事の起こり

 軍の中央機関である白薔薇の館と対を成すように存在する黒薔薇の館、そこがカグラの仕事場であった。

「カグラ大佐。いったいいつまでほっつき歩いてんですかあなたは・・・」

 そう言ってカグラを出迎えたのはカグラの補佐をしている大尉のエルゼ・クラウスであった。クリーム色の髪に茶眼という一見優しげな雰囲気を感じるが、青いフレームの眼鏡が彼のきまじめさと意志の強さを表していた。

「クラウス大尉。いつもすまないね。私の代理ばかりさせて」

 クラウスの眉間の皺が眼に入らないのか、カグラは悪びれた様子もなくそう言うと、飄々と自分の席に着いた。
 そしてクラウスの眉間の皺はさらに深く刻まれるのであった。

「・・ユラ。お前いい加減クラウス大尉虐めんの止めとけよ」

 そう言って応接間のソファーから顔を上げたのはカグラと同期である黒髪青眼の美青年、ジゼル・バルトル中佐であった。

「虐めるだなんて人聞きの悪い。私はこれでもクラウス大尉のことは気に入っているんだよ」

 カグラはいつものふふふっという笑みを浮かべながらバルトルに返した。



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