始まりの一歩
ジルがカグラの元に来てからもうすぐ一年が経とうとしていた。
ジルはというと明後日に控えた帝軍の入学試験に向けて、最後の追い込みをしていた。
地方から来る者ならばもう都心であるルベリカに向け出発している頃であるが、ジルはカグラが中央の軍本部勤めなため、町外れではあるが屋敷もルベリカ内にあり、まだ時間にゆとりをもつことができたのであった。
「できるだけユラさんに負担をかけないようにしなきゃな」
ジルはそう呟くとまた机に向かった。
それに能うだけの者がいなければない年もあるという特待枠、それは本当に最難関といわれている。だがジルはそれを狙っていた。特待枠に入れれば高い授業料その他諸々国が補助してくれる事になっている。この一年近くでカグラと本当の家族のようになったとはいっても、そこまで迷惑をかけられないとジルは考えていたのだった。
黒薔薇の館の一室に心此処に在らずな男がいた。
「・・・はあ・・」
カグラは本日何回目ともわからない溜め息をはいていた。隊員達はというと、関わったらおしまいだと日々の経験から察しており、皆机に向かって無言で仕事を片していた。
そしてまたカグラは溜め息をはくのだった。
「・・・ああもういい加減にして下さいカグラ大佐!!」
そんな空気に耐え兼ねて口火をきったのはカグラの補佐であるクラウス大尉である。カグラの隊の良心と陰で哀れまれている彼であるが、カグラに対してしっかりとした強姿勢で向かえる彼を皆頼りにしていた。
「朝からずっと溜め息ばかりはいて、いったいどうしたっていうんですか!?隊長がそんなんじゃ皆の仕事への士気も下がりますから、そのあなたらしくない変な空気を漂わせないで下さい」
クラウスは遠回しに欝陶しいとカグラに告げていた。
そんなクラウスの意図に気付いているのかいないのか、カグラは相変わらずの憂鬱そうな空気を身に纏っていた。
「クラウス大尉。優しい私の補佐官の君ならば、話しを聞いてくれるかい」
クラウスはしまったと思ったが時は既に遅く、カグラの話しを聞く羽目になったのである。
「カグラ大佐・・・私達はまだ職務中だという事をお忘れなく」
カグラの話しを聞き出すと長くなることを分かっていたクラウスは、また残業になりそうだと内心愚痴たのであった。
だがなんだかんだと言いつつもカグラに構ってしまうクラウスはお人よしなのだと隊員達はそんな二人を見ながら思っていた。
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