孤星、はろーはろーあんのうん。 4 





今回は初心に戻らず、俺が『Diana』寄りの衣装になったのは、プロデューサーの手間軽減のためだ。鬼龍に頼んでもよかったんだろうけど、俺の再始動に近い形だからきちんとしたかったのもある。衣装に袖を通して、最終チェックをしていたら控室っていうか俺の事務所に仙石がやってきた。

「ゆらぎ殿、そろそろはじまるでござるよ!」
「そっか、今行く。肩貸して。」
「合点招致!痛み止めは服用したのでござるか?」
「勿論、佐賀美ちゃんところに行ってもらってるよ。」

今日用の靴を履いて、杖は置いていく。仙石の肩に手を置いて、痛む足をひょこひょこしながら歩いていくと、守沢たちが後ろから追い付いてきた。

「青葉、背負っていこうか?」
「いや、いいや。全員で行こうぜ。」
「そうか。お前がそう望むならそうしよう」
「めずらしいですね〜、ゆらぎがあるくなんて」
「ちょっとだけ、お前らに混ぜてもらうんだから、同じ条件にしておこうとおもってな。」
「無理はしないでくださいね、ゆらぎ先輩。」

気を付けまーす。からから笑って、六人で歩く。あの時とおんなじ人数なのに、面子は全部違う。これからもそれがずっと続く。一時の寄る辺。一宿一飯の恩。どれもこれもピンとこないけど、これが俺の歩く道。あいつらともたがえてしまった俺の一つの罰。絆なんて言葉を知らなかった俺が今こうしてるんだから、なんだか不思議な感じ。

「さ、がんばろっか。『HestiaCraft』で一山あてっぞ!」
「天城みたいなことを言うんだな。」
「そうだよ。同い年だし〜。」
「嘘……あの人と同い年?青葉先輩って、一年留年して去年卒業じゃ…」
「あぁ、入学前に一年放浪してたからね!」
「ん?オレ、入学前に社会勉強してたって」

二年生たちが、あれやこれやと言い出す。高校入学前の一年については適当に毎回言ってたので、しょうがないけど、元信者に社会勉強や普通に学校の勉強を教えられてたりしてたので、まぁ、どれもこれも正解なんだよね。まぁその間に宗教の諸々もしてたけど。それは声を大にして言えない。

「一年間、なぁんも知らなかったから。教えて貰ってたんだよ。」
「ゆらぎ殿、その『HestiaCraft』ってどういう由来何でござるか?」
「Hestiaって知ってるか?ギリシャ神話で、炉の神なんだけど。」
「魯?」
「うん、違う。竃のことな。」

古代ギリシアでは炉は家の中心で家庭生活の守護神として崇められた。炉は犠牲を捧げる場所でもあり祭壇・祭祀の神。国に関しては、家庭の延長上にあるとされて国家統合の守護神とされ、各国のヘスティアーの神殿の炉は、国家の重要な会議の場であった。加えて全ての孤児達の保護者であるとされるって。
だから行き場のなくしたやつを拾えたらいいなって思ってたしESビルっていう国の中心で守護神として働くために、ヘスティア。アイドルを守るために作る場所そういう意味で月永の名前も一部借りて仕事してるから、作る場として、クラフトを入れてるんだ。まぁ、皮肉なことに真っ先に俺自身拾ってたよ。『Diana』を潰して、何も残らない青葉ゆらぎを拾ってるんだけど。
笑い話にしてると、南雲が難しく考えてた。

「すごい色々考えってるんっスね。青葉先輩。」
「そうか?俺ちゃらんぽらんだから、毎回その場しのぎで苦労してるけどな。まぁ、人二倍経験豊富になったので、守沢に言えないことあったら俺んところに来ていいぞ。チビども全員な」
「本当っスか!聞きたいことがあるんすよ!」
「あ、拙者も聞きたいことが」
「あの、相談があるんですけど。」
「青葉、俺からその立場を盗らないでくれ」
「……とったつもりはないんだけど。」
「もうすぐつきますよー」

深海の一言に、二年生トリオが返事をしているけど、……守沢お前、地位低くね?何とも言えない守沢の顔を見て見ぬふりをして、ステージ脇に入る。もうすぐで始まるなぁと思い馳せて、仙石に礼をいっておく。

「帰りもまたいってくれるといいでござるからな!」
「おう。」

頭をぐちゃっと撫でてから、俺は近くの椅子に座る。なんだか久々のライブでドキドキしてる。『盂蘭盆会』でも『MDM』でもほんの少しだけしかしてないのだ。今回だけの楽曲、今回だけの編成、今回だけの。一回ぽっきり。このためだけの。そう思うと、なんだか切なくなるけど、その度俺の横には誰かいる。ドリフェスの規定の延長戦だから確実にそうなる。どこか泣きそうになるのはどうしてなんだろうか。目がしらが熱くなるのを見て見ぬふりをして舞台の方を見る。俺たちの前を踊るどこかのユニットに、過去の自分がかぶさって見えた。道をたがえなかったら、俺たちはあそこでおどっていたのかもしれない。
そんなことが頭の中を通り過ぎた。どこか、泣きそうになる俺を置いて言った気もする。舞台をぼうっと見つめていると、高峯が呼びに来た。

「青葉先輩、そろそろ始まりますよ。」
「……あぁ、わかってる。」
「どうかしましたか?」
「ううん、過去の自分を葬ってた。」
「どういうことですか?」
「いいや、なんでもないよ。忘れてくれよ。根無し草の話だ。」

立つから手を貸して。それだけ助けてもらって、俺は歩く。痛み止めが聞いててフワフワしてる。さぁ、行くぞ。と声をかけて、ステージに立つ。最初に俺が踊ってるけど、流星隊の応援があって、もっと輝ける。そういう構成にしてるので、最初は俺だけ。『Diana』の楽曲でもないのが少し寂しいけれど、これはこれで楽しい未来になるのだろう。ヒールを一つ鳴らせば、照明がつく。一人でアカペラで歌ってて、途中で流星隊が入って音が乗る。それで俺も元気になって、そんなストーリーが入る。

「俺がこうしてるから、風早も頑張れる土壌もあるんだろうね。」

ちらりと視線を動かせば、天祥院が満足そうに頷いていた。宣言しろってことかな、っていう風にも取れる笑みは、何とも言えない。それでも、今が楽しい、ライブが楽しい。今がとてもいい。そう思ってしまうのは俺の性。楽しくて仕方ない。俺は本当に赤い靴だけしか持ってないんだよな、なんて思いながら踊っていると流星隊がやってきた。俺の周りを忍が踊り、それに合わせて俺も動いていくと、流星隊の歌が始まる。
俺のパートはないけれど、踊ってていいと言われるので、俺も並んでポーズを決めたりして楽しんで、スポットライトを浴びる。体中から楽しいが零れ落ちる。あふれて仕方ない。雄たけびを上げると観客が反応する。楽しさがフワフワしてる気がして仕方ないけれども、オフマイクで守沢が声をかけてきた。

「青葉、楽しそうだな!」
「楽しいよ、ライブは。」
「残り時間六人でやってくぞ!!ほら、仙石!!一緒に飛ぶぞ!」
「え?ゆらぎ殿、膝」
「いいのいいの。気分がいいから」

カラカラ笑って観客を煽る。しょっぱなからハイペースでぶっ飛ばしすぎって年下トリオに怒られました。いいじゃん!なぁ、久々のライブだからフルスロットルでやっちゃうの!

終わった瞬間に呆れられたのは言うまでもない。



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