「キミが空っぽだって構わないよ。
あたしがキミに世界を見せてあげるから。
あたしが、キミに色を魅せるから。
……だから、そんな悲しいこと言わないで」
『俺には何もないよ。
金だって、生活力だって、やさしさだって賢さだって、心だって、…自分だって。
俺はただ歌うだけだよ。
風の奏でる音を自然が紡ぐ声を、代わりに捧げるんだ。
請け負うことしか能のない、空虚な空っぽな人間なんだ。
――だから、俺なんか想っちゃだめだ』
ただ、否定したくてしたくて堪らなくて。
彼の心なんて気遣う気も暇も余裕もなかった。
あってもきっと、しなかった。
身勝手な彼に対する、ささやかな反抗と主張を。
本気なんだよ。あたしは、これでも。
何の苦労も知らないような日常をただただ過ごしてきたあたしだけどでも、この気持ちに嘘はないんだよ。本気なんだ。
世界を背負う覚悟くらい、してる。
「ねぇ―――なんでそんなに、俺に拘るの?
あんたさ、可愛いんだからもっとマシなオトコ掴まえたほうがいいよ。それとも、同情?
だったら尚更だ。要らない。
俺はそんなもの、求めちゃいない。
俺はそんなにご都合主義じゃない。困ってたら誰かが手を差し伸べてくれる、なんて甘い考え持ったこともない」
そこまで言ってギターを片付け始める。
まるで、もう話は終わった、とでも言うように。
卑怯だ。
あたしをここまで堕としたのはキミなのに。
あたしに新しい世界を魅せたのはキミなのに。
今までの日常じゃ満足できないくらいに酔わせたのは、紛れもないキミなのに。
「……っ、ふざけないでよっ。
あたしの想いを勝手に決め付けてっ、なにかえろうとしてんのっ」
「何。気分が乗らないから今日は止めようとしてるだけなんだけど。
俺の勝手でしょ。
……何泣いてんの」
「ないてないっ」
「あっそ。
で? オジョウサマ、何が気に入らないんで?」
「っあたしは…っ!!
確かにオジョウサマって言われるような生活してきたけど、でもだからって何も知らない女の子じゃない!
キミにとってみればオママゴトぐらいにしか思えないのかもしれないけど、あたしは本気だよ。
キミの世界を背負うくらいの覚悟なら、もうしてる。
キミを宇宙で一番の幸せものにする自信はないけれど、キミの傍にいることであたしは宇宙で一番幸せになれるって確信してる」
呆気にとられた彼を見据えて、想いを込める。
「―――ねぇ、知ってた?
幸せって、伝染するんだよ」
一瞬呆然として、そして呆れたように笑った彼に、
とびっきりのはじけるような、笑みを。
(仕方ねぇな)(、そう笑ったキミの表情は)(世界で一番、鮮やかだった)
―――――――
2010.05.04.
bkm