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 ジルのために執事のヨーゼフが馬車を用意してくれていた。

「ヨーゼフありがとう」

 そんなヨーゼフにジルは心からの感謝を示した。

「今日はジル様の頑張り時ですからね。私は祈る事しかできないですから、これくらいさせて下さい」

 ヨーゼフは、ジルにかつて同じように帝軍を受けた自分の主、つまりカグラを重ね合わせていた。もちろんそんなことをジルは知らない、カグラも今でこそあのように開き直った飄々とした風体であるが、青臭い少年時代があったのだ。そんなカグラの今を作ったものが帝軍での三年間であった。
 帝軍での三年間を経たカグラを見てヨーゼフは思ったものだった。
 ああ、あの少年は青年期を経て大きくなったのだと、それはヨーゼフが知っている少年であると同時に別人のようにも感じて、ヨーゼフは戸惑いはしたものの、頼りがいのある自分の使えるにたる青年に成長したカグラに着いていこうと、そう決心したのだった。
 そして今、そんな主の子息たるジルが主と同じ道を歩もうとしているということに、ヨーゼフは少しの寂しさと同時に、立派に成長されるだろうという期待を胸に抱いていたのだった。

「そういえば、ユラさんはどうしたの?朝から姿が見えなかったけど」

 いつもならばジルが起きている頃でもまだ寝ているカグラが、今日は朝起きた時には姿がなかったのだ。

「ユラ様でしたら、何やら急用だとかで明朝にお出かけになりましたよ」

 ヨーゼフは苦笑しながらそうジルに返したのだった。


 屋敷はルベリカにあるとはいえ、試験がある帝軍はルベリカの西部にあり屋敷は東部であったため、ジルは長時間馬車に揺られることとなった。

 西部の街に入り、馬車を下りたジルは帝軍に向かっていた。
 帝軍は街のシンボルともいえるほど大きな学校であったため、見つけるのはたやすく、ジルはまだ時間にゆとりがあったため、街を観光しながら帝軍への道のりを歩いていた。

 西部は花の街として有名なだけあってか、花売りをしている子供が眼についた。
 そんな時、眼の前に一人の花売りの少年が現れたのだった。
 少年は無言でジルに一輪の花を渡した。

「・・・・?これは・・・いったい・・」

 ジルは何が何だかわからず少年に問い掛けようと、顔を手元の花から少年の方に向けるともうそこには少年の姿はなかった。

 残ったのは一輪の青いアスター。

 花言葉は信頼。

 それはカグラからのメッセージであった。

「・・・・!」

 ジルは青く晴れた空を仰ぎ見た。

 やっとここまで来たのだ、動機がなんであれ、自分は必ず受からねばならない、自分を支えて来てくれた人々の期待に応えるためにも。

 再度固く決意したジルは、帝軍の門を潜ったのだった。
 
 胸には一輪の花がささっていた。



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