「…、なまえ!」
「ん…あ、れ…ここは…?」
「大丈夫か?」

目を覚ますと、心配した表情を浮かべたクラウドがいた。
少し痛む頭を抑えながらクラウドの手を取り立ち上がると薄気味悪い部屋にいて、気を失う前のことを思い返す。
コルネオの屋敷に着き、2階の控室に行くように言われ、部屋に入ると閉じ込められた上にガスが充満してーーーその後の記憶がない。

「そうだ!ティファは!?エアリスは?」
「おはよう、なまえ。ティファもわたしも無事だよ」
「久しぶり、なまえ。無事で良かった…ずっと心配してたんだよ?」
「ティファも無事で良かった…あたし、あの後ずっと心配してて…」

クラウドの後ろから現れたティファは優しく微笑んでくれた。
その笑顔があの頃と重なって泣きそうになる気持ちをぐっと抑えつつ、ティファがここに来た理由を聞かなきゃいけなかったことを思い出す。
こんな所まで来るぐらいだからよっぽどのことなんだとは思う。
それに、他にも聞きたいことはたくさんあるし、話したいこともたくさんある。

「話はあとだ。なまえも目を覚ましたし、今すぐ出るぞ」
「ダメ!まだ目的を果たしてない」
「目的?」

そこで、ティファはここに来た目的を話してくれた。
七番街スラムでアバランチを探っていたあやしい男たちがいて、それがどうやらコルネオの手先だったらしい。
探っていた目的まではわからずコルネオに直接聞こうと屋敷まで来たが、オーディションの参加者が4人もいて、このままだと作戦が失敗するかもしれないと下を向く。
その言葉を聞いたあたしとエアリスは顔を見合わせて頷く。

「それなら、心配ないよ?残りの3人ってわたしたちだもん」
「そうなの!ティファを助けるために潜入したんだけど、4人が仲間だし、これなら誰が選ばれても安心でしょ?」
「え、でも、2人を巻き込むワケには…」
「そういう遠慮は、おそらく無駄だ」
「でも…クラウド、いいの?」

そう言って、ティファはクラウドに視線を向ける。
チラッとあたしの方を向き、その後でクラウドに耳打ちした後で大きくため息をついた。
「いいはずない」「でも、きっと…」「わかってる」そんな言葉が途切れ途切れに聞こえる。
揉めているワケではなさそうだけど、2人とも険しい顔をしていて心配になる。

成り行きで聞いてしまったけど、ティファもクラウドもアバランチだった。
きっと会話もその関係のことだと思う。
2人がアバランチに参加した経緯はわからないけど、ティファがこんな無茶をした理由はわかった。
思想や魔晄炉を爆破したこと、そんなこと全て抜きにして、神羅を憎む気持ちだけは理解できる。
ティファにとってニブルヘイムでの事件は、それだけ大きな傷となっていて、だからこそ、あたしがアバランチのことを批判する資格はない。
やってしまったことは決して褒められたことじゃないかもしれないけど、批判されることも認めて貰えないことも、全て覚悟の上での行動だと思うから。

「オーディションを始めます!」
「よし、行くぞ」

アナウンスが流れ、クラウドの掛け声と共に開かれた扉の奥の階段を上がると、壁中が金色で豪勢な装飾と豪華な調度品の置かれた部屋に出る。
屋敷に入ったときから思っていたけど、目がチカチカして落ち着かない。

闘技場にいた司会の1人が整列するようにあたしたちに言いながら、ふと、こちらをじっと見て「見たことある顔だなぁ」とクラウドやエアリスの顔も見比べる。
曖昧に笑って首を振ると、不思議な顔をしながらもまぁいいかと諦めてくれたので、小さく息を吐く。
ここでバレてはティファの計画が失敗してしまう。
助けに来たのに、危なく足を引っ張るところだった。

「ドン・コルネオの登場だー!」
「ほひ。いいのー、いいのー」

手下の口上の後で、柱の奥から出てきた男。
この人が、このウォールマーケットを牛耳る男らしい。
ジャラジャラと宝石のたくさんついたブレスレットや指輪をつけ、それが権力の象徴だと言わんばかりで、下卑た笑いと変な口調に背筋がぞわぞわとして全身に鳥肌が立つような感覚になる。

「どのおなごにしようかのぉ。ほひ、ほひー!」

1人ずつ見比べ、上から下まで舐め回すように動かされる視線は嫌悪感しかない。
それでも、怪しまれないようにしなければと引きつらないように笑顔を浮かべる。
ティファの作戦のためだと言い聞かせて、あたしは皆の足を引っ張らないようにしなければと、それだけを考える。

選ばれるのはティファかエアリス。
もしかしたら、クラウドがバレずに選ばれてしまうかもしれない。
そんなことを思っていた矢先、コルネオはくるりと振り返り、あたしたちを見回した。

「決めた!きーめーた。お嫁ちゃんは、このおなごにしよう」

そう指を刺されたのは、ティファでもなくエアリスでもなく、ましてやクラウドでもない。
目の前に立つコルネオは、間違いなくあたしを指差していた。
自分が選ばれるはずもないと完全に油断していたあたしは、咄嗟に反応が出来ずに固まってしまう。

「お花の妖精みたいで可愛いのー。それに初心い反応がたまらん!」

あたしの手を取り、奥の部屋へと進む。
ゾワゾワとして全身に鳥肌が立つようだった。
立ち止まったコルネオは「あとはお前たちにやる」と部下たちに告げると、歓声が上がる。

思わず振り返った瞬間、クラウドと目が合う。
かなり心配した表情をしていたので、安心させるように微笑むと何か言いたそうに言葉を詰まらせれていた。

自信はないけど、やり遂げてみせるよ。
出来るだけ時間を稼げば、きっとクラウドが助けに来てくれるんだよね?

ーーー大丈夫だよ。

そう声に出さずに口を動かしたあたしの言葉は、クラウドに伝わっただろうか。
再び歩き始めたコルネオに手を引かれながら、クラウドの心配した表情が頭から離れなかった。



オーディション

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