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 ジルが帝軍の入試を受けている頃、カグラは屋敷の自室のソファーで愁いていた。

「・・ジル君・・・」

 そんなカグラの様子を見て、ヨーゼフは苦笑を浮かべるのだった。

「ユラ様、ジル様なら大丈夫ですよ。それに、花は渡せたのでしょう。それなら何の心配もありません」

 ヨーゼフはジルが来てからというもの、今まで見たことのないカグラの一面をたくさん見ていることに少なからず喜びを感じていた。
 カグラ自身もまた、そんな自分に戸惑いつつも悪い気はしないと思っていたのだった。

「ユラ様、御心配そうなところ申し訳ないのですが、男爵様から早文が来ております」

 そう言ってヨーゼフは、エリーダ家の家門が施された手紙を差し出した。

「父から?こんな時に何だというんだ・・・」

 この国ルーベルは近隣諸国に比べると比較的豊かな国であるが、電話回線などの受容は都心部や一部の場所に限られていたため、まだまだ手紙が主な伝達手段であった。

 内容を見たカグラは、忘れていたとばかりに顔を手で覆った。

「ヨーゼフ・・マルクスは今年いくつになる・・・」

 いったいいきなり何の話しだろうと思いながらも、ヨーゼフはカグラの義弟であるマルクスの歳を思い浮かべた。

「マルクス様は今年で16歳になられると思いますが・・・っ」

「そうだヨーゼフ。マルクスも今年16歳なのだよ」

 ヨーゼフは一瞬はっとしたものの、いつもの調子に戻り、口を開いた。

「ですが、確かマルクス様はエリーダ家を継がれる身ですので、政事の勉強やジェントルとしての心構えを、男爵様から教えを請うためにも、領地から一番近い学校に通われるとおっしゃっていたのでは・・・」

 ヨーゼフの言葉にカグラは確かにそうだったな。と頷きながら口を開いた。

「どうやら、マルクス自身は帝軍に入りたかったらしい。確かにマルクスの学力なら一番相応しいだろうしな。父や義母を納得させるためにも、ここ数年政事の勉強に力をいれ、領地改革にも積極的に参加していたようだ」

「つまり、マルクス様も今帝軍で入試を受けられているということですか」

 カグラはソファのひじ掛けにもたれながら、ヨーゼフから窓の外に視線を向けた。

「困ったね。ジル君のことを両親に伝えていなかったから、もちろんマルクスだって知らないわけだろう。あの子は昔から私に懐いていたからね。さしずめ今回帝軍に入りたかったのも私の母校だからかな」

 カグラはそう言うと、先程よりさらに困った表情を浮かべるのだった。



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