「大きすぎる期待や好意は、重すぎるんだよ。
怒られるかも、しんねぇけど。
縛られる。未来とか、行動が。
だって、さ。
得たものを手放すのは意外と、」
そこまで言って遊斗は髪を掻きあげ、手の甲で目を覆う。
「キツいんだよ」
「ふぅ〜ん。
…幼なじみとしちゃあ、すごい名誉なことだと思うよ。そこまで慕われてんのはさ。
当事者じゃないから何とも言えんが」
「明。お前はもうちょっと感情移入とか哀れみの心を持て」
それを聞いた幼なじみ、明はぶーっと膨れ、
「だったら遊ちゃんは思いやりってもんを持つべきだね。
この性悪鬼畜魔王」
それを聞き、彼はスバラシイ笑顔を作り上げ、嗤う。
「明ちゃん?夜道は気を
「っごめんごめんなさい!ごめんってマジですみませんっした!!」
…遊斗の笑顔と愉しそうな声を感じたらしい明は土下座とともに謝罪をした。
「まあいいけど。
てゆーか真面目なハナシ、俺はどうすべきなの」
「遊斗の上の人たちはどうしたらいいって?」
「好きにしろ、だと。
有り得ん。少なからずとも売上かかってんのに。
……歌い方変わりゃあ支持してくれる人間も変わんの当たり前だろーが。なあ?」
同意を求めるように振り返った遊斗に、明の指がささり、
「ぶっ!!あははっ遊斗くんナイスだよっ!」
と爆笑した。抱腹絶倒、って感じに。
そして何かが切れる音とともに遊斗によって明の頭がシめられた。
見方によっては頭を抱えられているだけだが。
「あきらぁ?てめっ、ふざけんn
「あのさー、多分遊の上の人らの判断だと――あ、遊に限ってだろうけどね、歌い方がファンの支持に影響を与えるわけがないんだって思ってるんじゃないかな」
「……なんで?」
「そりゃ……人徳じゃん?
遊斗の人柄に惹かれて、だから歌を好きになって。
その順序じゃあファンは簡単には離れられないよね。ってまあそれはそれで複雑だろーけどさ」
遊斗は考え込むように眉間に皺をよせた。
そして俯いたまま、
「――明はどう…?
歌い方変わっても聞きたいって思うか……?」
と訊いた。
「もちろんっ!って言うべきなんだろーけどね…あたしは唄が好きだからさ。
歌い方の変わった遊斗の唄を聞かないことには何ともだね。
応援はもちろんするけど」
「そっか…」
思うところがあったのか、落ち込んだようにそれ以降話さなくなった。
明はそんな遊斗を気にする風でもなく、のほほんと窓から見える空を眺めていた。
「……唄から惚れて、遊の人柄に惚れた人のほうが。
もしかしなくても、多いかもしれないねー」
流れていた穏やかな沈黙を、明はあっさりと破った。
それも、遊斗を勇気づける形で。
雲が一度太陽を隠し、次に世界を照らしたとき
遊斗は明を腕の中に閉じ込めていた。
朱く染まった顔を見られないように。
「――…さんきゅ」
(いえいえ)(、だって遊の笑顔が好きだもん)
――――――
20100502
bkm