少し支柱から離れた場所から上の様子を見つめる。
大きな爆発音が聞こえた瞬間、目の前がチカチカとして頭がズキズキと痛む。

久しぶりの感覚。
ずっとなかった"未来をみせる力"が、あたしに何かを訴える。

大きな爆発、誰かがキーボードに"何か"を打ち込むと響くアラート音。
上から順にプレートが崩れ、支柱を破壊しながらスラムへと落下して街を焼いていく。
逃げ惑う大勢の人々の声と爆発音に、護れなかった絶望感だけが胸を締め付けていく。

「、なまえ!」
「…っ?!」
「だいじょうぶ?」

エアリスの声にこっちの世界に意識が戻る。
息を止めてしまっていたらしく、呼吸が乱れたあたしの背中をさすりながら心配そうに覗きこんでいる。
背中に感じるエアリスの掌が温かくて、徐々に息と霞んでいた視界が整った。

「もう大丈夫。ありがとう」
「…なまえ。クラウドのところ、行ってあげて」
「え?でも…」
「クラウドが心配なんだよね?行ってあげなきゃ。きっと、なまえの力が必要だよ」

そう言って、あたしの両手を包み込んだエアリスはふわりと笑う。
きっと、さっきみた映像はこれから起こる出来事。
もしそうなら、プレートは落ちてこのスラムに大きな被害が出てしまう。
それだけは絶対に避けたい。
そうならないために、ここまでやってきたんだから。

「エアリス、あたし…」
「だいじょうぶ。スラムのことは任せて」
「なまえさん、上でビックスとジェシーが戦ってるッス。2人のこと、バレットやティファやクラウドさんのこと、なまえさんに頼んでもいいッスか?」

見つめる2人に頷き、支柱を駆け上がる。
なんとかしてこの支柱を護り抜きたい。
あたしに出来ることなんて限られているけど、そのためにあたしが出来ることは全部やりたい。
無茶はするなって言われたけど、多少はしないといけないかもしれない。

「…シヴァ。貴女の力が必要になるかもしれない」

あたしの呟きに任せろと声が聞こえ、ぐっと拳を握りしめる。
出来るだけ召喚獣を呼ぶことは避けたかったけど 今は背に腹は変えられない。
彼女の力は、あたしの護りたいと思ったときに使えるようになった力。
それならきっと、この力はこういう時にこそ発揮される。

破壊された柵や床、燃え上がる炎が戦場の激しさを再確認させ、上へと進むたびにその激しさは増していくようだった。
倒れる兵士やアバランチの人たちは既に息はなく、その中にビックスさんやジェシーさんがいなければいいと願った。

ウェッジさんに聞いた2人の特徴は、時々リーフハウスで見かけたことがある人たちとそっくりだった。
子供たちと楽しそうに遊びながら、フォリア先生が男の人のことを「ビックス先輩」と呼んでいたことを思い出す。
よく、外の机で本を読んでいた女の子が「ジェシーお姉ちゃんみたいな女優さんになるんだ!」って嬉しそうに教えてくれたことも。

「あれは…ビックスさん!?」

壁に凭れ掛かるビックスさんに近付き、わずかに呼吸があることに安心して、強く魔力を込めてケアルガを唱える。
段々と呼吸が整っていくのを感じ安心していると、ゆっくりと閉じていた瞼が開く。

「あれ…俺…」
「気がつきましたか?!痛いところは?」
「あー…平気みたいだ。アンタが助けてくれたのか?」
「はい…良かった…」
「助かった…あれ?アンタ、伍番街スラムにいなかったか?」
「はい。なまえって言います。ウェッジさんに頼まれて助けに来ました」
「なまえ?もしかして、クラウドやティファの幼馴染の?」

それから立ち上がるビックスさんにここに来た経緯を説明して、上にいるジェシーさんやクラウドたちのことを任せて欲しいことと、七番街スラムの人たちの避難誘導をしているウェッジさんたちを手伝って欲しいと告げる。
ビックスさんは「任せろ!」と言うと走り出していく。
その後ろ姿に、ちゃんと治せたことに安心しつつ、更に上を目指す。
きっとジェシーさんはもっと上の方で戦っているんだと思う。

最上階に近づくにつれ、戦場の激しさは増していく。
今のところ、無事だったのはビックスさんだけ。
皆が命懸けで護ろうとした支柱を出来る限り護りたいと言う思いが強くなる。
大切な人たちの大切な場所なら、部外者だって言われても護りたい。
全てを護りたいなんておこがましいことは言わないけど、目の前にいる人たちだけでも助けられたらと、そう願う。

最上階に近い場所、燃え盛るヘリの近くに座る女の人を発見する。
ビックスさんと同じように呼吸が浅いので、魔力を込めてケアルガを唱えた。
青白かった顔色が徐々に体温を戻し、頬に赤みがさすと呼吸も整ってくる。
ジェシーさんの方が駆けつけるのが遅くなった分重症化していて、より強く魔力を込めた。

「…あれ、お迎えの女神様が見える…死んだ人はこうやって星に還るのかな…」
「女神…?ジェシーさん!しっかり!」
「…え?あれ、わたし生きてる…?」
「大丈夫ですか?痛いところは?」
「大丈夫…みたい。貴女が助けてくれたの?」
「はい。ウェッジさんに頼まれて…ビックスさんも無事です。バレットさんはクラウドたちが向かっているので…」
「ありがと。貴女も早く脱出した方がいいよ。あとは、わたしがなんとかするから」

そう言ってフラフラと立ち上がるジェシーさんを支えながら、これ以上の無茶は危険だと告げる。
あたしに言われなくてもわかっているだろうけど、まだまだ戦いに出られる状態ではない。
このスラムを護るために戦っている彼女に無茶だと告げても無意味なことはわかっていたけど、それでも言わずにはいられない。

「ダメです!この先はあたしに任せてください!」
「部外者の貴女にそこまでさせるワケにはいかない!助けて貰っただけでもありがたいのに、これ以上巻き込むわけには…」
「クラウドとティファの幼馴染なんです。2人の大切な場所護りたいって理由以外に何か必要ですか?」
「幼馴染…もしかして、貴女なまえ?」
「え?あ、はい、なまえです」

ウェッジさんもだけど、ビックスさんもジェシーさんもあたしの名前を知っていた。
クラウドたちから聞いていたのかもしれないけど、あたしが"幼馴染のなまえ"だとわかると、物凄く嬉しそうにしてくれる。
2人が何か話してくれていたのかなと、そう思うと嬉しかった。
心配はかけちゃったけど、あたしが2人の中にいたことがわかるから。

「そっか。貴女がなまえか…ふーん。クラウドが心配するのも頷けるかな」
「それってどういう…?」
「お願いしてもいい?きっと、ここから先は危険だと思うの」
「はい!ジェシーさんの分まで頑張ります」
「お願いね」

そう言って笑みを浮かべるジェシーさんに、ウェッジさんとビックスさんのことを説明すると「避難誘導は任せて!」と足取りも軽く降りて行く。
その姿に安心しながら、上へと続く階段を駆け上る。

途中で聞こえたレノの声。
あれはきっと聞き間違いなんかじゃない。
出来ることなら戦いたくはないけど、支柱を破壊すると言うなら戦うしかない。
うまく立ち回り、あの時みたパスコードを入力すれば支柱落下は防ぐことが出来るーーーみせてくれた"未来"に感謝しながら、階段を駆け上がる。
それでも、色んなことを考えていたら、どんどん気持ちが滅入ってしまう気がする。

「…考えても仕方ない。未来を変える!」

銃声やヘリの音と爆音がより近くで聞こえ、屋上が近いことがわかる。
気持ちばかりが先行し、全速力で駆け上がって来た足が縺れて転びそうになる。
ケアルを自分にかけて、呼吸を整えて前を見据える。

お願いだから間に合ってーーー頭の中はそればかりだった。



ーーーーーーーーーー



「ビックス、無事?!」
「ジェシー!良かった。お前も"女神様"に助けられた1人か?」
「もしかしてビックスも?あの子がクラウドの "女神様"だよね?こりゃ、敵わんなぁ」
「おそらくな。ティファが言ってた小さい頃に別れて行方不明だって…クラウドが言ってた通り生きてたんだな」
「いやぁ、ティファから聞いた時、正直そんな子いる?!って思ってたけど、本当にそのまんま。あれは惚れるー。てか、惚れたー」
「早ぇよ」
「可愛いのにカッコイイんだよ?」
「じゃあ、その女神様が助けてくれた命、大切にしねぇとな。スラム、護るぞ」

なまえに助けられた2人がそう決意し、支柱を駆け降りる。
助けて貰った命を繋ぎ、希望へ繋げるように。
そう決意する2人の足取りは先ほどよりも、ずっとずっと軽やかだった。



支柱の上へ

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