「…ん、」

目を覚ますと、さっきいた場所とは違う区画の列車倉庫のようだった。
どれだけ気を失っていたかはわからないけど、たぶん、そんなに時間は経ってないと思う。
支柱が落ちば、ここだって危ういはず。
ゴーストたちの効果とかがあるなら話は別だけど、おそらく大丈夫だと思い辺りを見回しながら、ティファが言ってた言葉を思い出した。


ーーー列車墓場にはオバケが出るって。夜の列車墓場に迷い込むと二度と戻ってこられなくなるんだって。


あの黒い霧がそうなのだろうか。
よくある怖い話だって思っていたのに、モンスターが関わっているなら、現実となるのかもしれない。

「…あれ、さっきの子?」

エアリスが見つけた泣いてるゴースト。
そう言えば、あの子だけはずっとあたし達に味方してくれてたような気がする。
言葉はわからないけど、あたしに寄り添うように周りを飛ぶと、ふわりと舞ってから消えると他のゴーストたちが集まってくる。

あぁ、もしかしたらあたしも閉じ込められちゃうのかな。
そんな不安を悟ったのか、黒い霧のようなものが周囲に浮かび幻覚が見える。
ううん。幻覚なんかじゃない。

「あれは…あたし?」

泣いてる女の子がいた。

そうだ。
違う世界にワープしてしまったとき、あたしの記憶はなくなっていた。
親切にしてくれた施設の人や引き取ってくれた優しい両親がいたけど、「1人ぼっち」だって思うことがたまにあって。
隠れて泣いて、夢の中に出てきたクラウドやティファに会いたくて、でも会いたい人の名前もわからないから不安でいっぱいだった。

でも、そんなことで両親を悲しませたくないから、泣いてることは悟られないように。
もう子供じゃないんだって、大丈夫って言い聞かせてた。

そのうちに、夢の中のクラウドがティファと2人だけで笑うようになって、それが凄く寂しかった。
どこか遠くに行ってしまう2人の後ろ姿に手を伸ばすけど、絶対に届かない。
走っても走っても追いつけなくて、気が付けばどんどん遠くに行って見えなくなってしまう。

「置いて、いかないで」

そう、置いていかないで。
あたしも傍にいたいのに。

でも、なんでそう思うのかわからないまま、名前も知らない2人を必死に追い掛けた。
その内見なくなった夢に、この感情も一緒に忘れていた。

思い出したくなんてなかった。
このままここに閉じ込められて、皆に会えなくなったらどうしよう。
もう2度と"アナタ"に会えなくなったらーーー

「なまえ!」

名前を呼ばれ、抱きしめられた。
痛いくらい、強く。
呼吸が乱れ、慌てた様子であたしの名を呼ぶ。
たったそれだけのことなのに、すっと不安がなくなった。

「クラ、ウド…」
「頼むから、俺から離れないでくれ」
「ごめん、なさい…ありがとう」

少し怒ったような声色でそう言った。
あたしの手を取って立ち上がらせると、背に庇いながら何かを警戒するように武器を構える。
あたしも武器を構えようと急いで涙を拭うと、両肩をポンと優しく叩かれる。
振り返るとティファとエアリスがいて、微笑んだ2人の顔を見て安心した。

「クラウドが一番慌ててた」
「ね。あ、無茶したことはわたしも怒ってるからね、なまえ」
「ほーんと。なまえは昔から無茶ばっかり」
「ティファ、エアリス…ごめんね。少し怖かったけど、もう大丈夫」
「本当に?なまえの大丈夫は信用ならないのよね」
「本当だよ、ティファ。だって、みんな探しに来てくれたから」
「だいじょうぶだよ、なまえ。絶対に1人にしないよ」

2人の力強い言葉に安心する。
クラウドが来てくれて、ティファとエアリスの言葉に先ほどまでの恐怖はどこかへ消えてしまう。

目の前に広がる大きな黒い渦の中から現れたモンスターは大きな鎌を構え、臨戦態勢。
ツノを持つ馬が大きく前足を上げて嘶くそれは、まるで開戦の合図。


ーーー何かあれば、呼べ。


そう言ってくれたシヴァに"ありがとう"と告げ、双剣を抜いて目の前の敵に備える。
出来ることなら、シヴァを呼ぶことなく戦闘を終わらせたい。

信じてないワケじゃない。巻き込みたくないだけ。
ただそれも、信じてないことになるのかもしれないけど。
それでも、マテリアなしに召喚する姿を見たことで巻き込んで、危険に晒すことなどしたくはなかったんだ。



ーーーーーーーーーー



駆けつけた七番街スラムでは、既に戦闘が始まっていた。
支柱を守るように飛び交うヘリに銃で立ち向かっているのは、おそらくアバランチ。
それなのに、神羅のヘリは支柱を落とそうとしているのはアバランチだと印象付けるようにマイクで高らかに叫ぶ。
これがハイデッカーの作戦で、兵士たちもそれが真実だと疑いもしていないのかもしれない。
結果、何も知らない兵士たちの言葉は七番街スラムの人たちには真実だと映ってしまっている。

今、それを訴えたところで誰も信じてくれない。
それよりも今やるべきことは、七番街スラムの人たちを逃すこととプレートを落とさせないこと。
教会で会った黒いローブたちに阻まれながら、支柱の真下まで辿りつくと、より戦闘の激しさがわかる。
戸惑いを見せるスラムの人たちも、不安そうに戦闘の行く末を見守り、支柱が落ちないことを祈っているようだった。

「うわぁぁあああ!」
「「ウェッジ?!」」

叫び声が聞こえ、クラウドとティファの声が重なる。
上から落ちてくる男性はワイヤーリールを使い、1度は掴まることに成功したものの、不安定な状態から外れてしまい、落下してしまった。
慌てて駆け寄るクラウドたちに続き、落ちてきた人ーーーウェッジさんに駆け寄る。
ボロボロの状態ではあったけど、命の危険はなさそうだった。
それでも早急に手当てが必要だった。

「クラウドさん、大変ッス。神羅がこの柱を倒して…」
「わかってる」
「行かなきゃ、上でバレットたちが…」
「無理だ。ウェッジを頼む。俺は上へ行く」

ウェッジさんを支えて起こし、無茶をする彼を宥めながらクラウドを見送る。
「治療を任せて」そう告げて、ケアルガを使うとウェッジさんの傷はみるみる内に治っていく。
その様子を驚きの表情で見るティファとエアリスに、そっと微笑む。
今まで、皆の前では魔力を抑えて使っていたため、装備しているかいふくのマテリアはケアルラまでしか使えないことになってた。
それでも今は、ウェッジさんの命がかかっている。
もう誤魔化せないなーーーそう思いながら、傷の癒えたウェッジさんに声をかける。

「大丈夫ですか?」
「痛くないッス」
「なまえ、その魔法…」
「ごめんね…あたし…」
「…ううん、言わなくていい。ウェッジを助けてくれてありがとう」

そう笑ったティファはあたしを抱きしめる。
大丈夫だよ、とそう言うように頭を撫でてくれる。
ティファの横でエアリスも微笑んでくれていて、その2人の優しさが沁み渡る。

いつか、ちゃんと話さなきゃ。
きっと巻き込んでしまうけど、2人なら笑って今みたいに大丈夫だよと言ってくれるだろう。
クラウドにもーーーそう思い、見上げると1機のヘリがある場所を執拗に銃弾を撃ち込んでいる。
そこにクラウドがいる気がして、ティファの腕をぎゅっと掴む。

「ティファ、クラウドのところへ行ってあげて。あそこにいる気がするの…きっと苦戦してる。ティファの力が必要だよ」
「…なまえは大丈夫?」
「うん。エアリスもいるし、ウェッジさんやスラムの人たちのことは任せて」
「わかった。でも、絶対に無茶しないって約束して。クラウドがまた心配するから」
「約束する。マリンちゃんも必ず迎えに行ってくるから」

駆け上がるティファを見送ると、怪我の治ったウェッジさんも続こうとするから慌てて止める。
綺麗に治っているのは見た目だけで、急速に治した所為で無茶をすればすぐに傷口は開いてしまうーーーそう説明すると、ウェッジさんは悔しそうにしながらも納得してくれた。

+αの効果はあるかもしれないけど、自分の身体じゃないからどこまで治せているかわからないし、こんな大怪我を治したのは初めて。
治せてると思っても、本当は治ってないのかもしれないと不安になる。

さらに激しく響く銃撃戦の音や爆発音が響く。
見上げた先にいるかもしれないクラウドと駆け上がったティファと、アバランチの人たちの無事を祈りそっと目を閉じた。



列車墓場を抜けて

prev | next
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -