「お前、何?」
「わたしとなまえのボディーガード。ソルジャーなの」
「え?」
「ボディーガードも仕事のうちでしょ?ね、なんでも屋さんでしょ?わたしのカン当たるの」

「そうなの?」とクラウドに聞くと「あぁ」と短く返事をする。
七番街でやってるのかな?ましてやソルジャーなんてーーーそんなこと考えてると視線を感じ顔を上げる。
レノがあたしの方を見てる、と言うよりも睨んでると言う方が正しい。
確かに逃げ出した経緯はあるけど、それは副社長との賭けに勝ったからだし、睨まれるようなこと何もしてない。

「おい、なまえ。お前のボディーガードは俺だろうが!」
「え?あ、それは…と、とにかく!ボディーガードは必要ないから、今日は兵士さんたち連れて帰って!」
「いーや。他の男と契約すんなら話は別だぞ、と」
「言い方…」

帰ってくれる気のないレノにため息が出る。
少し意地の悪い言い方をするのも、相変わらずだ。

あの日、賭けに勝ってからは本当に平穏で、エアリスの元を訪れたレノと偶然再会してもそれは変わらなかった。
慌てたあたしに、レノは連れて帰るつもりがないことや、あたしの居場所については報告しないと約束してくれて、ここに来るのもいつも1人だった。

でも、今日は兵士を連れてくるぐらいだし、本格的に連れて行くつもりなのかもしれない。
友達だって勝手に思ってたけど、やっぱり向こうはそのつもりはなかったみたい。
詳しい事情は聞いてないけど、きっとエアリスもタークスの保護下。
なんとか、エアリスだけでも逃せないかなぁ、なんて考えていると、腕を引っ張られてた。

「明日以降も必要ない」
「ぁあ?」
「エアリス。依頼は受ける。ただし安くはない」

視界が突然暗くなり、頬と肩に感じる熱にクラクラする。
そこで初めて肩を抱かれ、抱き締められていることに気付いてしまった。
小さい頃とは違う鍛えられた腕に心臓の音が跳ね上がる。
気付いてしまうと、あの頃とは何もかもが違うクラウドの存在を意識して、更に心拍数が上がるようだ。
他意はないんだと、平常心をと言い聞かせてはみるものの、突然の出来事に脳内処理が追い付かない。

「やったぁ!じゃあね、デート1回。もちろん、なまえとね」

顔は見えないけど、満面の笑みを浮かべているだろう声色で話すエアリスに対して、ぐっと肩を掴んでるクラウドの手に力が入る。
こんなふざけた報酬なんて、とでも思っているんだろうけど、エアリス相手に言い返せないんだろう。
どうせなら、エアリスやティファの方がよっぽどご褒美になるだろうに…報酬、変更してあげなきゃ。
どちらかと言えば、報酬になっちゃうのはあたしの方だもん。

「これ以上ないご褒美でしょ?だって、なまえのこと、大事みたいだし」

エアリスの言葉であたしを抱きしめていたことに気付いたのか、慌てたクラウドが身体を離し「すまない」とだけ告げて顔を逸らす。
確かに、突然のことに驚いたしドキドキはしたけど、そこまで気にしなくてもと思ってクラウドの方を見上げると、照れているのか耳が赤くなっている。
少しだけ、昔と変わらない反応に微笑ましくなっていると、クラウドに気付かれて睨まれてしまう。
「笑うな」と怒られてしまったけど、それでも、照れてるのがあたしだけじゃないってことがわかっただけ嬉しい。

「お前、クラスは?」
「1st」

そう言うとレノが笑い、クラウドはエアリスと一緒に下がっているように告げると、バスターソードを構えた。
兵士たちを呼び、クラウドへの攻撃を指示すると、自分は柱の上へと登り、高みの見物を決め込んだ。
おそらく、クラウドの実力を測ろうとしているんだと思うけど、兵士たちは簡単に倒されてしまい、すぐに増援を呼ぶ羽目となった。

あたしはエアリスを後ろに庇いつつ、兵士やレノを警戒する。
レノはあたしの視線に気付いたらしく、そこで余裕な笑みを浮かべていたかと思えば、あっという間にあたしの目の前に降り立ち、腕を掴んだ。

至近距離で、レノの香水の香りに包まれると、少し前まで居たあの部屋を思い出す。
毎日来るレノの香水が残り香のように、ほんのりあの部屋の匂いになっていたことに、あの頃は気付かなかったけど。

「なまえ」
「きゃ、何?」
「…良かったな。無事で」

抱き寄せられて、耳元で囁くように告げる。
それがクラウドのことを言ってるのは明らかだった。
だが、返事する間も無く、掴まれた腕の感覚はなくなり、目の前にはクラウドがいた。
クラウドの優しい香りが、レノの香水の香りと混ざり合い、少しクラクラする。

「なまえに触れるな!」
「あ?だからお前、なまえの何?」
「ボディーガード」
「…あっそ。じゃあ、どっちがなまえに相応しいか勝負しようじゃねぇーか!」



ーーーーーーーーーー



「勝負あったな」
「クソっ…」
「待って、クラウド!」

そう言って、クラウドは倒れるレノへバスターソードを突きつける。
そして振り下ろそうとしたので、慌てて腕を掴むと不機嫌そうに眉を寄せる。
仕掛けてきたのは確かにレノたちだけど、と事情を説明しようとしたその瞬間ーーー突然現れた黒いローブたちがあたしたちを持ち上げ、教会の奥へと連れて行った。
ばたん、と扉が閉まり、塞ぐように立ちはだかるも、警戒したあたしたちを襲うことはなかった。

「襲って、こないね」
「あぁ」

ふよふよと漂い、こちらの様子を見ているだけの 存在は正直不気味だった。
黒いローブたちの出方を窺っていると、扉の向こうから聞こえる兵士たちの声が聞こえ、顔を見合わせる。
ひとまず、逃げることが最優先だと思ったのはみんな同じみたいで、エアリスの案内で教会を脱出するため、上を目指した。



ーーーーーーーーーー



屋根裏に逃げ込んだあたしたちを、レノたちはこれ以上追ってくることはなかった。
下を見ると諦めてくれたのか、教会を出ていく姿が見える。
レノは怪我が酷いのか、兵士の肩を借りて出ていくのを見ながら、先程の表情を思い出した。

屋根裏に登る前のこと。
安全を確認するため、辛うじて残っていた床をクラウドが先に進み、続いてエアリスが渡っていた時に兵士たちに扉を破られてしまった。
あたしたちに気付いた兵士がこちらに銃を構えたので、あたしは慌ててエアリスをクラウドの方に押したことでバランスを崩し、下に落ちてしまった。

上を見ると、クラウドがエアリスを抱きとめ渡り切った所が確認できた。
安心するのも束の間、黒いローブに囲まれ、目の前には兵士が銃を構えている。
絶体絶命のピンチにクラウドの呼ぶ声がして、少しだけ安心する。
レノも、きっと説得すればわかってくれるかもしれない。
そんな、淡い期待を抱きながら双剣に手をかけ、いつでも戦える準備をする。

「銃を下ろせ」
「しかし!」
「銃を下ろせって言ってんだ。お前、誰に銃を向けてんのか、本当にわかってのか?」

ビリっとした空気が流れ、怯えた兵士は慌ててじ銃を下ろしてレノに詫びた。
思わず後ずさるあたしに、レノは怪我の痛みを押して、一歩あたしに近付くと手を差し伸べた。
黒いローブは彼には見えてないらしく、これ以上近付けないことに首を傾げつつ、あたしに向かって微笑んだ。

「なまえ。帰るぞ、と」
「…賭けは?あたし、勝ったよ」
「あぁ。そうだな。だがな、こうなったらバレるのも時間の問題だぞ、と。俺がちゃんと護ってやるから…だから、」
「なまえ!」

がしゃん、と音がしてシャンデリアが上から落ちてくる。
クラウドがあたしを呼び、その隙に階段を駆け上がる。
「なまえ!」と名前を呼ばれて振り返ると、レノはなんだか泣きそうな顔をしていて、結局どうすることもできなかったあたしは「ごめんね」と伝えることしか出来なかった。



ボディーガード

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