それから、お花の手入れを終えたあたしたちは、エアリスの案内で伍番街スラムにやってきた。
聞いていたスラムの印象とは違い、人々は活気に溢れていて、とてもじゃないけど治安が悪いようには思えなかった。
スラムに足を踏み入れると、エアリスは色んな人たちに声をかけられて、笑顔で対応して。
なんとなく、エアリスの存在がスラムを明るくしているんじゃないかって思えた。

「じゃーん。ここが、わたしの家」
「すごい!お花がいっぱい!エアリスの家こそ、おとぎ話の中みたい」

目の前に広がるたくさんの、色とりどりのお花たち。
教会のお花畑もすごい綺麗だったけど、ここは本当におとぎ話の中にいるみたいだった。
奥には大きな滝が流れ、澄み切った綺麗な水の中にはお魚も泳いでいる。

「あとで、案内してあげるね。まずは、なまえのお腹、満たさなきゃね」

いたずらに笑ったエアリスに「もー!」とわざとらしく怒ると「ごめん、ごめん」と家の扉を開けて、中に入るように促した。
エアリスは中に入ると母親であるエルミナさんにあたしを紹介し、事情を説明してくれた。
得体の知れないあたしに、食事をご馳走してくれただけでもありがたいのに、エルミナさんは「いつまでもいてくれて構わないよ」と言ってくれた。
その笑った顔が、ニブルヘイムの両親と重なり胸が温かくなった。



ーーーーーーーーーー



あれから、伍番街スラムでの暮らしは順調だった。
今は生活費もだいぶ貯まってので、エアリスの家を出てリーフハウス近くにあった空き部屋を借りている。

仕事は主にカフェで働きながら、お客さんからの困り事を解決しながら生活している。
と言っても、そんな大袈裟なことはしてなくて、例えば駅までの道とか、教会付近に出るモンスターを退治したり、近くのスラムへ配達をしたり、そんな簡単なお仕事。
エアリスがプレートの上にお花を売りに行くお手伝いもたまにしている。
モンスターが出る道を行くのが心配なのもあるけど、エアリスの「ミッドガルをお花でいっぱい大作戦」を手伝いたかったからだ。

「昔ね、そんな話をした人がいたんだ。本物のお花って珍しくて高級品だから、売れば大金持ちになれるって…わたし、そんなこと考えたこともなくて、ミッドガルがお花でいっぱいになったら、嬉しいなって思って。それから、お花売りに行ってるんだ」
「面白いこと言う人だね。でも、ミッドガルがお花でいっぱいになったら、あたしも幸せだなぁ」
「うん。本当だね…」

そう言って遠くを見つめるエアリスの瞳は儚くて、これ以上は何も聞けなかった。
なんとなくだったけど、これを助言したのがザックスだったんじゃないかって、そう思ったからだ。
この話をしていたエアリスは、懐かしそうに、それでいて相手のことを愛おしそうにしていて。
ザックスと一緒に来れなかったことが、悔しくてたまらなかった。

あの日ーーー"彼女"からの助言を受けてから、あの力は発動していない。
だから、クラウドたちの無事をみることも出来ず、未だ情報も得られず不安ばかりが募る。

"彼女"は確かにまた会えると、犠牲じゃないと言ってくれた。
それがいつなのかはわからず、あの時、ちゃんと確認しておけば良かったと後悔した。

そもそも、力の発動条件がわからないので、どうしようもない。
色々と試してみてるけど、どれも条件には当てはまらないらしく、途方に暮れていた。

あれ以来、"彼女"も姿を見せないし確認しようがないけど、会えたとしても発動条件を教えてくれるかは微妙だと思う。
こちらも聞かなかったけど、教えるチャンスはいくらでもあったのに、それでも教えてくれなかったところをみると、きっと"彼女"にとっては今じゃないんだと思う。

「なまえ、今日のお花売り八番街に行こうと思ってるんだけど、一緒に来る?」
「行きたいところだけど、今日は届け物の依頼が入ってて…七番街スラムとウォールマーケットに行かなきゃ行けないんだ。ごめんね」
「そっか、残念」
「気をつけて行ってきてね。プレート上だからある程度安全だと思うけど、モンスターとかもいるだろうし」
「それは、こっちのセリフ。ウォールマーケットに行くなんて、心配」

そう言って、腰に手を当てて頬を膨らませる。
そんなエアリスに笑って「大丈夫だよ」と告げる。



ーーーその夜に壱番魔晄炉が爆発し、街中が炎に包まれるなんてこと、この時は思いもしなかった。



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