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 相談事という名のカグラの長話しを聞き始めたクラウスであったが、そこで思わぬ障害に出くわした。もちろん、何食わぬ顔で職務をこなしていた他の隊員達もカグラの口から飛び出した言葉に驚きを隠せずにいた。

「ちょっと待って下さいカグラ大佐!?今何て言いました?」

 聞き間違いだろうかと問いたクラウスの言葉は、その場にいた全員の気持ちを換言していたと言っても過言ではないだろう。

「だから、私の息子が明後日帝軍の入学試験を受けるんだよ」



『×%◎◇#&*□§¥△!!!!』


 ある日の昼下がり、黒薔薇の屋敷の一室から阿鼻叫喚とも言えるほどの隊員達の驚愕の叫びが響いていたと、後に黒薔薇の清掃員である一人の男は語る。

「皆どうしたって言うんだい?」

 一人訳が解らないというようにカグラは首を傾げていた。

「どうしたじゃないですよ!!息子って何の話ですか!?」

 カグラはジルを迎えて一年が経とうとしていたが、その事実を知らせていたのは自分の友人夫婦のみだったということに今さらながら気付いたのだった。

「あー・・・。言ってなかったっけ」
「まったく初耳です」

 隠していたつもりは毛頭なかったカグラであったが、クラウスを含め他の隊員達からも非難の視線を浴びて、居心地悪く眼を泳がせた。

「何ていうかな・・・。まあ、私も一人は寂しくなったということさ」

 その場に居た全員が内心「嘘だ・・・」と思ったのも無理はないだろう。
 カグラはその後、簡略しつつも周りに迫られジルの事を話す羽目になったのであった。

「はあ・・・。何だって皆そんなに気になるかな。上司の家族事情何て聞いても金にならないんだよ」

 そんなカグラを余所に「(あんただからだよ!!)」という視線を隊員達は向けていた。
 ユラ・カグラという男は、カリスマ的存在であると同時に変わり者であると周りから思われていた。もちろんカグラが同性愛者であることは一部のものにしか知られていないことであり、だからこそカグラが独り身でいることに疑問を持つものも多かったが、軍人という職業柄、今は表面上平和が保たれているといっても、この国ルーベルは数多くの国と国境を接していることからいつ何処で戦争が勃発し、召集されるかもわからないという理由と貴族でないカグラにとって、子孫を残し家を継がせなくてはならない等のしがらみがなかったこともあってか、皆一様にそんなカグラのスタイルにとやかく言うものもいなかった。そんな事もあって、カグラが養子とはいえど息子をとったことに驚きと同時に、あのカグラが、という興味が全員に沸き上がったのであった。



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