あの後、エアリスのところに戻ったあたしたちは、ムギたちの秘密基地でのトラブルを解消した。
子供たちからはすっかり人気者で「すごい、すごい」と褒められっぱなしのクラウドは終始押されっぱなしだった。
きっとこの子たちにとって、助けに来てくれたクラウドはヒーローで憧れの存在。
子供が苦手でどう対応したらいいのか、時々あたしに眉間のシワを強めて視線を送ってきた。
その姿がなんだか可愛くて子供たちと一緒になってはしゃげば、ますます眉間のシワは強くなる。
最後には「勘弁してくれ」とため息を吐くから、あたしは余計に楽しくて仕方なかった。

秘密基地に戻り、ムギの提案で伍番街で困っている人たちからの依頼を受けることになり、クラウドは出張でのなんでも屋をすることになった。
最初は少しめんどくさそうにしていたクラウドだったけど、楽しそうにしているエアリスのペースに巻き込まれ、今は次々と依頼を片付けているところ。

あたしはその間、店長と約束していた通り、カフェの仕事をすることにした。
さっきよりも客足は減ったものの、やっぱり魔晄炉爆破の影響で電車に乗れない人たちで、いつも以上に賑わっている。
近くの大型ビジョンからは、続報が流れてきていて、みんなそのニュースを聞きながら、色々な不安や怒りを口にしていた。

「なまえ、お待たせ」
「2人ともお疲れ様。お店も落ち着いたから、もう少しで上がれるんだけど、何か飲んでいく?」

お店も一段落したタイミングで、依頼を終えたらしいクラウドとエアリスが迎えにきてくれた。
あたしは2人を空いてる席に案内して、珈琲を持ってくる。

「依頼はどうだった?」
「どうってことない」
「さすがだね」

あたしがそう言うと、クラウドは少し得意げな表情を浮かべて、差し出した珈琲を口にする。
もう少し話していたかったけど、あたしはお客さんに呼ばれてしまったので、2人にゆっくりするように告げると、注文を取りに呼ばれたお客さんのところに向かった。

さっき、少し様子がおかしかったクラウドだったけど、今は特になんでもないようで安心する。
怯えるような表情で、まるで迷子のように不安げに瞳を揺らしていた。
そっと手を握れば、震える手で握り返して言葉を選ぶように告げたセフィロスのこと。
生きているかもしれないーーーその言葉に、あの日のことがフラッシュバックし、恐怖と怒り、悲しみと色んな感情と共に思い出される。

それと同時に思ったのは、どうしてクラウドや他の人たちの憧れていた気持ちを裏切る真似をしてしまったんだろうと、それが悔しくてたまらなかったのだ。
何か事情があるにせよ、あの瞬間にはもう、クラウドが憧れていた"英雄"ではなくなってしまったのだから。



ーーーーーーーーーー



仕事を終えたあたしは、クラウドたちと一緒にエアリス宅へ戻る。
その途中、あたしはエルミナさんへ渡すものを預かっていたのを思い出し、2人には先に戻って貰った。

エアリスの家に向かうと、クラウドが少し難しい顔をしていて、エアリスも不思議そうな顔をしていた。
何かがあったことは明白で、とてもじゃないけど聞ける雰囲気でもなく。
その違和感を抱えたまま、エルミナさんの夕食をご馳走になった。

「ごちそうさまでした。エルミナさん、ご飯すっごく美味しかったです!」
「そりゃ良かった。なまえ、この後はどうするんだい?家に泊まって行くかい?」
「今日は家に帰ります。この後、依頼のこととか整理したいので…」
「じゃあクラウド、家まで送ってあげてよ。帰り道、真っ暗だから」
「あぁ」
「え?大丈夫だよ!あたしの家、リーフハウスの近くだし、ここからだってすっごく近いんだよ?クラウドも今日は疲れたでしょ?」
「それでも心配。またレノが来たらどうするの?なまえのところ、よく来てたでしょ?」

食後の紅茶を頂きながら、まったりしている内にどんどん話は進んでいく。
昼間のこともあり、エアリスだけではなくエルミナさんまで心配していて、とてもじゃないけど断る雰囲気ではなくなってしまった。
「大丈夫だよ」と告げたあたしの言葉には、もう誰も耳を貸してくれそうにない。
選択肢はクラウドに送って貰う以外なくて、嬉しい反面、申し訳ない思いで一杯だった。

「行くぞ」
「うん。エルミナさん、ありがとうございました!エアリス、またね。おやすみなさい」

扉を開けて待つクラウドに続いて、2人に挨拶をして外に出る。
空を見上げるとたくさんの星が煌めいていて、思わず息を飲む。
それと同時に、あの日、給水塔に呼び出された日のことを思い出した。
きっと、クラウドは覚えていないだろうけど…それでも、あたしにとっては大切な思い出だった。

「…なまえ」
「ん?」
「俺は今夜、七番街スラムに行く」
「今夜?でも明日の朝、エアリスが送ってくれるって…」
「…出来れば、早く帰りたいんだ…」
「そうだよね。ティファが心配だもんね」
「……あぁ」

そう短く返事したクラウドに笑顔で答える。
クラウドとお別れなのは寂しかったけど、無事なことも確認できたし、居場所がわかったのも良かった。
七番街スラムに行けば、いつでも2人には会えるんだもん。
依頼の合間に、時間を見つけて会いに行けばいい。

「近い内、会いに行くね」
「そのことなんだが…なまえも一緒に来てくれないか?」
「え?」
「ここに居ては危険だ。タークスに狙われてるんだろ?出来ることなら、傍に居て護りたい」

真剣な瞳で、そう告げてくれたクラウドの瞳に射抜かれたように固まってしまう。
うまく言葉が出てこなくて、心臓が痛いくらいだった。
その間、クラウドはあたしのことをじっと見つめていて、段々と不安げに瞳が揺れる。
綺麗な虹彩を放つ魔晄の瞳に吸い込まれそうになりつつ、あたしはなるべく冷静を装いながら頷くと、クラウドも嬉しそうに頷いた。

「あとで迎えにくる。準備して待っていてくれ」

家まで着くと、クラウドはあたしの頭を撫でて からエアリスの家へと戻っていく。
久しぶりに再会したクラウドは、こうやって無意識にあたしの心をかき乱していき、なんだか昔より厄介になっているような気がする。
フラフラとベッドに寝転び、熱を持つ頬を両手で包み込み早く熱が引かないかと思いながらも、先ほどのことを思い出すとむず痒くなり、思わず叫び声を上げてしまいそうになる。

「…それでも、クラウドはティファが好きなんだよね…」

そうやって、思わず呟いた言葉が自身を傷つける。
クラウドは昔から優しくて、それがうまく周りには伝わらないから誤解されて、意地を張ってしまう彼は喧嘩ばかりで。
よく怪我の手当てをしながら、ずっと不貞腐れた顔をしたクラウドのことを心配しながら、どうして喧嘩ばかりしていたんだろうって不思議に思ってたっけ。
怪我の手当てはあたしで、ティファの前ではカッコつけて「大丈夫だ」って口にしてーーーそんなことを思い出して懐かしくなる。

ティファに会ったら無事を確認して、そんな話をしながらのんびりと過ごしたいな。
それから、クラウドと再会してからのこと確認したい。

ティファと再会したとき、クラウドは魔晄中毒から解放されていたのかな?
あたしはあの後別れてから、クラウドがどうやってミッドガルに辿り着いたか…本当は聞きたいことが山ほどあったけど、怖くて聞けていない。

きっと、ティファとクラウドが一緒にいる姿を見て勝手に傷付いてしまうだろうけど、それでもやっぱり大切で大好きな幼馴染には会いたい。
結局、あたしは自分で幸せにしたいと思うよりも、大切な人たちが笑い合って幸せにしている方がよっぽど嬉しいんだと思う。
どこかで、やっぱり自分に自信がない。

「…準備しなきゃ。クラウドが迎えに来てくれるまで、すこし仮眠も取っておかなきゃ」

依頼のことを整理しながら、アイテムやマテリアの確認をして眠りにつく。
色んなことがあって、少し疲れていたようですぐに夢の世界へと誘われる。

夢の中で誰かが呼んでいたけど、その声に応える余裕は、今はなかった。



アナタと共に

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