■ 心にもないことを言ってみせたり

私がそれを知ったのは王の間の隅で片付けものをしていた時でした。私が立つ場所は衝立や本棚に囲まれて、整理と清掃をしていて人がいると言うことすら分かりにくい場所で、雑多な資料などが置かれたここに人は来ることは滅多にありません。私だけがいる王の間はガチャリと開き誰かの話し声がしたのです。

「クカカカ、つまり俺はミシディアを担当することになった。」
「計画はおありですか?」

声色だけで、陛下と近衛兵長のベイガンだと解りましたが、どこか違和感を感じました。バロンの王がどうしてミシディアなんていう単語が出てくるのでしょうか。そして、陛下がミシディアを担当、とは、いったい?清掃をする手を止めず、聞き耳をたてるつもりではなかったのですが、話声だけが聞こえて、違和感の正体に気がついたのです。匂いが違ったのでした。
清らかな匂いがする王の間に、違う匂いがしたのです。汗や泥などの臭いでなく、微かな獣の臭さと清らかでない水の匂い。痛んだ水のような酸いた匂いが鼻をついたのです。
違和感に動揺して足元の箱を蹴ってしまい、私は転んでしまいました。柔かな布の敷かれた部屋であるにも関わらず大きな音をたててしまい、ベイガンが誰だ!と声を荒らげていました。ここは部屋の端にある小さな置き場なだけで側仕えなら誰でも入れる場所なのですから。
カチリと剣を抜く音が聞こえたので素直に私は頭を低くして貴族に対する姿勢を見せて、平に平に謝るのでした。

「申し訳ございません。大きな音を立て粗相をしてしまいました。」
「王の御前であると知りながら…!」
「よいでないか、ベイガン」

面を上げよ。と陛下が仰ったので、顔をあげればベイガンの背後の陛下は酷く愉快そうに笑いながら、ニタリと笑うのでした。誰にも言うなよ、言えば…わかるよな?。と厳命を敷くように言えば、私は解りました。と返事を返して、道具を抱えて王の間から飛び出したのでした。
違和感が答えとして現れたのです。陛下は変わられました。それは、あの匂いが教えてくれました。あれは獣の匂い。魔物の匂いだと。取り柄の鼻がそう告げるのです。
混乱のなか、私は部屋に戻るために全速力でかけていましたが、その移動の最中に彼が追いかけて走り抜ける私の腕をつかみました。
パニックになる私に彼は俺だ。という、その聞き慣れた声に私は嬉しくなるのですが、先程うけた違和感が私の気持ちすらをすべて押し下げるのでした。

「どうかしたのか?様子が可笑しいぞ?」

心配そうな彼の声を聞くのはひさしぶりで、嬉しいのですが。先程のことをただ、言えばもしかすると彼らにまで影響力があるならば、彼らまで処刑されてしまうかもしれないのですから、迂闊なことは私からは申し上げることは出来ません。ですから、私はなにも代わりはない。とお伝え申し上げると、じろりも彼の青い目がこちらを見ました。居心地の悪いなんとも言えない青に身動ぎしながら、私はほんとになにもない。陛下という理由をたちに逃げだすかの如く走り去ろうとしましたが、いかんせん彼らはよく気がつくので下手くそな嘘は言えません。

「放っておいてください。」

そういうところは私、昔から嫌いです。私より年下であるのに、すべてを、悟ったような顔をして、私の何を存じてるのですか?二や三を存じているだけで、すべてを、知った顔をしないでください。
捕まれた腕すら振り払い私は走るのです。
きっとすべてを彼に申し上げるのは安易ですが、彼らが処刑されてしまうのは嫌で、迂闊なことは口には出来ません。嘘でごまかしても彼らは真実にたどり着くのならば、私はこの気持ちすらをすべて切り離して、伸ばされかけている手も離すべきなのだと、思うのです。
私の言葉は真逆の言葉がポロポロポロポロ溢れ出る。心にもないことをいって見せる。私をどうか軽蔑してください。嫌いになってくださいと居もしない神様に祈りながら、相反する、どうして私の口とは真逆のことを言うのでしょうか。という気持ちを隠しながら
心が引き裂かれそうなほど苦しいのです。

オセロ
心にもないことを言ってみせたり


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