の声を聞きながら寝落ちた。と言葉がおちた。

「ゆらぎ先輩、起きれます?」
「起きるよ。鳴上、手貸して。」

はいどうぞ。と差し出された鳴上の手を掴んで元気な右足を降って掴んだ鳴上の手が冷たくて気持ちいい。あらやだ。とこ鳴上が言った瞬間に、ギクッと嫌な予感がした。掴んだ鳴上の手が離れた瞬間に俺の頬をとらえる。熱、あるわね。と言う言葉が脳に深く刺さる。

「熱あるん?ゆらぎちゃん先輩だいじょうぶなん?」
「影片、耳元で怒鳴らないでくれ…。ついでに鞄とって」

鞄の中に足の痛み用の鎮痛剤が常に入っている。それのなかの効能に解熱があったはずだ。三毛縞にばれたらあっという間に病院送りになってライブどころじゃないし、蓮巳にはどやされる。守沢の説教も面倒だし、やだ。影片が鞄を取ってくれたので、鞄の底の白い錠剤を規定分胃のなかに叩き込む。

「薬は飲んだ。ライブは出るぞ」
「ゆらぎ先輩!駄目よ。ママに連絡を」

鳴上が携帯を出そうとしたので、鋭く止める。でもと言いかけた影片をも止めろと制する。俺が踊りが好きで仕方ないのをあんずは知っている。そんな絶好のステージだっていうのに俺が出なかったら怪しむ。それに、怪しんであんずにバレてみろ。ステージに命かけてる俺がこんな絶好の餌前にして出ないなんて考えれない。そんなことをアイツは知っている。知るとアイツは後悔する。それに俺はアイドルだ。アイドルは夢を売るのが仕事だろ?苦しいなんて顔なんて絶対にしない。お前たち以外に誰にも見せない。見つかってみろ、アイドル。プロ失格だ。わかるだろ、鳴上お前なら。堕ちたプロがどんどん干されていく世界を。

「アイツを喜ばせるステージで俺は倒れるわけにいかない。お前たちは何も知らない。黙っていればいい」

俺は踊れる機会が少ないんだ。『Diana』を今年で終わらせようと思っているから。後輩も居ない。だからメンバーもいない。S1にも出れない。それでも校外でどこかで一つでも多くオレは立ってたい。俺から踊りを取ってしまったら俺には何も残らない。ただ二酸化炭素を生み出すだけの廃棄物になってしまう。だから、鳴上も影片も黙っていてほしい。頼む。あんずにはただ笑ってこのライブを見ていてほしいから、お前たちもライブ立つんだろ?。
頼むよ。鳴上の手を影片の手を掴んで見上げる形になってしまったが。すがるように俺は懇願する。あと何時間かしたらライブが始まるのに。それなのにこんな目の前で取り上げられたら俺卒業までいや卒業してもずっと禍根になる。

「もう、ゆらぎ先輩は…。終わったら絶対にまっすぐ帰ってくださいね?」
「ゆらぎちゃん先輩お願いやから俺らの近くに居ってや。」

じゃなかったらどっかで倒れてもフォローできひんで。近くやでおねがいやで。と困ったように彼らは言う。これから先フラフラの頭もぼやける視界も真っ赤な顔も全部ばれない様に数時間乗り越えるだけだ。と自分に言い聞かせながら二人にはただただ感謝するしかない。
薬を飲んでるんならママが来るまで寝ちゃいなさい。時間が来たら起こしてあげるから今の間に体力回復してちょうだいな。と俺は近くの即席パイプ椅子ベットで最終調整レッスンまでに薬が効けと寝かされるのであった。
最終調整はじまるでー。なんていう影片に起こされて、こっそり容体を聞かれた。薬のおかげで頭はまだぼんやりするが踊れるぐらいに大丈夫だよ。と耳打ちをする。三毛縞がどーした?と聞いてくるのでなんでもないと返事して最終調整が始まる。俺は脚が痛いと伝えて杖を抱いて鏡に背を預けて、全員に指示を飛ばす事に努める。俺?俺ははしっこでいいんだよ。膝も痛いしな。昨日の情報から更新して、仮音が本番の音楽に変わって確認のために一回だけ通して、その後フォーメーション確認に入る。

「そこ、三毛縞ー蓮巳ーそっから後ろが1拍目にそっからあー影片と葵!鳴上ーと羽風ーが3拍目!夏目と仙石4拍目なー!」

ああだこうだといいつつ時間が過ぎて、12時半。飯休憩してから衣装を着替えて最終確認それから会場に移動。と言われたので、ここでようやく一息入れれる。薬はまだ効いてるらしく、多少寒いし頭が痛いが問題なく動ける。もう一回薬を飲みなおせば何とかなるだろう。立ち上がろうとしたが失敗してバランスを崩して落ちる。音を聞きつけて蓮巳が寄ってくる。お前は飯行って来い、犬でも払うかのように蓮巳を追い出して、あーと地面に溶けるように転がる。

「ゆらぎちゃん先輩大丈夫なん?」
「いけるーいけるーとりあえず飯食ってこーい。俺は薬飲んだら寝てる。おやすみー。」

遠くの夏目がなんかいいたげにこっちを見てるので、にらみを利かせておく。アイツは鋭い。黙ってろと念を送りながらも飯よりも俺に必要なのは睡眠だ。とりあえず大人しく寝とくから鳴上も影片も飯行って来いと告げて俺はパイプ椅子にひっくりかえってジャージを被ってとりあえず寝る。ガンガン音量で流れてても問題なく寝れるのは俺が疲労で死にそうだからだと本気で思っている。
隣で誰かが立ってたような気がするが、鳴上か影片だろうと判断して俺は意識だけをぽいっとどっかに捨てた。




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